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ROYAL BOUNTY  作者: アオキチ
リンプイン監獄

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12/15

脱獄の対価

 沈黙を破る咆哮をあげ巨大ムカデは体を唸らせ、戦場を薙ぎ払う。

 避ける間もなく大勢が巻き込まれ吹き飛び、叩きつけられる。


 戦場は一変する。

 巨大ムカデが暴れまわり、魔物ハチが襲い掛かる。


「もうダメだ、こんなの勝てねぇ……」

「――見ろ。監獄が壊れて逃げ場が出来てる!」


 戦意を失った脱走者達は所々崩壊した壁を見つけ、一目散に戦場から逃げてゆく。

 逃げる脱走者達へ魔物ハチの群れが次々と追いすがる。


「生きてるか!? 囚人は全員逃がした。さっき姉ちゃん拾ったが起きねぇんだ」


 親方に担がれたミラーラは動かない、叩きつけられたのか気を失っている。

 だが息はしてる、肩の負傷以外、外傷はなさそうだ。


「オレッチと姉ちゃんは先にずらかるぜ。お前ら生き残れよ!」

 ミラーラを担いだ親方は一目散に監獄の外へ逃げ出して行く。


「これ以上戦うのは危険だ。私達もこの混乱に乗じて脱出しよう」


 ルーガディは倒れている俺を起こす。無理やり体を動かし撤退する。


 巨大ムカデが逃げる背に牙をカチカチ鳴らす。


 突進して鋭い牙が襲い掛かる。気配に気付いたが避ける事が間に合わない。


 ――突き飛ばされた。



 ローシャの背に鋭い牙が突き刺さる。



 片翼はちぎれ、体は深く抉られ血反吐しつつ、槍を振るい電撃を放ち退かせる。


 間に割って入るようにガリウとルーガディが食い止める。

「勘違いするな、貴様は私の獲物だ。横取りされては屈辱極まる」


 意識を手放さぬよう深く息を吸い、槍を支えに倒れるのを堪える。


「大丈夫か!? どうして……俺のためにここまで」

 心配は感情を抑えつけた疑問に変わり、献身的になるローシャに涙を堪える。


「貴公は……予言の、救世主……」

 息が乱れ、ゆっくりと口を開く。視線が定まっていない。予言の救世主……?


「神託を賜ったのだ……この地に貴公が……」

「魔族が世界に終わりをもたらす……」


 傷が深すぎる。肺に血が入りこんでるのか? うまく呼吸が出来ていない。どこかで治療を、ここにはそんな場所……。


「もういい喋るな! 誰か――誰でもいい!助けてくれ」


 助けを求めた声は混沌に掻き消された。看守達は撤退を始めている。

 囚人達は我先に逃げ出している。

 魔物だけが命の行く末を管理していた。


「真実は……"開放領都"に集う……遺物アーティファクトを探せ……!」


 焦点が定まり俺の腕を力強く掴む。

「救世主ハミトン・ローゼ。貴公は手間が、かかったぞ」


 ローシャはガリウとルーガディの間をすり抜け巨大ムカデに走っていく。

 ――迷いはなかった。

 あまりにも無謀な背中は、霞んで揺らいでいた。


 巨大ムカデはローシャを目掛け、液体を吐きかける。身を翻し避けるが片足に付着し、煙を立たせ肉が焼ける音がする。


 苦痛に歪む顔に容赦なく巨大ムカデが鋭い牙を襲い掛かる。


 「ゴーク グラン!」


 ガリウの詠唱に地面から石柱が次々と飛び出し、脅威である勢いを殺していく。


 牙が届く――刹那。


 ルーガディの戦斧が脅威の牙を折る。ローシャは素早く潜り込み槍を突き上げる。

「我の武勇……ここに刻もう」

 紫の光が災厄を覆い焼き尽くす。


 槍を掲げるローシャの表情は、初めて見る。そこにいたのは――。


 戦場に生きる騎士そのものだった。


 喧騒を焼き焦がし、静寂が再び戦場に訪れる。煤と炭を塗り合わせた銅像は煙を昇らせる。

 真っ先にローシャに駆け寄った。


 生きてる。ルーガディが担いで俺が足止めしよう。逃げ出そう。地図を頼りに治療できる場所を探して――。


 ローシャは俺を突き飛ばした。



「短い付き合いだったな――ゆけ」



 ローシャの体を牙が貫く。

 引き抜かれ――崩れ落ちる。



 何が起きてる……っ、それよりローシャを……どうすれば。


 座り込む俺の目の前にルーガディが立つ。視界が急に上昇した。


 ルーガディが担ぎあげ、走り出す。

 遠ざかってゆく。


「ダメだ……ローシャが……戻ってくれ。お願いだ――」

 懇願も、担ぐその食い込む指には届かない。


「戦場で生涯を終えた名誉、見届けたぞ雷光騎士。殿しんがりは引き受けよう」


 ガリウに狂気の姿はない。真剣な面持ちは弔いに近い、敬意を捧げる行為だった。

 巨大ムカデは動きこそ鈍いが脅威は衰えていない。片牙は折られ、反撃に慎重になり、煤と炭の間から睨み付ける。


 ルーガディは監獄を抜け、森へ走り出す。背後から魔物の追撃が迫る。


「ここからは私が魔物を引き受ける、ハミトン。君なら求める答えに辿り着ける」

 ルーガディは俺を下ろし、戦斧を構える。呆然と座り込む俺には雑音にしか聞こえない。


「行け!」


 大気を震わせる声に、力なく立ち上がり目的もなく、ただ走り出した。



 夕日は沈み処刑のはずの夜を迎えた。

 森を抜け、月光が照らす丘の上。


 どれくらい走っただろうか。

 歩くたびに監獄の思い出が何度も甦る。親方、ミラーラ、ルーガディ。

 そしてローシャの出会いと別れ。


 立ち止まるたびに、背負い袋の重みだけが世界と繋がっている。

 意思とは関係なく手が中身を掻き分けていく。


 生存技術書、地図。

 指に引っ掛かった――魔力根まりょくこん

 心も思考もすがり付くように魔力根を咥える。


 親方に教えてもらったんだ。

 軽く噛み潰し吸い込む、体力が燃焼するように巡る。


 はき出した魔力の残滓は儚く煌めかせ、闇へと霧散していった。


 一瞬、脳が弾ける感覚が頭を駆け抜け、紫の光が瞳をよぎる。


「……不味い」


 煙は監獄の残骸を背に消えていく。

 俺は魔力根を吹かし、歩き続けた。

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