Vol.072【ナイスパートナー】
篠原「で?どうして空央さんはここへ来たんだ?」
生田「家を出たんだって聞いた。」
篠原「家出?親は!?」
生田「それがね……酷い親だったみたいなんだよ。空ちゃん、毎日暴力振るわれてて、痣だらけだったの!」
篠原「それはいつくらいの話なんだ?」
美麗「確か、空ちゃんがここに来たのって、私が小五の頃だったんだよね。
だから、同い年の空ちゃんも……
小学校四年生くらいまでは、普通に親と暮らしてたんじゃないかなぁ。
それでね——
当時、新宿歌舞伎町で“姉妹の放火事件”ってあったでしょ?
空ちゃん達、そのニュースを見て、“自分たちも、ああなるかもしれない”って怖くなって……
家を飛び出したって聞いた。」
篠原「……ずっと虐待を受けていて、たまたま見た放火事件のニュースをきっかけに逃げ出した、か。」
篠原は低く呟き、静かに視線を落とした。
美麗「そうなんだよ。酷いし……怖いよね。
私は親が病気がちで、事情があって施設に預けられてただけだったからさ。
その話を聞いた時、ほんと腹立ったんだ。」
美麗は少し眉を寄せながら、悔しそうに唇を噛んだ。
篠原「確かに酷い話だな!」
美麗「児童相談所もその親に目をつけてたみたいなんだけど、指導だけじゃ暴力は止まらなかったんだって。
借金で首が回らなくなって、ほとんど学校にも行けてなかったみたい。
それで結局、親が育児放棄したの!ほんと酷い話だよね!」
篠原「だから耐えかねて施設に来たんだな?空央さんは!」
美麗「うん、双子の妹と一緒にね!」
篠原「え!?空央って双子だったのか?」
美麗「そうだよ!二卵性双生児の双子。」
篠原「もう一人の妹の名前は?」
美麗「確か……繭って言ってたなぁ。私は見たことないけどね。
空ちゃんがここに来た時にいなくなっちゃったんだよ!」
篠原「突然消えたと?」
美麗「消えたっていうか……空ちゃんは“私を捨てた”って言ってたけどね。」
篠原「捨てた?妹が姉をか?」
美麗「訳ありみたい。そのあたり詳しく話すと長くなるけど……
大久保さんからは“妹は空ちゃんに気を使って出て行った”って聞いた。」
篠原「空央さんの様子は?」
美麗「そりゃもう……自分だけ取り残されたって思い込んでたから、すごく怒ってたよ。
私にもあまり話してくれなかったし。」
篠原「捨てた……?暴力から一緒に逃げてきたのに、施設に来た途端に離れる?……普通じゃないな。」
生田「でもね、施設の電話から、たまにその子と話してたみたい。」
篠原「なんだと?恨んでるんじゃなかったのか?」
生田「わかんない。でも何回か見たけど……あんまり笑ってる感じじゃなかったなぁ。」
篠原「繭さんが今どこにいるかは?」
美麗「うん、聞いたことない。そもそも繭ちゃんの話、空ちゃんあんまりしなかったし……それに」
篠原「それに?なんだ?」
美麗「大久保さんも、繭ちゃんの所在は絶対に誰にも言わないようにしてるみたい。」
篠原「守秘義務だからじゃないのか?」
美麗「それもあるけど……なんかね、私がまだ未熟だったからわからなかっただけかもしれないけど、警察っぽい雰囲気の人たちだったかなぁ?スーツ姿で、ちょっと普通じゃない感じの“偉い人たち”が何人か来て、大久保さんと話してるのを見たことあるんだ。」
篠原「偉い人?誰だそれは!」
美麗「わかんないよ〜。だから未熟だって言ったじゃん。」
篠原「まぁな……世の中、偉い人なんて腐るほどいる。」
美麗「だよね〜。大久保さんもこの施設の偉い人だし。
偉い人が偉い人に会いに来る、よくある話じゃない?」
篠原「……いや、それと“居場所を隠す”のは別問題な気がするな。」
美麗「まぁ、とにかく!繭ちゃんの居場所は分からないってことで!」
篠原「雑にまとめるなよ……」
篠原「じゃ、桜沢さんの自宅は?」
美麗「中野区の弥生町だよ!行くの?」
篠原「いや、それは無理だな!!行くと空央さんを調べていることがバレてしまう。」
美麗「だね!!どうするの?」
篠原「美麗って、今でも空央さんと仲がいいのか?」
美麗「なんだよ~“美麗”って~!呼び捨て~!照れるじゃん!!」
篠原「そ、そんなところに突っ込むな!」
美麗「だってさ~!呼び捨てって空ちゃんにしかされたことないもん!」
篠原「じゃ生田さん!って呼べばいいか?」
美麗「えーー!なんか他人行儀~!寂しいじゃん!」
篠原「じゃ、美麗でいいじゃないか!」
美麗「うん!それでいい!じゃ、私は篠原!って呼べばいい?」
篠原「なんで年下のお前から呼び捨てにされなきゃならないんだよ!さん付けしろ、さん付け!」
美麗「えー!他人行儀~!じゃ優ちゃんって呼ぶよ!」
篠原「おい、ふざけるな!オッサンに“ちゃん”付けするな!」
美麗「優ちゃん」
篠原「うぐっ……」
――篠原は、初めてだった。
今まで一匹狼で、常にクールな存在として裏社会でも恐れられていた篠原優が、21歳の娘に翻弄されている。
今思えば――
それが、俺とコイツのすべての始まりだったのかもしれない。
美麗「おおっ!決まりだね!」
篠原「なんだお前……もう好きに呼べ……」
美麗「わかってるって(笑)
あ、空ちゃんだよね?うん!今でもたまに会うよ!毎日じゃないけどLINEもしてるし!」
篠原「なぁ、美麗!?お前、俺の弟子だったよな?」
生田「うんうん!!弟子弟子~!」
篠原「じゃあ探偵としての初仕事だ。」
生田「え!?マジで!?なになに?」
篠原「空央さんに会って、繭さんの居場所を聞いてくれ。自然な流れでな。」
生田「えー!難しいよそれ!私、すぐ顔に出ちゃうタイプなんだよね!!」
篠原「顔に出すな!それじゃ探偵失格だ!」
生田「やだやだ!!ちゃんとやるから!!クビにしないで!!」
篠原「お前、本当に俺の弟子なのか?」
生田「任務はちゃんと遂行するから!!ね?」
篠原「……じゃあ、くれぐれも“何気なく”だぞ。わかってるな?」
生田「おっけー!!」
篠原「何か分かったら、さっき渡した名刺の番号に連絡してくれ。」
生田「らじゃ!!」
篠原「ほんとに大丈夫なのか……コイツ……。」




