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Vol.065【空と繭】

挿絵(By みてみん)


2008年12月22日 AM8:50


空が児童養護施設ひめぐりの家を出てから約2年が経とうとしている。

桜沢家の里子となった空は、過去のあまりにも悲惨な状況が家庭裁判所に認められ、白石空から桜沢空央へと正式に改名した。


空央と繭は、いつしか中学生になり、それぞれ別の学校へ通うようになっていた。

空央の環境は、変わらず恵まれていた。

安定した家庭の中で、何不自由なく勉学に打ち込める日々。

だが、それは最初から用意されていたものではない。桜沢家は、もともと決して裕福とは言えない、ごく普通よりもやや慎ましい家庭だった。

そんな家に、空央が里子として迎えられたとき。

ひとりの人物が現れる。

その人物は大久保と桜沢に、名を明かさないことを条件に、空央の養育にかかる費用を、すべて負担するという申し出だった。

それ以来、桜沢家には毎月、確かに生活と学費を支えるだけの資金が十分に振り込まれ続けている。

誰が、なぜ、そこまでしているのか

その理由を知る者は、いない。


繭も小学校半ばまでは以前の家庭環境からろくに勉強はできずにいたが、学校側の決死の努力で何とか同学年までのレベルに追いつくことができた。


空央と比べれば雲泥の差があったのも事実だが。


空央がまだ空としてひめぐりの家にいた頃から、電話のやり取りは続いていた。

しかし、電話をかけてくるのはいつも繭の方だった。


離れ離れになった2人を想い、互いの里親が、

せめて電話だけでも繋がっていられるようにと携帯電話を持たせていたのだ。


2008年になり2人はようやく会う約束を実現させる。それは約3年前の2005年、初めて空と繭がひめぐりの家に迎え入れられ、繭だけが失踪したあの日以来の再会。

内心、空央は不安でいた。

繭を目の当たりにして自身の理性を保つことができるのかと。

繭を肉親と思う反面、何か言いようのない感情が渦巻く。


そしてあの来夢の言葉が脳裏に焼き付く。


______________________


来夢「そうかぁ?お前は本能的に出してるんだよ!自分でも気づかねぇうちにな!」


空「何をよ」


来夢「憎しみを……だよ!」


______________________


繭「もしもし?お姉ちゃん?明日はイヴイヴだよ!やっと、やっと会えるんだね!」


空央「そうかぁ、いよいよ明日なんだね!」


繭「うん!お姉ちゃん、前から約束してたショッピングにやっと行けるね。私、嬉しいよ!」


空央「そうだね、昼の11:00にヒカリエの前だったよね?」


繭「渋谷久しぶりだな~!!私、109も行きたいな。」


空央「繭は明るくて相変わらずだね。」


繭「ねぇ、お姉ちゃん?」


空央「ん?」


繭「ほんとに……怒ってない?」


空央「なにを?」


繭「あの時、私が施設から突然いなくなったこと。」


空央「怒るわけないじゃない?繭も幸せに暮らしているみたいだし、お姉ちゃん嬉しいよ。」


繭「ホントに?良かった~!私ね、電話してる時、急にお姉ちゃん、黙ってしまう時が時々あったからさ、なんか機嫌悪いのかな?って思っちゃう時あったんだ。だから、ずっと気になってて。」


空央「そうだっけ?私、考え事する癖あるからさ。繭が心配するようなこと、何にもないよ。」


繭「ほんと良かったぁ!余計お姉ちゃんに会えるの楽しみになってきちゃった!」


空央「アハハ!バカだね、繭は!じゃあ繭?そろそろ用意するからまた後でね。」


繭「うんうん!じゃまた後でね、お姉ちゃん。」


この日、空央と繭は、

渋谷へショッピングに行く約束をしていた。




ヒカリエ前

2008年12月22日 AM11:05


繭「お姉ちゃん!お姉ちゃん!!ここだよ!!」


空央「繭!?」


繭「会いたかったよ~お姉ちゃん!元気そうだね!?」


空央「久しぶりだね!繭!随分大人になったね!」


繭「そりゃそうでしょ〜!でも、お姉ちゃんも相変わらず可愛いなぁ~!!双子なのに、私、お姉ちゃんと全然似てないからなぁ。やっぱりお姉ちゃんが一番可愛いよ!」


空央「なに言ってるんだか、繭は(笑)」


二人で過ごす時間は繭にとってとても楽しかった。

そんな楽しそうな繭を見て、空央は、ひめぐりの家で苦しみ悲しんで過ごしてきた日々を思い出し、この状況にわずかな戸惑いを覚えていた。


繭「ねね!お姉ちゃん!!あそこで写真展やってるよ!!入ってみようよ!」


空央「写真展か!いいわね!」


この頃、ヒカリエでは写真展が開催されており、一般公募を含む多くの写真愛好家が、それぞれの作品に合わせた幻想的なブースを設け、展示を行っていた。


繭「うわー!綺麗な写真ばっかり!!みんな凄いんだね!!」


空央「そうだねー!大人が撮った写真は凄いのばっかだよね!?」


繭「こんな綺麗な写真が撮れる大人になりたい!!とても中学生じゃ無理だよー!!」


空央「繭?撮れるわけないじゃん!中学生でこんな写真が撮れたら尊敬しちゃうよ!」


繭「だよね~!あはは」




空央「……」




ある1枚の写真が、強烈に空央の心を強く惹きつける。



繭「ん?お姉ちゃん?どうしたの?」


空央「この写真……見て」


繭「え!?」


空央「綺麗……こんな世界……あるんだ……」


繭「ほんとだ……なにこれ!不思議な世界だね!合成なのかな?」



そして空央の瞳から意味もなく溢れ出す涙。

何かを思い出したかのように流れ出す涙……



空央「涙が、急に溢れてきちゃった……ほんの一瞬だったけど、幸せだったあの頃の初恋を思い出しちゃった。」


繭「あ、あの隣のお兄さんね?かっこよかったね!」


空央「そうね……私は勉強もたくさん教えてもらったけど、もう忘れちゃった……。」


繭「私たちの小さな頃にこんな世界があるって分かってたら、もう少し前向きになれたかもね……なんだか、私まで涙が出てきちゃった。」


繭も同じく、空と寄り添えたあの幸せな頃を思い出していた。

だって2人は同じ日に生まれ、同じ苦しみを分かち合ってきた姉妹なのだから。



空央「私たちが過ごしてきた世界は、暴力に支配された無機質なコンクリートの壁ばかり。」


繭「でも、この写真の世界は、こんなにも美しくて、何の歪みもない。」


空央「ダイヤモンドダスト……」


繭「本当にあるのかな?こんな世界が。」



いつも見ていた二人の世界はとても狭く、

悪意が満ちあふれていた。


その写真を見ていると、そんな感情が吹き飛ばされ、安堵の気持ちが押し寄せてくる。


過酷な人生を送ってきた二人の希望の光が、

その写真の奥の世界にはあった。


とてもキラキラと輝く氷の世界……


冷たいはずの氷の結晶が、二人の心の闇を溶かしていくような。

そんな世界を二人はしばらく見ていた。



繭「誰が撮ったんだろ!!」


空央「南漓久、って書いてあるね」


繭「南さんか、凄いねこの人!!ここはどこなんだろ!」


空央「ダイヤモンドダストは寒い場所で起こる現象だよ!だから北海道じゃないかな?」


繭「さすがお姉ちゃん!よく知ってるね!こんな綺麗な場所が日本にもあるんだね!」


空央「あの人受付の人かな?聞いてみようよ!」


繭「うんうん!!」


空央「あの、すいません。あそこに展示してある写真って……」


男性「はい?あ、さっきからあの写真をずっと見てくれてた子たちだね。」


繭「おじさんが撮ったんですか?」


男性「いやいや、私じゃないよ。」


空央「じゃあ、知ってるんですか?あの写真を撮った人!」


男性「もちろん!!」


繭「誰なんです?プロの写真家の人ですか?」


男性「私の息子だよ!」


空央「え!?おじさんの息子さん?」


繭「嘘だぁ!」


男性「私の名前は南秋人。そしてあのダイヤモンドダストの写真を撮ったのが息子の漓久だ!」


空央「おじさんの息子さんって……」


繭「まだ若いんじゃないんですか?」


秋人「中学3年生だよ!君たちと同じくらいなのかな?」


繭「え!?私たちは中学2年生だよ。」


空央「1年先輩なだけって……」


秋人「そうかぁ!君たちはどこから?渋谷までわざわざこの写真展を見にきたのかな?」


繭「私は世田谷から、お姉ちゃんは中野からです。」


秋人「お姉ちゃん?姉妹なの?見たところ同じ歳に見えるけど、双子さんかな?」


空央「はい、訳あって別々に暮らしてます。」


秋人「そうか、若いのに大変だな!ところで君?」


繭「はい。」



秋人「世田谷に住んでるなら漓久と同じ中学かもしれんな!まぁ、可能性は低いけど。」


空央「おじさんと漓久さんは世田谷なんですか?」


秋人「そうだよ。」


繭「漓久さん、今日は来てないんですか?」


秋人「実はこの写真は漓久に黙って出展したんだ。」


空央「え!?なんでですか?」


秋人「漓久は写真を撮るのは好きみたいだが、こういう場に出すのは嫌がってる。」


繭「そんな、こんなに綺麗に撮れてるのに?」


秋人「そうなんだ。だから私がこの写真を出展した!見て欲しかったんだよ!色々な人に、この写真をね。」


空央「確かにもったいないです!」


秋人「別に賞を目指す理由じゃないんだ!写真というものはある意味、様々なメモリアルだ!時に君たちみたいに人を癒し、時に感動させる。そして何よりも大事なのは撮ったその瞬間を大切にすることだ!それはやがて思い出に変わるんだよ!」


空央「思い出?」


秋人「君たちにもあるだろ?今は辛くとも幸せな時の思い出。人はどんな辛いことがあっても、思い出を希望に生きていくこともできる!少なくとも私はそう思っているけどね。」


空央「私たちには思い出の写真が1枚もないの。」


秋人「え?」


繭「うん!ないんだよ、おじさん…」


秋人「そ、そうなのか…悪いことを言っちゃったね。」


空央「ううん、いいの!でもね、おじさん!」


秋人「ん?」


空央「この写真、ダイヤモンドダストの写真が、これから私の生きる希望、そして思い出の写真になるかもしれないね。」


繭「うん!私もお姉ちゃんと同じ!あの写真が私たちの希望や思い出になるのかも!」


秋人「君たちにそう言ってもらえて、この写真を出展して本当に良かったと思うよ!ありがとうね。」



漓久の撮った写真「ダイヤモンドダスト」。


だが空央と繭、二人がこの写真に魅了された未来に光はなかった。


空央が何かを好きになれば、繭もそれを好きになる。

空央はいつも、そうやって繭に譲り、諦めてきた。


漓久に憧れる二人は4日間、毎日その写真を見にき続けた!1日も休むことなく……


そして最終日、漓久の写真「ダイヤモンドダスト」は残念ながら賞を取ることはできなかった。

写真展も終わり、空央と繭は秋人に別れを告げ、それぞれの場所へ帰っていった。


その後も、二人は電話で話すたびに、あの写真と漓久についての話をしていた!

時が経つにつれ、やがて二人のその想いは漓久に会いたいという気持ちに変わっていった。


______________________


2009年2月


繭「もしもしお姉ちゃん?私、漓久さんに会いたくなっちゃった!」


空央「繭…」


繭「でも知らない人だし、とっても憧れてしまうんだよね。」


空央「繭の学校にはいなかったの?」


繭「いなかったよ。」


空央「そう、残念だったね…」


繭「お姉ちゃんは会いたくないの?」


空央「私は…」


常に妹を優先する癖が空央に染み付いている。

どんなに空央の感情が漓久にあっても、決して繭には言わなかった。


それはやがてストレスに変わり、繭が施設で消えた憎しみと重なっていく……


______________________


2009年4月


繭「もしもしお姉ちゃん?漓久さん、どこの学校にいるのかな?ひょっとしたらもっと凄い写真撮ってるかもしれないね!」


空央「……」


繭「お姉ちゃん?どうしたの?」


空央「もう…」


繭「え?」


空央「もうやめて…」


繭「お姉ちゃん……なんかあった?」


空央「私の……もう私の前で、漓久さんの話はしないで!!」


繭「お、お姉ちゃん…」



今まで封印してきた繭に対する気持ちが、空央の中で切れてしまった。


長い年月をかけて、じわりじわりと引き伸ばされてきた姉妹の絆は、その瞬間、



音もなく途切れた。



それからというもの、空央は繭の言葉に耳を傾けなくなってしまった。



2009年5月

繭「もしもしお姉ちゃん?今日はテストだったんだ!漢字、結構書けたんだよ?でもやっぱりカタカナが得意だなぁ。」


空央「そんなことで電話してきたの?私も忙しいのよ!」


繭「あれ?お姉ちゃん褒めてくれると思ったんだ……忙しかったんだね、ごめんね。」


空央「繭、私ね!もっともっと勉強して今の中学辞めて進学コースに進むの!高校だって大学だって!だからたかがそんなことくらいで電話してこないで!」


繭「お姉ちゃん…」


この頃から空央は、自分がどこに向かうべきなのかをずっと考えていた。

双子の姉妹で、似ているところも確かに多い。


住んでいる環境が違う以上、漢字を覚えたのもやっとである繭に、学歴で差をつけたい……


空央が繭に対してそんな考えを抱いていたのは、まだ反抗期を迎えたばかりの子どもだったからかもしれない。


______________________


2009年7月

繭「もしもしお姉ちゃん?あ、勉強の邪魔だった?」


空央「あんた暇なの?」


繭「いや、別に…私、お姉ちゃんの声が少し聞きたいかな?って。」


空央「私は聞きたくないね!」


繭「う、うん…ごめんね…またね…」



電話をするたびに、空央は少しずつ冷たくなっていった。

繭の中でも、それが原因で気持ちは次第に消極的なものへと変わっていく。


それでも繭は、そんな空央をひとつも責めなかった。

むしろ、今までわがままを聞いてくれた空央に、これからは自分が優しくしようと誓っていた。


______________________


2010年1月


近い将来、スマートフォンが主流となる携帯電話業界。

その前に使われていたのが、ガラケーと呼ばれる折りたたみ式の携帯電話だった。


この頃はまだ、LINEやInstagramなどは普及しておらず、mixiやブログが主流の時代。

それに対抗すべく、コミュニティツールとして「ネバーランド」というアプリが新たに誕生した。


全国のアバターたちとショートメール機能を使った通信ができ、写真投稿も可能。

さらにメッセージ機能を利用して、友達同士にもすぐになれた。


後のスマートフォン時代に繋がる、ネバーランドの基盤となるアプリだった。



繭「もしもしお姉ちゃん?今、流行ってるんだ、ネバーランド!一緒にやらない?」


空央「なにそれ!勉強で忙しいからやらないわよ!」


繭「勉強の邪魔はしないから、せめてネバーランドの中だけでもお姉ちゃんとちゃんとお話がしたいんだよ……」


空央「インストールしたらもう電話かけてこないわね?」


繭「うん…できるだけ控えるから。」


空央「絶対だからね!」


繭「うん、約束するよ。

で、前にもお姉ちゃんに言おうとしていたことがあったんだけどね、言っていい?」


空央「なによ。」


繭「ネバーランドってアバターを作って名前つけなくちゃいけないんだ。」


空央「言うのはそれだけ?いい加減にしてよね!」


繭「違うの……お姉ちゃんの名前、使っていいかな……」


空央「はぁ?嫌だよ!」


繭「空ってそのまま使わないから、SoRaって名前にしたいんだ。」


空央「SoRa?……それならいいわよ!どうせ、今は空央あおだし、その名前は昔から大嫌いだったから!アンタが使うならちょうどいいわ!」


繭「あ、ありがとう!お姉ちゃん!」


空央「あんたも暇だね!」


繭「う、うん…ごめん……」


二人はこうしてガラケーでネバーランドを始めた!

勉強が忙しい空央に対して、繭はネバーランドの中で様々な友達を増やしていった!


このネバーランド内で、空央は繭に冷たくあしらいながら、たまに会話はしていたが、空央からコメントをすることはなかった。


そして漓久の写真に出会って2年が過ぎた頃。


______________________


2011年3月

繭「もしもしお姉ちゃん?やっぱりお姉ちゃんは凄いな!青陵学院高に入れたんだ!おめでとう!お姉ちゃん!」


空央「あんたとは違うから」


繭「う、うん…」


繭は、漓久と同じ高校に入学した。

無事に入学できたことを空央に伝えようとはしたが、空央に対する劣等感がむき出しになり、結局伝えることはできなかった。

もちろん繭は、自分が入学した高校に、あのダイヤモンドダストを撮影した漓久がいることなど、知る由もなかった。


______________________



2011年5月

繭「もしもしお姉ちゃん?」


空央「アンタもしつこいわね!なんか用?」


繭「実は……」


空央「何!いつも喋りかけてやめる癖、うざいんだけど!」


繭「ご、ごめん…また今度話すよ!」


空央「別にもう話さなくていいわよ!」


繭「う、うん…じゃあ…またね…」



その後の桜沢空央は


2011年6月

この月、桜沢家で悲しい出来事が起こってしまう。

空を引き取った桜沢貴也が、妻の幸恵と空央を残し、歩行中に交通事故に巻き込まれ死亡。

運転していた男は過失運転致死傷罪で逮捕された。

夫の突然の死に幸恵はショックのあまり心因性食欲不振になり、空央は再び絶望の縁に立たされる。

その後、空央は母親の幸恵を支え、共に暮らしていく日々が続く。



2012年3月

夫を亡くした寂しさを紛らわせるためか、幸恵は配達業者で共に働く川村成行と恋仲になる。

空央に対しても優しく振る舞う素振りを見せる成行だったが、短期間で幸恵の心の隙間に入り込んできた彼に、空央は不信感を抱いていた。



2012年5月

桜沢という苗字はそのままにし、幸恵は成行と再婚。

成行は自宅のアパートを引き払い、桜沢家に転がり込む形となる。

だが幸せな日々は長くは続かなかった。



2012年7月

このころからスマートフォンは急速に普及し始めた!

ガラケーでしか遊べなかったネバーランドも、本格的にスマートフォンへ移行し、様々なサービスができるようになった。


空央は4年前に出会った写真、ダイヤモンドダストを今でも忘れずにいた。

それと同時に南漓久のことも密かに友人などを伝い探していた。

そしてついに渋谷にある高校の写真部に南漓久という人物がいるとの情報を友人から聞く!

そして空央は漓久の周りを密かに調べ始める。



2012年10月17日

空央は、漓久が自身の高校の文化祭で写真を出展すると聞き、その高校へ向かった。

そこで繭の姿を目にした空央は、漓久がこの学校にいることを知り、繭がわざと同じ学校に入学したのだと勘違いして激怒する。

日記に感情を殴り書きするが、すぐに破り捨ててしまう。



2012年11月。

繭は、空央の冷たい態度をかき消すかのように、ネバーランドに夢中になっていた。

そして、SoRaのもとに集まるフレンドたちを何よりも大切にしていた。

ある時は長々と悩みを聞き、自身の過酷な幼少期と重ね合わせながら、的確な言葉で支えていた。

それを見ていた空央の中で、繭への怒りは消えるどころか、静かに膨れ上がっていく。

そして、もう1人の自分の分身となるサブアバターYuMeを作り、巧みな作戦で計画を練り、時間をかけてSoRaとフレンドになっていく。

さらに、SoRaを少しずつ追い詰めていくための準備も始める。



2013年4月

幸恵と成行は時折口論するようになる。

原因は成行に懐かない空央にあった!

空央はそんな母を気にかけるも、熱心に勉学に励んだ!

結果、青陵学院大学に入学!



2014年3月

成行とうまくいかない空央は、桜沢家を出ていく決意をする。

幸恵を気にしながらも、ひとり暮らしを始める。

空央は容姿の良さを活かし、夜の接客業で生活費を稼ぎながら大学にも通っていた。

ツインライトプロダクションに入社後、漓久に言い寄る怪しく巧みな話術を身につけたのも、こうした経験があったからこそだった。



2016年4月

高校時代からずっと漓久を追いかけていた空央は、漓久がツインライトプロダクションの動画編集部で働いていることを突き止める!

そして1年をかけて、漓久と同じ動画編集部に入社する計画を少しずつ立てる!



2016年8月

疎遠になっていた繭から、久しぶりに電話が届いた。

繭は今でも空央のことを気にかけている。

しかし、空央が漓久に執着している事実を知らない繭は、ダイヤモンドダストを撮影した南漓久が「Kaito」というアバター名でネバーランドを始めたことを伝える。


それを知った空央は、迷うことなく、漓久の名前を検索した。

そして同時に目にしたのは、SoRaのダイアリー。

そこに綴られていたのは、憧れの漓久へ向けられた、繭の想いだった。


何気ない一文。


だが——


その言葉に触れた瞬間、空央の中で、何かが音を立てて崩れた。


積み上げてきたもの。

信じ続けてきたもの。

胸の奥で必死に守っていたもの。


そのすべてが、跡形もなく砕け散っていく。


そして——


空央は、繭への復讐を選んだ。


2016年11月

空央のメインアバター「あお♡」は、猛烈な中傷コメントで繭を攻撃する。

これまで誹謗中傷されながらも、心の奥底で信頼してきた空央への想いがプツリと切れたSoRaは、「あお♡」をフレンドから外し、ブロックする。


ブロックされた「あお♡」は、SoRaを過去の日記、そして一部のフレンドを残して他のすべてを消し去るところまで追い込む形となった。

空央のサブアバターYuMeは、そんなSoRaの姿を高みの見物していた。



2017年4月1日

空央、ツインライトプロダクションに入社!



2017年4月5日未明

桜沢空央、自宅マンションにて刺殺死体で発見!


あまりにも短すぎた。


始まったばかりの未来は、

わずか数日で、あっけなく断ち切られた。


あのとき見ていた景色も、

手にしかけていたものも、

何ひとつ形になることはなかった。


空央の運命は

あまりにも儚く、そして唐突に終わりを迎えた。



そして



2017年7月7日 七夕

繭「お姉ちゃん…待っててね。もうすぐ…もうすぐ会いに行くね。」


______________________


第1プロローグより


俺の中から何かが消えていく。


 


出会った時の記憶。

大切だったはずの記憶。


 


――「存在」の記憶。


 


姿も知らない。

声も聞いたことがない。


本当に存在しているのかすら分からない。


 


そんな曖昧な「存在」に、あの冬――


俺は、恋をしてしまったのかもしれない。


 


忘れたくないんだ。


だから、

こうして思い出そうとしている。


 


「存在」の名前は――


アバターネーム『SoRa』。


 


俺の、心のオアシスだった。



______________________


Vol.23より


2017年12月15日


雪か。

ちょうど1年前の今頃。


今思えば

SoRaは全てわかってたんだよな?

だから俺に伝えたかった。

SoRaが消えた3ヶ月。


あれは結局


SoRaが真実を求めたから。

そして

現実世界と非現実世界で

もがき苦しむ俺を助けるため。


そして何より


SoRa自身を

俺に見つけてほしかったから。


なぁ?お前?

俺の中で


SoRaがお前だとしても

お前じゃなかったとしても

俺は


仮想世界の中でお前を探し続けることになったんだろうか。


無知な俺にちっぽけな愛をくれて

俺は無邪気に喜び、封印した想いを解き放してしまった。


そんな


ささやかな記憶を呼び起こしてくれたのは

お前だったんだよな。


SoRa。

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