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ROYAL BOUNTY  作者: アオキチ
リンプイン監獄

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10/15

戦場の角笛

 リンプイン監獄に地鳴りのような唸りが響き渡る。


 獲物を狩るための鋭い牙、

 鉄のように硬い巨大な前脚。


 無数の脚をうねらせ、岩壁を砕きながら現れたのは――。


 見上げるほど巨大なムカデだ。節が擦れ合うたびに、骨を軋ませるような不快な音が坑道に響く。


「あの巨大ムカデが魔物!?」

「ムカデ? なんだそりゃ、魔物だろ!  踊る梯子にでも見えんのか!? いいから走れ!」


 ムカデを魔物と認知している。虫って概念がないのか?


 確かなのは、この化物が俺の知る虫の範疇はんちゅうを遥かに超えた、殺意の塊だ。


 親方と共に坑道を離れ鉱山出口を目指す。後ろから看守達が武器を持ち構えて追いかける。


「あれは連鎖装甲機れんさそうこうき!? 何故、大型魔物が……貴様ら、何をした!」


 連鎖装甲機? それより看守が坑道から現れたのは? 最初から脱出路は待ち伏せされてたのか。


「オレッチ達が知るわけねぇだろ!」


「さっきの鉱石は何だ!」

「それは! ……その。盗んだわけじゃなくてだな……」


 巨大ムカデの突進を受け、看守の一人が壁に叩きつけられ沈黙した。


 即座に駆け寄ったもう一人が仲間を背負い上げるが、巨大な牙がその背を深く抉る。


 凄惨な裂傷から鮮血を撒き散らし、看守は必死の形相でその場を走り去った。


「鍵をくれ! その鍵で手当たり次第に居房を空ける。あのデカいのが監獄に突っ込んだら囚人達が死んでしまう」


 俺の気迫に看守は一瞬顔を曇らせる。


 そして居房の鍵を無言で放り投げた。


 二人が鉱山入り口に着くと、ローシャが槍を片手に険しい顔で、口早に尋ねる。


「先ほどの地鳴り、魔物であるな?」

「あぁ、大型の魔物かな?」


「予言は真になったな。貴公らは練兵場に向かい二人と合流し脱出せよ。我は魔物を滅ぼさん」


 言い放つと同時にローシャは鉱山の入り口で魔族を待ち構える。


「鍵はオレッチが預かろう、奴ら逃がして騒ぎを大きくすれば逃げやすいだろ」


「それじゃ親方が……」

「自分の心配するんだな、鍵寄こせ」


 鍵を親方に渡し、短刀を握り構える。

 短い期間とはいえ姿勢は戦士の姿だ。


さまになってるじゃねえか」


 親方は鼻を鳴らし、居房の鍵を開けに走りだす。俺は仲間と合流するため練兵場に向かう途中、ローシャの言動が不思議に感じた。


 予言? 最初から魔族の出没が分かっていたかのようだ。


 それにどうして親身になってくれるのか、考えても分からない。


「今は脱出が優先だな」


 看守達は魔物の応戦のため見張りがいない。練兵場回廊でミラーラ、ルーガディと合流する。


「大型魔物が現れた! ローシャが迎撃に、親方が囚人達を助けに行ってる」


「魔物だと!? こんな時に……なら私達で退路を確保するぞ。急ごう」


 正門を抜ければ監獄から出られる。

 自由を得られると思っていた。


 だが期待は打ち砕かれた。

 正門に――待ち構えていたのは。


 ガリウ・イチ。最悪の展開だ。


「異邦人……貴様が騒動の首謀者だな。まだ悪あがきは終わらないだろう? 銀月の審判まで時間はある」


 鍛え抜かれた肉体に相応の六角鉄鞭ろっかくてつべんを背負い、威圧的なオーラを纏う鬼人。

 絶対的強者が目の前に君臨する。


 気迫に思わず後ずさりしてしまう。

 しかし、ここまで来て後には引けない。


「大型魔物が脅威を振るって監獄を襲撃してるわよ? 私達の相手をしてる余裕があるのかしら」


「私の部下を侮るな、魔物に引けなど取らん。雷光騎士ローシャまで加わって、じきに終息する」


 六角鉄鞭を掲げそのまま振り落とし地面に叩きつける。


 土煙が舞い上がり地面が大きく抉れ、衝撃が練兵場に響いた。


「精根尽きるまで戦え、命懸けの玉砕を聞きたいんだ」


 脱出路の坑道は潰れ、監獄から抜け出すには正門以外に道は無い。


 後方は大型魔物に看守達とローシャの戦場。時間を掛ければ挟み撃ちになりうる状況。


 もし戦闘を避けて脱出してもガリウに捕まる可能性が高い……ならば戦うしかない。

 ミラーラが頷く、ルーガディも続く。 


 この戦いには死が付きまとう。

 それでも退く気はない。

 武器を構えガリウに挑む。


「誰一人逃がさない地獄の門。貴様に破れるか? "リンプイン監獄の門番"」


「その肩書きは今この場に置いていく。私は――"探検家"ルーガディだ」


 ルーガディの戦斧は風を切り裂き首を狙う。

 ガリウは六角鉄鞭で弾き飛ばす。


 ガィィィン――ッ!!

 火花が視界を焼き、遅れて衝撃が骨に叩き込まれる。


「力押しだけで芸がないな」


 ガリウはルーガディの大振りを躱し、鼻に肘を叩きつける。


 顔が歪むルーガディへ、脇腹に六角鉄鞭を打ち込み、鈍い痛みが襲う。


「――ッ!?」


 ルーガディの胸郭は固く閉ざされた檻となり、肺が空気を拒絶している。

 片膝を突き無防備になる。


「立ち直るまで引き付けるぞ!」

 ミラーラは手をかざす。

「チロス」


 氷柱がガリウを目掛け放たれる。俺は短刀で同時に攻撃を仕掛ける。


 ガリウは地面に片手を伏せる。

「ゴーク グラン!」


 せり上がる石柱が氷柱を粉砕。

 残りの石柱が進路を阻む。


 初見の魔法に驚くが、小柄な捕食者のように急停止し、慌ただしく回避していく。


 距離を詰め、渾身の一撃を放つ。


 六角鉄鞭で受ける。手応えがない。

 ガリウの眉がわずかに歪む。

 忌々しげに舌を鳴らした。


「どうした? 弱者の慰み事ばかりで、無益な時を過ごしたようだな!」


 ガリウは鬼気を帯びた顔になり。


 腕に力を込め、競り合う俺を吹き飛ばし、地面に叩きつける。

 

 衝撃で視界が火花に覆われた。

 距離を詰め寄り、六角鉄鞭を振り上げる。


「貴様の力量など雑兵同然。ここで終わりにしてくれる!」


「クロン イドロ」


 ミラーラの詠唱が割って入る。ガリウの眼前に、水の竜巻が立ち塞がった。


 水流が唸りを上げ、ガリウへ襲い掛かった。

 六角鉄鞭を振り下ろし、水の竜巻を両断する。


 開けた視界の先。


 俺はガリウに砂を投げつけ砂塵が舞う。


「うおぉぉぉっ!」


 視界が遮られ死角から、ルーガディが地面を蹴りあげる。勢いよくガリウの脇腹に目掛け、突進する。


 ガリウは肘を入れ防ぐ、一瞬の隙を突かれ。踏ん張りが間に合わず、よろける。


 意識が明確になった俺は、全力で短刀を切り上げる。体勢が崩れているガリウは腕で防ぐ。


 ……浅いっ。


 致命傷には至らないが、一太刀浴びせる事が出来た。


 追い打ちは避け体勢を立て直す。

 連携して戦うため距離をとる。


 呼吸が目立ってきたが、

 まだ十分に体力は残っている。


 三人が構える中、ガリウは傷ついた腕から流れる血を見つめる。


「手を抜いた訳ではないが、私に傷を負わせるとはな」

 ガリウがつぶやくと看守が慌てて走り寄る。


「監獄長。居房が次々と開かれ脱走者が続出してます」


 ガリウは咎めるような視線を俺に投げる。親方が上手い具合に撹乱に成功してくれたみたいだ。


「看守達の半分を鎮圧に回せ」


「続けて報告があります。魔物の増援を確認しました。すぐ近くまで迫っています」


 リンプイン監獄に接近する新たな魔物、その姿は巨大な蜂。子供ぐらいの大きさ。


 警報の音と混じり合う、幾多の翅が空気を震わせる不快な不協和音を鳴らし、群れを成して向かって飛んで来ている。


「監獄長、いかが致しますか」


「……脱獄者は後回しにしろ。魔物を最優先で叩く。掃討用兵器の準備をしろ」


 監視塔から重苦しく、鉄製の歯車が軋み、重低音が組みあげられていく。


 ガリウは看守に指示を出し言い放つ。


「楽しませてくれるではないか」

 警報がリンプイン監獄に鳴り響く。


 戦場の角笛のように響き、これから戦争が始まることを告げているかのようだった。

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