Vol.070【夏の日差しに現れた女性】
2016年8月10日 AM10:45
蝉の鳴き声が煩く響きわたり、
真夏の日差しが焼け付くような暑さだ。
俺のオンボロ車はエアコンすら効かない。
空央が幼少期に過ごした施設、
杉並にある、さほど大きくない施設。
篠原「児童養護施設ひめぐりの家……ここか!!」
ピンポーン……
篠原は呼び鈴を押した。
ほどなくして、60を過ぎたと思われる初老の女性が姿を現す。
大久保「はい。どなたですか?」
篠原「あ、突然すみません!私、私立探偵の篠原という者です!」
大久保「私立探偵……の方?」
篠原「はい。こちら、名刺です。」
篠原は大久保の様子を伺いながら名刺を渡した。
篠原「何なりとご用命ください。」
大久保「宣伝ですか?」
篠原「いえ、違います。申し訳ありません。実は十数年前、この施設にいた桜沢空央さんについて、少しお尋ねしたいことがありまして。」
その瞬間、大久保の表情がわずかに変わる。
そして、明らかな警戒の色を帯びた。
大久保「あの子が何かしたんですか?」
篠原「あの子……やはり空央さんはここにいらっしゃったんですね。」
大久保「はい。それが何か?」
篠原「唐突なのは承知しています。
ただ少しだけで構いません。
どういった経緯でここに来られたのか、そしてどなたに引き取られたのか——」
大久保「……なぜ空央ちゃんを調べているんですか?
誰かの依頼ですか?
もしそうなら、その依頼人は誰なんです?」
篠原「依頼人の情報はお伝えできません。申し訳ありません。何とか教えていただけないでしょうか。」
大久保は篠原をじっと見据えた。
大久保「いくら探偵の方でも、他人の過去を簡単に教えることはできません。
それに私たちは、ここにいる子供たち、そしてここを巣立っていった子供たちのプライバシーを外部に漏らすことは一切しておりません。
これは法律でも定められていることです。あなたも探偵なら、お分かりになりますよね?」
篠原「……そこを何とか、と言いたいところですが、この状況では難しいですね。」
大久保「ええ、お役には立てません。お引き取りください。」
篠原「分かりました。それでは失礼します。」
大久保は一切の迷いなく、篠原を門前で遮断した。
篠原「参ったな……。ダメ元で来たが、やはり施設の情報は簡単には出てこないか……まぁ、よくあることだ。」
俺は愛車の前まで戻り、タバコに火をつける。
愛煙しているマルボロが、少しだけ気持ちを落ち着かせてくれる。
篠原「あの人……なかなか口を割りそうにないな。っていうか、絶対に喋らないタイプだ。
施設長としての責任感も強い……。さて、どうしたもんか……」
女性「あのー……」
次の手を考えていた、その時。
一人の女性が、俺に近づいてきた――




