Vol.060【アイデンティティクライシス】
2017年4月9日(日) PM12:20
1時間後 代々木公園
漓久「安藤!!
すまない!
待ったか!?」
安藤「あまりレディを待たせるものじゃないわね!」
漓久「冗談のつもりかよ!
似合わねぇな!」
安藤「これでも刑事以外のオフでは可愛らしいのよ!」
漓久「そうなのか?」
安藤「ふふっ……
容疑者と遊んでる暇はないわね!
早く済ませるわよ。」
漓久「せっかく安藤の素の顔が見られると思ったのに残念だな!」
安藤「そういうのはいらないから!」
漓久「これだよ、イヤリング。」
安藤「ハートの……
イヤリング。」
漓久「随分と安っぽいイヤリングだな!
本当にあの影の女が落としたものかどうかも怪しくなる!
どう見ても小学生か中学生が選びそうな品だ!」
安藤「犯人と思われる者が落としたものに、高級な物か安物かなんて関係ない!
それが思い出の品だとしたら……」
漓久「ん?
どうした?
急に深刻になって。」
安藤「いや……
なんでもない!
ただ、これがあなたではなく真犯人のものだとすると、犯人はやはり女性の可能性が高い!」
漓久「まだ真犯人の物と決まったわけじゃない!
俺もちゃんと容疑を晴らしたいんで慎重に頼むぜ!」
安藤「わかってるわ。
これは預かっておく!」
漓久「俺が犯人じゃないって少しは……」
安藤「疑う余地はまだあるわね!
なんせ記憶障害だから。」
漓久「やっぱ刑事……
容赦ないわ!
で?SoRaの情報は?」
安藤「約束だから全部話してあげる!
最初に言っておくけど、私はあなたがSoRaにどんなイメージを持っているのかは知らない。
でも、それなりの覚悟はしておいてね。」
漓久「あ、あぁ……」
安藤「あなたと空央さんのLINEのやり取りを調べたけど、SoRaが空央さんと双子の姉妹だったことは空央さんから聞いたわね?」
漓久「ああ!
それは桜沢がLINEで言ってたよ!
ビックリして言葉が出なかった!」
安藤「実は私が知ってるSoRaの情報には、芹沢さんにも話していないことがあるの。」
漓久「安藤、そこまで俺に情報を漏らして大丈夫なのか?
俺は容疑者なんだろ?」
安藤「SoRaの件に関しては、警察内部で動くにもリスクが伴うことがあるのよ!
それに、あなたが容疑者でもSoRaを知りたい気持ちは私と同じでしょ?
そこはあなたを信じてるわ!」
漓久「事件の捜査よりSoRaを探す方を優先してもいいのか?」
安藤「言ったでしょ?
捜査とSoRa探しを天秤に掛けるようなことはしないわよ!
SoRaを探すことが事件解決の糸口にもなり、同時に私の夢も叶えられる。
そう考えれば、私の行動は必然じゃない?」
漓久「まぁ、確かに事件に関わる存在ではあると言えばある。」
安藤「あなたが仮に犯人じゃないとしても、必ずSoRaの周りに犯人がいると思ってるの!」
漓久「なんでそう思う!?」
安藤「正直、あなたを疑う決定的な根拠は私には見つからない!
現場に残された証拠だけであなたを犯人だと決めつけるのは、刑事としてあまりにも浅はかよね?」
漓久「やっぱり俺が犯人じゃないと感じてはいたんだな?」
安藤「防犯カメラに女性の姿が映っていた。」
漓久「なんだと?
で?
誰だったんだよ!」
安藤「前にも聞いたわよね?
あなた、本当に女装の趣味はないわよね?」
漓久「おまえな!」
安藤「言ったじゃない!
現実の女は好きになれないって。」
漓久「そういう意味じゃないって言ったろ!」
安藤「そうよね……
帽子とサングラスを身につけていて、誰なのかまでは確認できなかった。」
漓久「犯人は……
女なのか?」
安藤「まだわからない!!
ただ、あなたが空央さんの葬儀会場で見た人物と、防犯カメラに映っていた人物は同一人物かもしれない。」
漓久「ならこのイヤリングは、かなり重要な証拠になるじゃないか!」
安藤「調べられるのは、このイヤリングのメーカーと販売元。
大量生産されたものならかなり難しいけど、販売数が限られているものなら、街頭の販売店やネットショップをリストアップして購入履歴を調べることができる!
その購入者をまず渋谷在住の人物に絞る!
次に被害者の年齢に近い女性を拾い上げれば、このイヤリングの持ち主に近づける!!
その人物を防犯カメラの映像と照合認識ソフトで照合してみる!
ある程度の背格好までは認識できるはず。」
漓久「す……すげぇ……
イヤリング一つでそこまでわかるのかよ……
でも男からのプレゼントかもしれないし、これは玩具に近い!」
安藤「その時は、その男の女性関係を調べればいい!
問題は玩具説よね。」
漓久「さすがに子供の頃の思い出ってなるとキツいぜ。」
安藤「大丈夫!
私はネット解析班。
しらみ潰しに調べてやる!」
漓久「頼もしいな!」
安藤「SoRaの本名、聞きたいでしょ?」
漓久「本名まで知ってるのか!?」
安藤「そこまではわかってる。」
漓久「な、なんて名前なんだ?
SoRaって?」
安藤「改名前の桜沢空央の名前は白石空。
そしてSoRaの名前が白石繭よ。」
漓久「白石……繭。
SoRaの名前はアバターのイメージだけで考えていたから、一気に現実味が増してくる!」
安藤「そうね。
でも繭も改名しているはずよ。」
漓久「その名前は?」
安藤「それはわからなかった!
ネバーランドの運営側に聞いても情報は得られなかったわ。」
漓久「親元を調べてもか?」
安藤「繭は空と一緒に親元から逃げ、児童施設へ逃げ込んでる。そして、すぐに繭だけが失踪してしまった。」
漓久「その施設の人も、繭がどこへ行ったかわからないと?
それはもう事件じゃないか!」
安藤「確かに。
でも現在でも失踪扱いにはなっていない。
前にも言ったけど、誰かのもとへ引き取られている可能性が高い。
しかし、知っているはずの施設長も、それは知らないと言っている。」
漓久「警察でも無理だったか。」
安藤「そこがおかしいの。
警察は大概の事実を突き止めることができる。
でも調べても、その部分だけが不明のままになっている。
これはあり得ないことなんだけど……。
繭が失踪したと思われる施設は『ひめぐりの家』という児童養護施設なんだけど、施設側は繭が空を置いていなくなったと考えている。」
漓久「普通、いなくなれば捜索するだろ!」
安藤「当時はかなり報道された事件よ。
結果見つかったけどその後の行方は……。」
漓久「施設長は知らない……と?」
安藤「おかしな話でしょ?
施設長は何かを隠してる。
それが真実。
法律を盾にして黙秘しているように見える。」
漓久「なぜ身元を隠す?」
安藤「何らかの圧力がかかっているのかもしれない……。
じゃないと説明できない。」
漓久「繭……SoRa……。
こうなると、ネバーランドにいるSoRaというアバターも、より一層正体の見えない存在に思えてくる。」
安藤「私はある仮説を立てている。
あくまでも仮説だけどね。
でも私の中では確信に近いものがある。」
漓久「仮説?なんなんだ、それは!」
安藤「何って……
言っていいの?」
漓久「ど、どういうことだ?」
安藤「これから言うことは、あなたにとって酷だけど!」
漓久「……」
安藤「私なりの仮説、それは……
SoRaは、あなたの近くにいる人物。」
漓久「な、なんだと!?」
安藤「SoRaはあなたがよく知っている人。」
漓久「う、嘘だよ……
信じねぇ!」
安藤「空央さんのいろんな日記を見た!
そこには空と繭があなたを想う気持ちが書かれていた!
残酷なことを言うようだけど。」
漓久「な、なんだよ……」
安藤「二人があなたを好きにならなければ、こんな事件は起きなかった。」
漓久「そ、それは桜沢も言っていたあの話じゃないか……
俺は知らなかったんだよ!」
安藤「そうよね……
あなたが中学生の時に写真展へ出展した『ダイヤモンドダスト』が始まり!」
漓久「当時は知らなかったけど、親父が勝手に出展したやつなんだよ!」
安藤「虐待を受け、絶望に満ちた二人に希望をもたらした写真だったからね!
あなたのお父さんが二人に話したのよ!
撮ったのはあなただって!
それから二人はあなたに夢中よ。」
漓久「そういえば、親父から聞いたことがあった!
俺の写真を気に入ってくれた少女がいたと。
いろんなことを聞かれたから印象に残ってるって!
それが桜沢の言っていた、当時の空と繭だったって訳だ……」
安藤「そんな話をお父さんはあなたにしていたのね。」
漓久「親父から聞いてたことは、すっかり忘れていたよ。
虐待、希望、俺に好意を……
二人のいろんな事実がわかってくるんだな……」
安藤「あなたはSoRaにどんなイメージを持っていた?
神秘的?
それとも憧れ?
『ダイヤモンドダスト』のダイアリーにコメントをくれてから、気になり、好きだという感情が芽生えていた?」
漓久「それは……わからない。」
安藤「あなたが思っていたイメージの裏で、殺戮を繰り返す悲劇の姉妹の姿があったのよ。
控えめな繭に対して、感情を剥き出しにする空!」
漓久「俺のせいで……」
安藤「自分を責めることはない!
もともと二人の姉妹の仲に亀裂が入った原因は、あなたのせいじゃないから。」
漓久「え!!?」
安藤「結局は空と繭のすれ違い。
お互いが助け合って生きていたからこそ起きた悲劇。
繭の思いやりが、空にとっては裏切りに見えた……。
二人とも、まだ子供だったのよ。
空と繭を見てると、あの姉妹を思い出すわ!
歌舞伎町でのあの姉妹を……」
安藤「本来、姉妹って親がいなくなったら、二人で力を合わせて助け合うものよ!!
でも結末は、幸せなものばかりじゃない。
二人の希望があなただとしたら、決して分け合うことのできない存在を、どちらかが諦めなくてはいけない!」
漓久「………」
安藤「『はんぶんこにできないときはどうしよう。』
空がネバーランドに書いた最後のダイアリー。
あなたも見たはず。」
漓久「あのダイアリー。」
安藤「知っていたのよ、空は。
ネバーランドでKaitoとSoRaが仲良く話しているのを……。
それをじっと耐えながら見つめていた!」
漓久「サブアバターのYuMeで俺たちを見ていたのか!
だからSoRaのコメント欄も見られたんだな?」
安藤「私も見ていたから、あなたとSoRaのやり取り!」
漓久「俺は鍵をかけてないし、KoYuKiはSoRaのフレンドだからな。」
安藤「そうね。」
漓久「楽しそうにしてた。
SoRaはとても。」
安藤「仮想世界なら誰でもそうなる!!
私もあなたも。」
漓久「SoRaは知っていたのか?
YuMeが空だって。」
安藤「知っていたのかも……」
漓久「繭は空に対して、かなり挑発的なことをしたってことか?」
安藤「そうじゃないと思う。
あなたを好きだという純粋な気持ちを、ただ言葉にしただけ。
自然に……
純粋に……
それがSoRaなのよ。」
漓久「純粋に……か。
SoRa……かもしれないんだ!
このハートのイヤリングの持ち主は。」
安藤「なぜSoRaだと思うの?」
漓久「いや、なんか……
そんな気がして。」
安藤「SoRaは事件に関係ないんじゃなかった?」
漓久「わかんねぇ!
もう何も、わかんねぇんだ。」
安藤「あなたを……
利用しようと思った!
芹沢さんにも、あなたの内側から入って捜査するように言ったわ!!
まさかあなたが私のアバターを突き止めるとは思わなかったけどね。
そこは私のミスだった!」
漓久「アンタはSoRaが怪しいと思うか?」
安藤「私にも今はわからない。
でも言ったでしょ?
SoRaは私の人生の恩人だって!
SoRaが困っているなら、私だって助けたい!
私を刑事にしてくれたSoRaに対して私ができることは、この事件を解決して、ちゃんとSoRaに報告すること!!」
漓久「あぁ!
報告できるといいな!」




