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ROYAL BOUNTY  作者: アオキチ
開放領都スートレス

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13/15

追跡者と監察官

「ブラックフォージ軍法会議、開廷」

 重厚な扉が閉じる音が、軍議室に重く響いた。


 長机を囲むのは、軍国の上層部。厚みのある軍装と、権威を誇示したような勲章。

 そのどれもが、ここでは重みを持たない。机の上に置かれた一枚の報告書だけが、この場の空気を支配していた。


 リンプイン監獄、機能停止。

 誰もが理解している。

 それが意味するものを。


「これは国家級の損失! 十年単位の投資が吹き飛んだぞ!」

 机を叩きつける拳は強く握られる。背中の翼から羽が散った。


「将軍。我々が用意した責務を随分軽く捨ててくれたな」

 鱗の並ぶ腕が魔力根を無造作に掴み、口に放り込む。ガチガチと噛み砕き、煙を吐き出した。



「黙れ」



 ガリウの一言で、空間が切り取られたように凍りつく。殺意と敵意の視線が突き刺さる。


「僭越ながら申し上げます」


 殺伐とした空気に踏み込んだのは、短髪で白髪の鳥人だった。瞳は自信に満ちた光を宿している。


「所属と名を紹介してくれないかね?」


 頬杖をつきながら書類を選別する獣人。毛に覆われた手が、興味をなくしたように催促する。


「ブラックフォージ軍国、監察官。エイダ・キュンメネン。白鷺しらさぎの鳥人です。」


 身体に沿う仕立てのベスト。

 動きに無駄がない。


「リンプイン監獄は魔物被害により機能停止。囚人の避難誘導、資産保護の指揮を確認。責務は果たされていたと見る余地があります」


 エイダの報告を聞き、ガリウは訝しげに眉をピクリとさせた。


「例の個体はどうしたのかね?」

「記録が存在しません」


 上層部の鳥人が獣人を睨む。魚人は思案を孕んだ視線を落としている。



「私から一ついいかな?」

 ガリウが口を開く。


「将軍! この失態を抱え申し開きなぞおこがましい! 恥を知れ!」

「ガリウ将軍。それは提案かね?」


 獣人は淡々と口を挟む。場を収めにかかっている。


「例の個体、ハミトン・ローゼは"魔石"を所持し魔物を呼び寄せたと部下から報告があった」


「我々は聞いてないぞ」

 魚人は威圧的にガリウを覗く。獣人は口角を上げガリウの言葉を促す。


「ハミトン・ローゼを捕まえ、軍の、いや貴様の元に連れてこよう」


「……その報告、提案に偽りはないかね?」

「勿論。貴様の研究対象を捕らえ、連れ戻す。……私もここを退く。いかがかな?」


 誰も口を開かない。空気が沈んでいる。


「エイダ・キュンメネン監察官。君も将軍の任に同行しないかね?」


 獣人は下衆な笑みを浮かべ、提案した。この際まとめて追い出す算段が含まれている。

「……拝命しました。これよりガリウ将軍の任に同行します」


「気が済んだなら私はこれで失礼する」

 ガリウとエイダは軍議室の重い扉を開け、退出する。


 軍議室に残った上層部の三人は『例の個体』について協議していた。


「どういうつもりだ! 何を隠してる!? 首謀者は将軍ではなく、魔物を呼び寄せた、その"例の個体"なのか!?」


「魔石とは何だ? 魔物とは何の話だ?」


「――神秘の賜物たまもの。失念していたよ、追い込まれて真価を発揮するとは……我らの野望には必要かね」


 軍議室に様々な思惑が飛び交う。

 軍国の野心が、静かに膨らんでいく。



 石床を鳴らし、ガリウの後をエイダが歩幅を合わせて進む。


「貸しを作りたかったのか?」


「あのままでは、将軍が最悪の事態を招く恐れがあるので、然るべき対処をしたまでです」


「戦場の傷もなく、狡猾に手に入れた椅子に縋る者に」

「私を監獄に追いやった仕打ち、思い知らせるいい機会だった」


 ガリウは立ち止まり、エイダは続けて止まる。

「エイダ。貴様、考えがあって口出したのだろう?」

 

 ガリウは振り向かず、背からは怒りが滲みだし、空気が重く震える。


「将軍。ハミトン・ローゼについてお耳に入れたい事が」

 ガリウは振り向き、睨み付ける。

 エイダはそのまま続けた。


「軍国の記録に“魔石”という総称はありません。どこで知り得た情報ですか?」

「何が言いたい」


「ハミトン・ローゼが現れてから、神秘の賜物や魔石が定義されたのではないですか?」


「エイダ。何を知っている」

「魔物には記録があります。ですが――世界に一斉に定義された可能性があります」


「上層部がハミトン・ローゼを研究対象にしたのであれば、泳がせて真実を突き止めるのが有益かと」


 ガリウは向き直す。

「そんなものに興味はない」


 ガリウは歩きだす。

「あれは私の獲物だ」


 エイダは小走りで距離を合わせる。

「来るのか?」

「貴方がいない場所に興味はありません」


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