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ROYAL BOUNTY  作者: アオキチ
三章 上層 王冠宮

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禍兆な前夜

 フェスカは古い木造の窓から外を見渡す。


 眉は細く目付きも鋭い。

 街の不良みたいな空気を纏っているが威圧感は薄い……妙に擦れている。


 監獄の脱走者を軍国が追跡してたのか?


「軍国から追われてたのか?」

「あぁ? あの戦場での生き残りなんて把握出来ねえ、捕まっても戻る場所は壊滅してる。追われるなら主犯ハミトンだろ」


 もしかして俺は賞金首になってるのか? 掲示板の依頼紙をそこまで確認してないぞ。


「"計画"の準備中にしくじったんだよ」

「計画の準備って……今日やる必要あるのか?」


「今夜決行するんだよ。つってもさっき衛兵に何人か捕まって埋め合わせしなきゃいけねぇ」


 頭を抱えるフェスカは人間と並べば異形なのは間違いないが、話してみると案外普通だ。


「そろそろ行くよ、助けてくれてありがとう」

「巻き込んだ形になったんだ、気にすんな」


 入り口の前に立ち扉の手を掛ける。

 フェスカが魔力根を取り出し口に放り込む。


「何か用事でもあるのか?」

「連れが金に困ってるんだ。ギルドで依頼がないから仕事を探してる」


 フェスカが鼻を鳴らす。

「変わらず甘いやつだ」


 魔力根を歯でカチッと鳴らし口から煙を昇らせ堪能する。


「金の良い仕事があるぞ」

「本当か?」

「仕事の内容は上層で行われるスートレス建国祭の夜会に潜入だ」

 「……順番に説明してくれ。建国祭ってなんだ?」


 フェスカの言葉が一瞬詰まり、頬を掻き視線が上を向く。


「あれだよ、開放領都スートレスで各国集まって国の自慢して飯食うんだよ。詳しくは別の奴に聞いてくれ」


「……分かりやすい説明だったよ。それに潜入してなにするんだ?」

「戦争の火種を作るんだよ」


 フェスカの目付きは鋭くなり言葉が重くのし掛かる。

 戦争の火種? 雲行きが怪しくなってきたぞ。


「"シノ"に会わせる。報酬の分配もそこで決める。連れも一緒なら呼んでくれ」


 シノ? 顔合わせが必要な重要人物のように聞こえるが、まずジェリコにこの話を持っていくのが先決だな。


「相談してみる」


 フェスカは拳を作り壁をノックする。

「日が沈む前にここで落ち合うぞ。空が赤く染まったら、この話は忘れてくれ」


 俺は頷き空き家を出る。真上で太陽が見下ろしている。

 大通りを避けジェリコを探す。

 契約場から出た行き先は――船か。



 ジャンバラヤ号の船内に入り共有スペースを覗くとジェリコが視界に入った。


 革張りの長椅子に腰かけ足と腕を組み魔力根の煙をくゆらせている。


 遮光マスクは外され瞳を閉じている。

 まぶたから隈、切れ長の目元まで黒が濃く縁取り眉間のシワを引き立てている。


「話があるんだが」


 ……反応がない。


 魔物を討伐して魔族を退け依頼をこなした。なのに報酬はロルメに盗まれ残ったのは滞在費と食事のツケ。


 うつわいっぱいに怒りが溜まり少しの刺激で弾けそうだ。


「何で戻ってきた」

 ジェリコの言葉に不気味なくらい感情がない。


 「この船は契約場の物だ、オレの物じゃない。滞納分を払う必要はないぞ」

 「それとも笑いに来たのか? 五〇〇〇コルすら払えず差し押さえだ、面白いだろう?」

 

 ジェリコの言葉に熱が帯びていく。

 目を見開いて立ち上がり両の拳を打ち合わせる。


「あの狐だけは許さん! オレの生涯を賭けて見つけだし――ジャンバラヤ号の残骸であいつの墓標を刻んでやる!」


 塞き止めていた貯水池が決壊したみたいに怒りが噴き出した。

 出かかったなだめる言葉を呑み込む。


 状況は改善しない……逆効果になりえる。


 「なら世話になった滞納分の代わりに仕事を見つけてきたぞ」 


 ジェリコを前に冷静に話している自分に少し驚く。

 怒り狂うジェリコを前にしても足がすくまない。


 この世界に順応し始めているのかもし

れない。


 ジェリコは目線だけをこちらに向け拳の打ち付けを止めた。


 「今夜決行の仕事だ。夜会に潜入して戦争を引き起こすきっかけを作るらしい」


 ジェリコは床に吐き捨てるように小さく呟いてる……聞き取れない。

「報酬はいくらなんだ?」

「……あぁ、交渉しだいだがかなり怪しい――」

「案内してくれ」


 ジェリコは言葉を遮り遮光マスクをつけ、こちらに近付いて立ち止まり目線を合わせた。


「交渉させてくれ、行くぞ」

 腕を掴まれ引っ張られジェリコの焦燥と縋る思いが伝わるぐらい、力強く腕を締め付ける。


 俺から提案したが振り回される事に慣れてきた……この世界はいつもそうだ。


 船を出て目的の空き家へ向かう。



 小路を進み空き家の前にたどり着き扉を叩く。

 太陽が沈むにはまだ時間はある。

「フェスカ、いるか? 仕事の話をしたい」


 扉が開かれフェスカが出迎え「入れ」短く言い放ち、招き入れる。



 扉の向こうには戦争の火種と、後戻りのできない夜が待っていた。

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