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ROYAL BOUNTY  作者: アオキチ
二章 開放領都スートレス

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蟻の魔物と海の捕食者

 犬の獣人に『収穫』を背負わせ麻縄で拘束して荷物持ちと道案内をさせている。


 殺さない。

 戦利品は持ち帰る。

 罰は与える。

 それで決着がついた。


「何でそのガラクタは光ってるのよ」

 狐の獣人の興味を含めた視線が碧い光を覗き込む。


「時間稼ぎで必死に魔法を唱えたら……感覚が、この銃に吸い込まれた?」


 俺だって分からない。


 『交渉』で手に入れた肘当てと革のチュニックを装着しながら思い出す。


「その鈍器は"銃"って名前なのか?」

 ジェリコは銃を一瞥いちべつする。


「知らないのか? 鉛の玉を装填して引き金を引く。火薬に火をつけて、爆発の力で弾を撃ち出す。急所を貫く危険な武器だ」


 犬の獣人たちはお互いの顔を見る。


 狐の獣人は眉を僅かに動かし鼻で笑い、ジェリコに掌を向けてみせた。

 ジェリコは顔の横で、その仕草を振り払うように手を払った。


 本当に知らない反応みたいだ……まぁこれが銃なのかすら怪しいが。



 犬の獣人たちの足が止まった。


「ここからは生態系が変化した魔物の縄張り……誰も近づかない場所だ」

「そうか、家主に挨拶に行くぞ」


 ジェリコは後ろから犬の獣人の首を締め上げ、そのまま前へ押し出す。


 敗者は全てを奪われるが、目は死んでいない、命を賭けて下層で生きている目だ。


 歩み続けるうちに少しずつ景色が変化して残骸を削り抜いたような丸い空間へ変わっていく。


 足元には亡骸が並んでいて、骨だけで体毛すらなく服や防具に荷物が散乱している。


「ここで休憩取るぞ」

「この死骸が散乱する場所で? 敵地の真ん中だぞ?」


 ジェリコは犬の獣人を繋ぎ、腰を下ろし武器の手入れをする。


「魔物が待ち構えるならこの先だ。ここまで逃げてきた跡がある」


「ここで退路を塞がれたでしょ。見張りもいるし準備を整えるだけよ。」


 狐の獣人は亡骸の持ち物を物色している。

 根本的に倫理観が違うのだろう。

 何の躊躇ためらいもない。


「お金無し、食い物無し、ポーションは割れてる。魔力根があるわよ」


 ジェリコは一つ手に取り魔力根を口に入れ、カチッと音を鳴らし煙を吐き出す。


 狐の獣人は魔力根を口に入れる。

 ガリッと音を鳴らし空気を吸い込んだ。


 いつもと違うぞ? 少し気だるさが出てるみたいだが、何が起こったんだ?


「あんたもいる? 魔法使ったなら補給なさい。」

 魔力根を受け取り真似をして口に入れ噛み潰し吸い込む――。


 心臓がドクンッと脈を打つ。

 目がチリチリと焼けるように痛み全身に重みを感じる。


 先ほど失った指の感覚が戻り意識が飛びかける。

 心臓の鼓動が止まらず涙を浮かべ呼吸が荒くなった。


「あんた初めてなの?」

「体力を代償にしたんだ少し休め」


 奇妙な感覚が流れ込んで満ちていく。

 同時に体が削れていく。

 得ているのに失っている。


 噛み合わないなにかが胸の中をぐるぐる駆け回るみたいだ。


 俺が息を整えている横で二人は次の話を始めていた。


「あんたポーション好きなんでしょ。これ、持っときなさい。緑が解毒水ベノムパージ。黄色が抗麻痺水パラリシスパージよ」


 くすんだ緑と明るい黄色の小瓶を渡されポーチにしまう。

 

「魔物の巣穴に見える。相当な数がいるな。獲物を逃がさず狩る上位種がいるかもな」


 ジェリコは見渡し魔力根の煙を昇らせる。

 煙は吸い寄せられるように奥の通路に消えていく。


「俺たちはもういいだろ?」

「道案内して金目の物も渡した」


 犬の獣人たちが諦めたように口を開く。


「お前らは依頼をこなして下層から出る時に開放してやる」


 ジェリコは立ち上がり犬の獣人を再び案内に引っ張りだす。


「コイツらが賞金首なら契約場でお金に出来るわよ?」


 狐の獣人は指を組み、ぐっと伸びる。


 俺たちは休憩を終え奥へ歩みを進める。

 体に残る緩みを無理やり締め直した。


 隊列は索敵に長けてる獣人たち、援護に俺、後方の守りをジェリコで固めた一列だ。

 

 分岐点に差し掛かると、かすかに酸っぱいような匂いと違和感が混じっている。

 獣人たちの案内の元、匂いが強くなる方へ進んだその直後──。



 蟻?


 知っている蟻とは違う。

 人ひとり分の背丈で引き延ばされたように直立している。


 二本で立ちながら脚は刃のように細い。

 黒い外殻は一点の光を反射し節ごとに歪んでいる。


 背後に膨らんだ黒い塊、頭部は蟻のまま。


 光を吸う複眼とギシリッと軋む顎がこちらを向いていた。


 距離を保ったまま、こちらを囲んでいる。

 剣を構え俺とジェリコは横並びに対峙する。

 次々と現れ来た道を埋めていく。


 ……襲ってこないぞ? 一定の距離を保っているのか?


「間違いない。統率されてる」

「統率されてる魔物?」


 ジェリコの言葉に違和感がある。

 軍隊のように動ける虫なんてありえるのか?


 「今さら引き返すなんてないわよ。さっさと依頼を達成させるわよ」


 俺たちを招いてるかのように。

 進むにつれ距離を詰める魔物。


 開けた場所に出た。

 広場の壁に穴の空いた支柱がある。


 傍らに今まで見た人種とも違う、甲殻に覆われた蟻に近い異形な人型が立っている。


「……宿敵……計画……発見」


 宿敵? 計画? それより魔物が言葉をしゃべってるぞ。

 何が起きているんだ?


「上位種か、ここで何をしてた。お前が指揮してるんだな」

「何でもいいわ。軽そうな首、楽勝じゃない」


 狐の獣人は手をかざす。


「我ら……侮る……愚か」

 掠れた声が重なり二重に響く。


 支柱の穴から蟻の魔物が現れる。

 脚の擦れる音が広がり気づけば広場が黒に覆われていた。


 「フレイ!」


 狐の獣人が黒い蟻の上位種に火球を飛ばすと魔物が立ち塞がり燃える。


「上位種は任せろ!」


 ジェリコは魔物を殴り飛ばす。

 魔物の牙は折れ砕ける音が轟く。


 襲いかかる魔物の脇腹を硬質な脚甲グリーブで蹴り砕く。


 関節の節は折れ体は曲がり朽ちる。


 衣服の下に隠れているが背中には小さな背びれの痕跡がある。



 魔物を蹴散らす姿は――海の捕食者だ。

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