Vol.086【インビジブル 】
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Vol.062【マイガール】より
来夢「まぁ今日のところは見逃してやるわぁ!けど、沙羅!オメェも絶対許さねぇからな!覚悟しとけよ!」
ケンジ「お前ってヤツは!」
来夢「また近いうちに会おうぜ!ケンジちゃん?ヒャははは!!フヒャははははは!!」
ケンジ「あの野郎!」
沙羅「………」
ケンジ「大丈夫か?沙羅!」
沙羅「わ、私……怖いよ!」
ケンジ「心配すんな!俺が必ず何とかするから!」
沙羅「うん……ねぇ?ケンジ?」
ケンジ「なんだ。」
沙羅「空って、桜沢空央って……誰なの?」
ケンジ「………」
沙羅「ねぇ!誰なの?」
ケンジ「俺の過去は、決して明るくはねェ!
漓久やお前にもいづれ話さなくちゃいけないと思ってた。」
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沙羅「ケンジの過去に……いったい何があったの?」
ケンジ「空の話をする前に……まず来夢の話だ。
あいつは、俺が施設にいた頃からの腐れ縁なんだよ。」
沙羅「え……施設って……。」
ケンジ「あんまり話したくはなかったんだけどな。」
沙羅「……うん。でも聞きたい。ケンジのこと。
それに……来夢がなんであんな風になったのかも。」
ケンジ「……だな。」
ケンジ「来夢がああなっちまった以上、沙羅にも危険が及ぶ。」
沙羅「うん……。」
ケンジ「俺が七歳の時、両親が事故で死んだんだ。」
沙羅「じゃあ……今のお父さんとお母さんは……」
ケンジ「里親だ。」
ケンジは遠くを見るように呟く。
ケンジ「突然親が死ぬなんて、あの頃の俺には受け入れられなかった。
母親は最後に、“今日の晩ご飯はハンバーグだからね”って言い残してさ……。
そのまま、二度と帰ってこなかった。
沙羅「……。」
ケンジ「児童相談所や施設の人達が、必死に俺を支えてくれた。
そして行き着いたのが、“ひめぐりの家”だった。」
沙羅「うん……。」
ケンジ「来夢は、俺よりずっと前からそこにいた。
……アイツの過去は、俺なんかより遥かに酷ぇ。」
沙羅「…………」
ケンジ「来夢は完全に、親に捨てられた孤児だ。
一番甘えたい年頃のガキが、ゴミみてぇに捨てられたんだよ。だからアイツも、どっか壊れちまった。
当時の来夢は悪さばっかしててな。俺がいつも止めてた。それで来夢は、俺を酷く恨むようになったんだ。」
沙羅「ケンジと来夢に……そんな過去が……。」
ケンジ「あぁ。
それでな、毎週施設に来てた配達員の池谷さん……今じゃ漓久の会社の人事部長だ。
その池谷さんが、俺の携番を来夢に教えちまったらしい。」
沙羅「……。」
ケンジ「もちろん悪意なんかねぇ。
来夢は“和解したい”って嘘ついて近づいた。
池谷さんも、騙されたんだろうな。」
沙羅「仕返しのために……ケンジへ近づいたってこと?」
ケンジ「多分な。」
ケンジは沙羅を見つめる。
ケンジ「……で、今度は俺の番だ。
沙羅。なんでお前、来夢を知ってたんだ?」
沙羅「……。」
沙羅は視線を逸らした。
沙羅「ケンジに……“知らない”って嘘ついた。
動揺しちゃったんだよ……私。」
ケンジ「お前と来夢、どんな関係なんだよ……?」
沙羅「……私の、元カレ。」
ケンジ「……は?」
ケンジの表情が凍りつく。
ケンジ「な……なんだって!?
いつからだよ!!」
沙羅「高校二年生の頃かな……。」
ケンジ「そんな前からかよ……!!」
沙羅「来夢に口止めされてたんだよ。」
ケンジ「……つまりアイツ、俺が沙羅の近くにいるって知ってたのか。」
沙羅「どうなんだろ……。でも、最初はそんな感じじゃなかった。」
ケンジ「どういう出会いだったんだ?」
沙羅「私、コンビニでバイトしてた時があってさ。
夜シフトだったから、酔っ払いに絡まれる事も多かったんだ。」
ケンジ「お前、部活終わってからバイトしてたのかよ!」
沙羅「へへ……まぁね。
それで、バイト帰りに三、四人のチンピラに絡まれて……。
その時、来夢が助けてくれたの。」
ケンジ「はぁ!?あの来夢が人助け!?
人違いじゃねぇのか!?」
沙羅「ううん。来夢だった。
……あの時の来夢、私にはヒーローに見えたんだ。」
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輩達「なぁなぁ、君可愛いじゃん!
俺らと遊ぼうぜ〜?」
沙羅「やめてください!人呼びますよ!?」
輩達「気ぃ強ぇなぁ〜!いいじゃん、ちょっとくらい!」
沙羅「困ります!!大声出しますよ!?」
輩達「この東京の夜で、助けが来ると思ってんのかよ!」
輩達「ここはそういう街なんだよ!!」
沙羅「きゃああああぁぁぁ!!誰か助けてぇぇぇ!!」
輩達「うわ、マジで叫んだ!アハハハ!!
もっと声出せよ!!」
沙羅「やめて!!誰か!!」
輩達「連れてけ連れてけ!!交代で遊ぼうぜ!!」
沙羅「や、やめ……」
――その瞬間。
なぁ!!
輩達「……は?」
ドゴッ!!
バキィッ!!
ドガッ!!
ボゴォッ!!
男達の身体が、鈍い音と共に路地へ吹き飛ぶ。
沙羅「……す、すごい……。」
来夢「怪我してねぇか……アンタ。」
沙羅「は、はい……ありがとうございます……!」
輩達「てめぇ!!こんな事してタダで済むと思ってんのか!!」
来夢「はぁ?」
来夢は男を睨みつける。
来夢「もう一回ぶん殴られてぇのかコラァ!!」
輩達「ひっ……!!」
来夢「女口説くなら、もっとマシなやり方しろ。」
お前らのやってる事は、クソ以下だ。」
輩達「す、すいませんでした!!」
来夢「ったく……この街は反吐が出る奴ばっかだぜ。」
沙羅「あ、あの……助けて頂いて、本当にありがとうございました!」
来夢「…………。」
来夢は煙草に火をつけ、沙羅を一瞥した。
来夢「アンタ、学生だろ?
こんな時間に歩いてりゃ、変なのに絡まれて当然だ。」
沙羅「……はい。」
来夢「ちゃんと親安心させてやれよ。」
そう言い残し、来夢は何も言わず歩き去っていく。
沙羅「ま、待ってください!!」
来夢「あ?」
沙羅「名前……教えてください!」
来夢「…………」
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ケンジ「……信じられねぇ。
あの来夢が、そんな事を……。」
沙羅「私ね、あの時、一瞬で恋に落ちたの。」
ケンジ「……。」
沙羅「闇抱えてて、寂しそうで、全部一人で抱え込んでて……。
見てるだけで、放っておけなかった。」
ケンジ「確かにアイツは、そういうタイプだからな……。」
沙羅「それから私は、来夢に夢中になった。」
ケンジ「……付き合ったのか。」
沙羅「うん。私から押してた。
不器用だったけど、優しかったんだよ。
顔も怖いし、気も利かないし、口も悪かったけど……優しかった。」
ケンジ「そんな来夢を、なんで……。」
沙羅「最初はね、私が来夢に依存してた。
でも何年かすると、来夢は私を束縛し始めた。」
ケンジ「……。」
沙羅「大学進学にも必要以上に反対して、
段々おかしくなっていって……。
最後はストーカーになった。」
ケンジ「ストーカー……!?」
沙羅「別れ話しても聞かない。警察にも相談した。
でも……何も変わらなかった。」
ケンジ「来夢……。」
沙羅「今思えば、来夢が私に近づいたのって……
ケンジへの腹いせもあったのかもしれない。」
ケンジ「…………。」
沙羅「ごめんね、ケンジ。もっと早く言うべきだった。」
ケンジ「違ぇよ。悪いのは俺だ。
沙羅を巻き込んだのは、俺なんだから。」
沙羅「ケンジ……。」
ケンジはゆっくり口を開く。
ケンジ「空……桜沢空央は、俺の初恋の人だ。」
沙羅「……え?
来夢が言ってた、
“ケンジに死ぬほど大事な奴”って……
空央さんのことだったの?」
ケンジ「あぁ。
当時は“空”って名前で、俺と来夢と同じ施設にいた。
来夢は、いつも空を虐めてた。
だから俺は、アイツを許せなかった。
……気づけば、空の事を好きになってた。
そして今でも——俺は空央を愛してる。」
沙羅「……そうなんだ。」
沙羅は小さく笑った。
どこか、少しだけ寂しそうに。
沙羅「……その空央さん、今どこにいるの?」
ケンジ「ツインライトプロダクション。
三日前から、漓久の部下になった。」
沙羅「……え!!?」




