Vol.090【真夜中の殺人事件】
グサッ——……
ケンジ「お、おい……来夢……?」
来夢「ざ、ざまぁ……みやがれ……ケンジ……」
ケンジ「お前……まさか、わざとか……!?」
来夢「ご……愁傷様……だな……」
ケンジ「来夢!!今、救急車呼ぶ!!
待ってろ!!」
来夢「無駄だ……」
来夢は血を吐きながら笑う。
来夢「ここ……圏外なんだぜ……」
ケンジ「っ……!!」
ケンジは辺りを見回す。
人気のない木材置き場。
山奥。
携帯は圏外。
ケンジ「だから……
この場所を指定したのか!?」
来夢「金なんか……最初から取る気ねぇよ……
全部……計画通りだ……」
ゴホッ——!!
大量の血が、来夢の口から溢れ出す。
胸元から噴き出す鮮血が、地面を真っ赤に染めていく。
ケンジ「喋るな!!来夢!!」
来夢「黙れ……」
来夢は震える腕で、ケンジの服を掴む。
来夢「俺はもう……人生……捨ててんだよ……」
ケンジ「来夢……!!」
来夢「沙羅と居た時だけは……
世の中も……まんざら捨てたもんじゃねぇって……」
ゴホッ……!!
来夢「思えたんだけどな……」
ケンジ「やめろ!!もう喋るな!!」
来夢「警察も……救急車も……呼んでも無駄だぜ……
凶器は……沙羅のだ。」
ケンジ「……な……!?」
来夢「ちゃんと……隠せよ……ケンジ……」
ケンジ「お前……何言って——」
来夢「ふっ……お前が捕まれば……
嫌でも凶器を警察に渡す事になる……
捨てたとしても……警察は必死で探すさ……」
ゴホッ!!
ゴホッ!!
来夢「沙羅は……ストーカーの俺を刺した……
そしてお前は……
“自分が刺した”って……沙羅を庇う……」
ケンジ「やめろ……来夢!!」
来夢「お前が捕まって……
凶器が見つかれば……次は沙羅が容疑者だ……
お前は……
一生……引きずって生きるんだよ……」
来夢「…………」
その瞬間——
来夢の瞳から、ゆっくり光が消えていく。
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父親「おい来夢!!
あの家行って、金盗ってこい!!」
来夢「い、嫌だよ……!!」
父親「……あぁ?」
次の瞬間——
父親は来夢の胸ぐらを掴み、
そのまま壁へ叩きつけた。
ガァンッ!!
来夢「ぁ……っ!!」
父親「親の言うことが聞けねぇのか!!」
母親「アンタはねぇ、別に産みたくて産んだ訳じゃないんだよ。
ここまで育ててやっただけでも、感謝しな。」
来夢「だ、だって……!!
俺、まだ小学二年なんだよ……!!
あの家のおじさん……怖いんだよ……!!」
父親「うるせぇぇぇぇ!!」
バキッ!!
ドゴッ!!
ボゴッ!!
小さな身体が、何度も床へ蹴り飛ばされる。
来夢「ぐっ……!!ぁ……!!」
鼻血が、ぽたぽたと床へ落ちた。
母親「あら……。
アンタにも血なんて流れてたんだねぇ。」
来夢「ぅ……。」
母親「そんな暇あったら、さっさと金盗ってきな。」
バシッ——!!
母親は来夢の頬を強く引っぱたいた。
小さな顔が大きく歪む。
来夢の視界が揺れた。
だが父親は止まらない。
父親「手加減してんじゃねぇ!!」
ドスッ——……
来夢「ぐ……ぁ……。」
腹へめり込んだ蹴りに、来夢の身体が小さく折れる。
意識が、少しずつ遠のいていく。
父親「こんな役立たず、さっさと捨てちまえ。」
母親「……もう、疲れたよ。」
その言葉だけが、
薄れていく意識の中に、
静かに残った。
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この世に——
産まれてこなければ良かった。
もし、産まれる時に
“生きる”か“死ぬ”か選べたなら——
どれだけ楽だっただろうな。
産まれた時から栄養失調。
母親のミルクの味なんて、知らない。
それでも生き物ってのは残酷だ。
腹は減る。
喉も渇く。
涙も出る。
俺は——
一度も、心から笑った事なんてなかった。
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Vol.086【インビジブル 】より
沙羅「あ、あの……助けて頂いて、本当にありがとうございました!」
来夢「…………。」
来夢は煙草に火をつけ、沙羅を一瞥した。
来夢「アンタ、学生だろ?
こんな時間に歩いてりゃ、変なのに絡まれて当然だ。」
沙羅「……はい。」
来夢「ちゃんと親安心させてやれよ。」
そう言い残し、来夢は何も言わず歩き去っていく。
沙羅「ま、待ってください!!」
来夢「あ?」
沙羅「名前……教えてください!」
来夢「…………」
紗羅「名前を……教えて?」
来夢「なんで」
紗羅「助けてくれたから名前知りたい。」
来夢「お前、俺が怖くないのか?」
紗羅「助けてくれたのになんで怖がらなくちゃいけないかなぁ。
ね?だから教えて?」
来夢「…………ら……いむ」
紗羅「え?良く聞こえないよ?」
来夢「青柳……来夢」
紗羅「うん!私、水奈月紗羅!
ありがとう!来夢さん!」
来夢「うぐっ……」
ありがとう
来夢さん……
死んだも同然のように産まれてきて
死んだように幼少期を過ごし
ひめぐりの奴からは
クズ、死ね!と言われ
どうしようもないクソみてぇな人生を送ってきた俺……
なのにこの女は俺に……
「ありがとう」って
声を押し殺すように俯き、
来夢は震える手で目元を覆った。
来夢「……ひっ……。
うぅっ……。」
過去の記憶が蘇り張り詰めていた感情が、
静かに崩れていく。
俺は、コイツを利用しようとしてる。
ケンジへ復讐する為に。
なのに……
沙羅「来夢さん……?」
来夢「俺に構うな!!……じゃあな!!」
沙羅「なんで……そんな悲しそうな顔するの?」
来夢「うるせぇ!!関係ねぇだろ!!」
沙羅「放っておけないよ……」
来夢(利用しろ……)
来夢(利用しなきゃ、ケンジを壊せねぇだろ……)
来夢(俺は……あのクソ親の血を引いた人間なんだよ……!!)
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来夢「…………紗羅……」
ケンジ「おい……来夢?
おい!!来夢ッ!!」
来夢「………………」
来夢の唇が、わずかに動く。
来夢「……沙羅を……守れ………」
ケンジ「っ……!!」
来夢「…………」
その身体から、完全に力が抜け落ちた。
ケンジ「う、そ……だろ……?
来夢……おい……来夢!!」
ケンジは震える。
血だらけのナイフ。
来夢の死体。
自分の手。
全てが、現実だった。
ケンジ「沙羅は関係ねぇ……
殺ったのは……俺だ……!!
凶器を……隠さなきゃ……!!
捕まる訳にはいかねぇ……!!
俺が捕まれば……
沙羅が……空央が……!!
証拠を消さなきゃ……
来夢の携帯から……沙羅の情報を……
消さなきゃ……消さなきゃ……!!」
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2017年4月4日未明——
青柳来夢殺害事件、発生。




