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ROYAL BOUNTY  作者: アオキチ
二章 開放領都スートレス

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魔族

 犬の獣人たちを縛っている縄から解放する……放っておけない。


「ここから先は自分で生きろ!」


 この世界では甘い考えだ。


 犬の獣人たちは一瞬こちらを見る。

 すぐに視線を切る。

 素早く見渡すが退路などない。


 散らばる亡骸へ飛びついた。

 壊れた防具や武器を掴み顔の前に構える。


 狐の獣人はジェリコに襲いかかる魔物を的確に焼き尽くす。


 俺と狐の獣人はジェリコの援護に回る。

 黒い蟻の上位種まで一直線に道が繋がった。


 魔物が間近に迫る。

 この世界の住人に比べれば鈍いが牙は迷わず急所を狙う。


 首を水平に切り飛ばす。

 慣れない剣の重さをねじ伏せて次の魔物の関節を斜めに断つ。


 常に動きを止めず間合いに踏み込めば切り飛ばし、距離を取れば中間に陣取る狐の獣人が近付く魔物を焼く。


 火球がジェリコの周囲をかすめる。

 黒い蟻の上位種までの道が開けた。


 ジェリコは歩幅少なく地面を蹴り音を置き去りに一気に詰める。


 振りかぶり拳を叩きつける。

 黒い蟻の上位種が拳で迎え撃つ。

 衝突が爆ぜる。


 競り合いからジェリコが振り払う。

 黒い蟻の上位種の手刀が目を狙う。

 ジェリコは首を振り頬を掠める。


 ジェリコの蹴り上げた足を膝で止められ、腹を貫く拳を両腕で受けられる。


 黒い蟻の上位種の牙が首へ来るのを懐に潜り込む──合わせた膝が顔にぶつかる。


 ジェリコはのけ反る。

 黒い蟻の上位種の手刀が胸を狙う。

 ジェリコは寸前で掴むが前蹴りを受け吹き飛び、周りの魔物が組み伏せる。


 ジェリコの急所に牙が来るのを顎を掴み押し返すと背の黒い塊が跳ね――腹に針が刺さる。


 ジェリコの顔が歪み肺の中の空気が強制的に押し出され、刺された箇所が徐々に変色していく。


「ジェリコ!」

 魔物の首を跳ね蹴り飛ばす。


「フレイ・レイア!」

 炎がジェリコの周囲を焼く。


「毒よ! ベノムパージ!」

 ポーチから取り出しジェリコに投げ渡す。

 ポーションを飲み干し、拳と片膝を着いた姿勢で息を整える。


 黒い蟻の上位種が歩いてくる。

 狐の獣人の呼吸は荒い。

 魔物の囲みは狭まる。


 俺がやるしかない。


 剣先を黒い蟻の上位種の首へ向ける。


 心臓がうるさい。


 呼吸が鮮明に聞こえる。



「……待て」

 ジェリコが立ち上がり制止する。


「言ったはずだ、任せろ」

 腹の傷が黒く変色している。


 「……ガルド」


 雰囲気が変わり踏み込みが変わった。


 黒い蟻の上位種との距離は近い。

 ジェリコが駆け出す――速い。

 負傷をものともしていない。


 体が強化されてる……あれも魔法なのか?


 塞がる魔物を重ねて殴り飛ばす。

 ジェリコの背後から魔物が迫るのを切り捨て、狐の獣人が焼き払う。


 ジェリコは踏み込み拳を叩きつける。

 黒い蟻の上位種が迎え撃つ。

 ジェリコの拳が弾き飛ばす。


 ジェリコは体勢を崩した腹に脚甲グリーブをめり込ませ、前のめりになった顔を拳で撃ち抜いた。


 倒れる黒い蟻の上位種の前に魔物が押し寄せる。


 軸足を踏み込むと腰の捻転をそのまま脚へと伝え、踵が魔物を砕き吹き飛ばす。


 吹き飛ばされた影から黒い蟻の上位種が現れ、体勢を低くして狙いを定め死角からの手刀が首を狙う。


 ジェリコは寸で腕を差し込み受け止め、腕の関節を膝で蹴りあげ折る。


 折れた腕を掴み引き抜き、黒い蟻の上位種の足を踏みつけ後頭部を掴み地面に押しつける。


 そのまま倒れた背を踏みつけて拳で後頭部を撃ちつけた。


 鈍い音に振動が重なる。


 黒い蟻の上位種は動かなくなった。

 魔物たちの動きが止まり立ち尽くす。


 ジェリコの元に駆け寄り陣形を作る。


「なんだこれ? どうなったんだ?」

「そんなの知るわけないでしょ。さっさと終わらせて帰るわよ」


 頬からアゴにかけて汗が伝う狐の獣人は腰に手を当てる。


 息を荒く重い足取りの犬の獣人たちが近寄ってくる。


「……散々な日になっちまった」

「もう……帰らせてくれ」


 黒い蟻の上位種の首に剣先を突き立て跳ねる。


 魔物の不気味な視線が突き刺さる。

 いや、俺たちが入ってきた入り口を見てるのか?


 視線の先から現れたのは――。


 女だと思った。

 細い輪郭、白い肌、整った顔立ち。


 けど何かが違う。

 あの瞳は光を返さない。

 感情を削ぎ落としたように、こちらを見ている。


「同業者か?」

 ジェリコが脇腹を抑え立ち上がる。


 コツ、コツ、コツ。

 距離を詰めてくると腕が見えた。


 細く長い、人と変わらない……いや違う、指先が異様に細い爪じゃない、刃だ。

 

 視線が落ちる。


 胸元から腹部にかけて白の下に黒が走っており、甲殻が重なり合い鎧のように体を覆っている。


 滑らかに繋がっているはずの節がわずかに歪んでる。


遺物アーティファクトを求めたか」

 異形の女は口を開く。


 遺物? まさか……。

 

 異形の背後で何かが開くが音はない、それでも空気がわずかに震え、気配だけが広がっていく。


 透き通る翅がゆっくりと広がる。

 薄い膜が光を拾い淡く色を変える。 


 視線がさらに引かれる。

 腰の後ろに膨らんだ甲殻の塊がある。


 身体の一部のはずなのに、後から繋がれてるみたいだ。


 関節の奥がわずかに膨らんでいる。

 人の形を保っているのに内側に別の構造が潜んでいる。

 

 喉が鳴る。

 あれは人ではない。

 人の形を借りた何かだ。


橋頭堡きょうとうほを掃討する」


「もう帰るから見送りは必要ないわよ」

 狐の獣人は手を突き付けると火球が走る。


硝壁プロテクト


 細かな硝子片の膜が弾けるように広がり、火球が阻まれた。


「魔法が届かない! 弾かれたのか?」

「魔物は魔法を使わん。あいつは……魔族だ」


 バキッ!


 音のする方を振り返ると狐の獣人が膝をつき倒れる。

 その背後に――白い蟻の上位種。


 剣で切りつけるが躱され距離を取られる。


 どこから現れた? 目線で見渡す。

 柱から白い蟻の魔物が溢れ出る。


 黒い蟻の魔物が魔族の周りを固め、白い蟻の上位種を先頭に魔物が押し寄せる。


 狐の獣人が動かない。

 起こし揺さぶるが反応がない。

 息は……ある外傷はなく気を失っている。


 白い蟻の上位種が距離を詰めてくる。

 迎え撃つように剣で合わせて振り抜く。


 白い蟻の上位種は距離を取り、頭を振り大きく外される。


 ……仕掛けてこない。

 こちらから踏み込み切りかかる。


 ギリギリで避けられる。

 剣筋ではなくこちらの視線を見ている。

 

 ジリジリと詰め寄る。

 間合いに入れば――切り込む。


 白い蟻の上位種は一歩踏み出し、剣を振りかぶる――その瞬間、こちらへ踏み込んできた。


 速い! 剣の柄を押し上げられた。


 ドゴン!


 前蹴りの衝撃が防具越しに伝わる。

 白い蟻の上位種は身を翻すと背の白い塊と目が合う。


 噴霧が顔を覆い化学薬品のツンとする刺激が鼻の奥を叩きつける。


 体の感覚が薄れ膝が抜ける。

 力が入らず腕が垂れ下がる。


 筋肉に砂を噛むようなざらつきが弾ける。


 手刀を振り下ろす構え――動けない!? やられる!



 犬の獣人たちが横から残骸や欠けた防具を白い蟻の上位種に投げ牽制する。

 ジェリコが仕掛け退けらせる。


 犬の獣人が俺のポーチから抗麻痺水パラリシスパージを取り出し飲ませてくれる。


「オレたちが生き残るにはお前の悪あがきが必要だ」


 片割れが俺の手から剣を抜き取る。

「悪く思うな、生き残るためだ」


 犬の獣人たちは唯一の退路を目指し魔物に襲いかかる。


 魔族はこちらを見ているが動きがない。

 こちらを観察しているのか?


 ジェリコは白い蟻の上位種に応戦して犬の獣人たちは連携で補い持ちこたえる。


 視界の端で魔物が狐の獣人に迫っている。

 体は動く……震えと違和感は残る。

 だが、やるしかない。


 背の銃を魔物に狙いを定めた。

 銃口の碧い煌めきが魔族の瞳をわずかに揺らした。

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