Vol.089【カタストロフィ】
4月4日 PM11:35
ケンジ「来夢!!出てこい!!おい!!」
人気のない木材置き場に、ケンジの怒鳴り声だけが響く。
その声に反応するように、暗闇の奥からゆっくり人影が現れた。
来夢「……お前は相変わらず、うるせぇ野郎だな。
深夜だぞ?デカい声出すんじゃねぇよ。」
ケンジ「来夢……」
来夢「で?」
来夢は煙草を咥えたまま、ニヤつく。
来夢「持ってきたか?200万。」
ケンジ「用意出来る訳ねぇだろ!!
こんな時間だぞ!!少しは考えろ!!」
来夢「はぁ?」
来夢は鼻で笑う。
来夢「それは俺が考える事じゃねぇんだよ。
お前が、持ってくるか。持ってこねぇか。
それだけだ。」
ケンジ「無理だ!!」
来夢「なら——沙羅を殺るだけだ。」
ケンジ「っ……!!」
ケンジは奥歯を噛み締める。
ケンジ「お前……そんな事したら、もう取り返しつかねぇぞ!!」
来夢「なぁケンジ……。」
来夢は俯いたまま、小さく笑う。
来夢「俺はなぁ、
最初、お前を崖っぷちから突き落とす為に、
沙羅と付き合ったんだよ。」
ケンジ「……!!
やっぱりお前——!!」
来夢「“やっぱり”だぁ?」
来夢はギラついた目で睨み返す。
来夢「 なんだよ。沙羅から聞いたのか?」
ケンジ「汚ねぇぞ!!お前!!」
来夢「ハッ……。」
来夢は乾いた笑いを漏らした。
来夢「まったく、お前らときたらよ。」
来夢「沙羅は、そんな事までお前に話したのか。
ほんっと、頭に来る野郎どもだぜ……。」
ケンジ「沙羅は、お前が助けてくれたって言ってたぞ!!
あれも全部、沙羅と付き合う為だったのかよ!!」
来夢「あぁ。」
来夢はあっさり頷く。
来夢「正直、“いい人演じる”のは疲れたぜ。
けどな——
こんな腐った俺にも、沙羅だけは優しくしてくれた。」
ケンジ「沙羅は……お前の事を本気で想ってたんだぞ!!」
来夢「……あぁ。」
来夢の目が、ほんの一瞬だけ揺れる。
来夢「皮肉なもんだよな。
復讐の為に近づいたはずなのに、いつの間にか……
俺の方が、本気になっちまってた。」
ケンジ「来夢……。」
来夢「初めてだったんだよ。こんな感情になったのは。
クソみてぇな人生送ってきた俺が、誰かを失いたくねぇって、本気で思った。
だから怖かった。
沙羅が、いつか俺から離れていくのがな。」
ケンジ「……。」
来夢「大学の進学にも反対した。
遠くへ行けば、絶対俺から離れると思ったからだ。」
ケンジ「お前……」
来夢「なのにどうだ?」
来夢は笑いながら、その目だけは壊れたように濁っていた。
来夢「反対した瞬間、“別れる”だとよ。
女ってそんなもんか?」
ケンジ「違ぇよ!!」
ケンジは叫ぶ。
ケンジ「お前の愛が、歪んでたんだ!!
復讐から始まった愛なんか、最初から壊れてたんだよ!!」
来夢「……。」
ケンジ「お前は、沙羅を愛してたんじゃねぇ!!
沙羅に、甘えてただけだ!!
寂しさから逃げたかっただけだろ!!
お前は昔から、愛に飢えてただけなんだよ!!」
来夢「……っ。」
その瞬間、来夢の表情が変わる。
来夢「お前さぁ……。
ここまで来ても、まだヒーロー気取りかよ。
空だけじゃねぇ。
沙羅まで、お前は手ぇ伸ばすのか?」
ケンジ「違う!!
俺は沙羅に、恋愛感情なんかねぇ!!
守りたいだけだ!!」
来夢「クソがぁ……。」
来夢の肩が震える。
来夢「そういうとこなんだよ、お前は!!
無意識に人の心を全部持っていきやがる!!
沙羅にとっちゃ、俺は悪者!!
お前はヒーロー!!
その気が無くても、沙羅はお前を慕う!!
それが……それが許せねぇんだよ!!」
ケンジ「来夢!!」
来夢「地獄に堕ちろよ……ケンジィィィ!!」
次の瞬間——
来夢は懐からナイフを取り出し、ケンジへ突進した。
ケンジ「っ!!」
咄嗟に、ケンジは来夢の腕を掴む。
ギリギリと、刃先が空中で震える。
ケンジ「やめろ!!来夢!!」
来夢「うるせぇぇぇぇぇ!!!!」
互いの腕がぶつかり合い、ナイフが激しく揺れる。
ケンジは必死に、ナイフを奪い取ろうと力を込めた。
だが、次の瞬間。
来夢は突然、ケンジの腕を逆に掴み
そのまま、自らの胸へ。
ナイフを——
突き刺した。
ケンジ「あぁ、ぁぁ……な……なんで……」




