覚醒
狐の獣人に魔物が襲いかかる。
片膝をつき肩に銃床を当てる。
照準も曖昧なまま震える手で銃身を押さえ込む。
引き金をひいた。
氷柱が放たれる。
ぶれたはずの軌道が収束していき魔物に衝突して弾き飛ばし、空気が凍りついた。
撃てた……!?
これがミラーラが言っていた。
『定義祈檻』――魔法武器。
視界の端でジェリコが白い蟻の上位種と組み合いになり、背の白い塊が大きく揺れる。
霧状の麻痺が来る! なら炎か!
狐の獣人の炎が脳裏をよぎる。
「フレイ!」
血の気が引き指先の感覚が消えていく。
銃身が紅く煌めく。
白い蟻の上位種の下半身を狙い引き金を引く、火球が噴霧を巻き込み白い塊と足を焼く。
体勢が崩れた瞬間、ジェリコが蹴り飛ばす。
ジェリコが駆け寄り背合わせの状態で魔物と対峙する。
魔族の背後に唯一の入り口が視界に入る。
「全部は相手出来ない。魔族だ! 首を取って離脱するぞ!」
犬の獣人たちは耳をピクリと動かす。
魔族への進路を塞ぐ魔物へ向かう。
ジェリコは魔物を殴りつけ間合いを取る。
「どうするつもりだ?」
「考えがある! 障壁を一点集中で破ろう」
「ハッ! 分かりやすい作戦だな。まずは雑魚の掃除か」
ジェリコは狐の獣人を脇に抱える。
「前は任せろ、合図を待ってるぞ」
撃退しつつ足止めが必要……。
「グラン!」
銃身は琥珀に煌めく。
威力は弱いが素質はある。
なら戦況で使い分ける。
それが俺の戦い方だ。
近付く魔物から距離を取る。
集団へ雑に狙いをつけ引き金を引くと地面がうねる。
魔物の集団から石柱が突き上がり魔物の足が止まり体勢が崩れ、犬の獣人たちが一気に距離を詰める。
狐の獣人が目を覚ます。
「っ……やってくれるわ」
「起きたか! 一気にケリをつけるぞ!」
ジェリコが狐の獣人を降ろし、一体、二体と叩き潰す。
魔物の足が止まった。
流れを作れる、これで押し切れる──。
「煩わしい」
低く構え翅を高速で震わせる。
腹部が発光し粘ついた何かが翅へ流れる。
結晶化し翅がガラスみたいに尖がる。
次の瞬間、跳んだ。
空中で身を捻り弾ける。
翅が砕け無数の刃の結晶が降り注ぐ。
遮蔽物が見当たらない──!
「後ろに回れ!」
ジェリコは魔物の肉塊を掴みあげ盾に使う。
ジェリコの背に回り刃から身を隠す。
犬の獣人たちは刃の届かぬ場所を求め走りだすが、片方が魔物に足を噛まれ転がる。
犬の獣人体中に刃が突き刺さる。
小刻みに震え、刺された箇所が黒く侵食していく。
魔物が群がり飲み込まれる。
「ドーナ!」
犬の獣人は群がる魔物に襲いかかる。
牙を噛み締め、眉間に皺が刻まれ、目は見開かれている。
牙が食い込んでも止まらない。
魔物に覆われていく。
「鯱! 魔力根は!」
「あぁ!? 腰の革袋の中に上等なのが入ってる!」
狐の獣人がジェリコの革袋とポーチを漁る。
降り注ぐ刃が止んだ。
魔族の背が再び脈を打ち翅が開かれる。
狐の獣人は魔力根を取り出し口で噛み潰し、息を吸い込む。
息を止め目を閉じた。
狐の獣人が、白く──淡い青の光に包まれる。
何が起きるんだ?
「舌も涙も焼き尽くす。命請う姿すら叶わない」
魔族を見据え手をかざす。
「蒼炎円舞」
白に近い淡い青の炎が魔物に侵食していく。
炎から逃れるため振り払う姿は踊り狂っている。
魔物に燃え広がり魔族を襲う。
「硝壁」
小さな硝子がきめ細かく敷き詰めたような幕が張られる。
青白い炎の波が障壁に阻まれる。
それでも離れない。
飲み込まんとばかりに食らいつく。
魔族は変わらぬ顔で青白い炎を見つめる。
ジェリコに目で合図を送る。
そのまま魔族へ走り出す。
「フレイ」
銃身が紅く煌めく。
ここからはぶっつけ本番だ……。
青白い炎が勢いを失い障壁から剥がされていく――。
「オルカ・ストライク!」
ジェリコが勢いのまま障壁を殴り付ける。
衝撃が一点に集中し障壁を撃ち抜く。
障壁が破壊される。
魔族の表情が変わる。
「チロス!」
銃身は紅く、碧く、交互に煌めく。
障壁の砕けた箇所、魔族に狙い――放つ。
白い蟻の上位種が魔族を庇うように前へ出る。
空気が張り裂けた。
衝撃が爆ぜ辺り一面に広がり雲のように煙が沸き上がる。
白い蟻の上位種は吹き飛び壁に叩きつけられる。
顔の半分が消えていた。
砕けた甲殻と肉片が崩れ落ちる。
魔族は動かなくなった白い蟻の上位種を一瞥する。
「橋頭堡を維持する戦力を失った。これ以上は無意味だ」
視線で俺を射貫く。
踵を返し魔族が背を向け立ち去る。
その動きに合わせ魔物たちがぴたりと向きを揃える。
無言のままぞろぞろと後に続いた。
「今度こそ終わったのか?」
これが、初めての依頼だった。




