Vol.087【葛藤】
ケンジ「俺と来夢と空央は同じ施設の出身だ!
当然、施設配達員だった東京ツインピクチャーズ人事部の池谷さんも顔見知りだ!
池谷さんはいち早く俺に教えてくれたよ!
“空ちゃんが面接に来た”ってな。
……8月だった。」
沙羅「早いね……」
ケンジ「あぁ。不思議だったんだよ。
なんでそんなに早く、空央が面接に行ったのか。
そしてもうひとつ、空央の事で納得のいかない事があった!
だから俺、漓久にも探りを入れたんだ。
“可愛い娘が入ってくるぞ、どうだ?”ってな。」
沙羅「納得のいかない事?それで漓久は?」
ケンジ「知らねぇし無関心。
だから余計、その理由を知りたくなった。
空央の……本当の目的をな。」
沙羅「……。」
ケンジ「それで俺も、池谷さんから聞いた
“ネバーランド”に入った。」
沙羅「え!?
ケンジもネバーランドやってたの!?」
ケンジ「あぁ。空央と繋がる為にな。
もちろん、漓久にも俺がネバーランドをやってることは言えねぇ!!」
沙羅「だってケンジ、漓久に“ネバーランドなんか興味ねぇ”って言ってたじゃん……」
ケンジ「嘘ついてた。」
ケンジは小さく笑った。
ケンジ「……全く情けねぇ話だよな。これじゃまるでキモいストーカーだ!」
沙羅「でも、知り合いなら直接会って話せばよかったじゃん。」
ケンジ「それが簡単に出来たら苦労しねぇさ。
空央は、興味のない男には一ミリも心を動かさねぇ。
俺は……怖かったんだよ。」
沙羅「怖かった?」
ケンジ「あぁ。
空央に、知らん顔されるのがな。」
沙羅「……。」
沙羅は少し視線を落とす。
沙羅「好きな人に知らん顔されるのって……
辛いもんね。」
ケンジ「……だから俺は、“Kenji”って名前のアバターを作った。
話し方も、文章の書き方も全部、あの頃のままにした。
ダイアリーも、コメントも。
あの時の“俺”を、そのまま空央に伝えたかったんだ。
……気づいてくれると思った。
俺が、ずっとここにいるってことに。」
沙羅「……でも、気づいてもらえなかった。」
ケンジ「そうだ。」
ケンジは拳を握る。
ケンジ「けど、ネバーランドを始めてから、
空央が変わっていくのを見てた。
特に“SoRa”ってアバターに対してな。
そしてそれが、俺にはどうしても納得できなかった。」
沙羅「SoRaって……
漓久がずっと言ってた、あのアバター!?」
ケンジ「そうだ。
俺は、漓久がSoRaと知り合う前から、
SoRaという存在を知ってた。」
沙羅「え!?
じゃあ、あれだけ漓久がSoRaを探してたのに、
知らんぷりしてたの!?」
ケンジ「俺だって、全部話したかったんだよ……
漓久には。」
ケンジは苦しそうに目を伏せる。
ケンジ「だから俺、空央やSoRaのダイアリーに、
わざとコメントを残した。」
沙羅「コメント?」
ケンジ「あぁ。みつきの事や、空央の入社祝いをな。
漓久なら、いつか勘づくと思ったんだ。」
沙羅「いつ書いたの?」
ケンジ「空央には入社式の4月1日。
SoRaには、みつきの見舞い帰り……つまり昨日だ。」
沙羅「じゃあ、漓久がネバーランド見れば——」
ケンジ「気づくかもしれねぇ。
ただ、入社したばかりの空央のアバターは、まだ知らないと思う。」
沙羅「だったら尚更、早く話した方がいいじゃん!!」
ケンジ「……。」
沙羅「漓久、いつか絶対気づくよ?
だったら、ケンジの口から話すべきだよ!」
ケンジ「俺だって……そうしたい!!」
ケンジは苦しそうに頭を抱える。
ケンジ「でも出来ねぇんだよ!!」
沙羅「どうして!?」
ケンジ「俺の中でも葛藤してるんだ!!
漓久に気づいて欲しい。
でも、俺の口からは言えねぇ!!」
沙羅「ケンジ……。」
ケンジ「だからせめて、アイツ自身で辿り着けるように、コメントを残したんだよ……!!」
沙羅「そんなの……余計苦しいだけじゃん!!」
ケンジ「わかってるよ!!」
ケンジは壁を拳で叩く。
ケンジ「俺だって、何度も全部話そうと思った!!
けどダメなんだ……!!
もし、漓久が俺のコメントに気づいて、
“どういう意味だ”って聞いてきても——
俺は……やっぱり話せねぇ……!!」
沙羅「……。」
ケンジ「チクショウ!!!!」
ケンジは俯いたまま、震える声を漏らす。
ケンジ「俺はどうしたらいい……!!」
ケンジ「SoRa……」




