Vol.041【水面下の取引】
安藤が言った言葉は、まさかの言葉だった。
桜沢にはとても似つかない「復讐」という言葉が安藤の口から出てくるとは。
漓久「なぜそこまで知ってるんだ、安藤さん。有り得ない!いくら警察でも、そこまでの事情を一晩、いや深夜の間に把握するのは無理だろう!」
安藤「無理?無理だと思うのはあなただけかもしれません!私達警察は殺人事件たる悪を徹底的に調べあげる!例えこの身がボロボロになろうとね!どんな情報も、徹底的にね!」
漓久は言葉を失った。
安藤「さて、あなたにここまでお話ししたのは他でもない」
安藤は芹沢がいないことをいいことに、ある条件を差し出してきた。
漓久「取引かよ」
安藤「察しがいいですね!あなたにはSoRaさんの正体を暴いていただきます」
漓久「なんだと?」
安藤「警察は動かない。お分かりですか?あなたの立場も悪くなる!!」
漓久「あんた!!やはり、以前から色んな情報を手に入れてたんだな!なるほど…個人的な理由でSoRaを調べてるって訳か」
安藤「へぇ、何を根拠に」
漓久「目を見ればわかるよ」
安藤「ねぇ、今、芹沢さんがいないから言うけど…あまり警察をナメないでよ?特に私を!」
漓久「SoRaは絶対に関係ねぇ!!」
安藤「私も見解では無実と言ったはず!」
漓久は黙り込んだ。
待機していた芹沢が安藤を呼んだ。
そしてまた俺の所へ戻ってきた。
芹沢「安藤!!もう十分だろ!!今、鑑識の結果が出た!いくぞ!!」
漓久「何がわかったんだ!?」
芹沢「南さん、あなたもまだ私達が捜査している人物の一人だ。お忘れなく」
漓久「ハッキリ容疑者って言えよ!!」
芹沢「これは失礼!容疑者じゃありませんよ。まだ」
安藤「それじゃお邪魔しました!また後ほど!」
帰り際に安藤は芹沢に気付かれないように、そっと俺にメモを渡した。
安藤にはSoRaに対しての感情的な何かがある。
複雑に絡み合う現実社会と非現実社会の一本の線。
この線が解けた時、初めてSoRaの正体がわかるんだ。
芹沢と安藤が部屋を出ていったあと――
俺はしばらく、その場から動けなかった。
机の上に置かれたままのメモ。
そこに書かれているのは、たった一行。
――「SoRaの件で何かわかれば、ここへ連絡を」
漓久「はは」
思わず笑いが漏れた。
刑事が容疑者に連絡先を渡す?
しかも個人的に?
何度考えてもおかしい。
漓久「安藤…あんた、何考えてんだよ」
ただ一つ、確かなことがある。
あの女。
SoRaに対して、異常な執着を持っている。
警察としての捜査じゃない。
もっと個人的な感情。
漓久「復讐か」
あの言葉が、頭から離れない。
桜沢と「復讐」が結びつかない。
だが安藤は、それを口にした。
つまり――
この事件は、ただの殺人事件じゃない。
もっと根の深い何かがある。
俺はメモを握りしめた。
現実と、ネバーランド。
二つの世界が、確実に繋がり始めている。
漓久「SoRa」
お前は何者なんだ。
なぜ、こんなにも多くの人間を巻き込む。
なぜ、消えた。
そして――
なぜ、俺に見つけてほしいなんて言った。
アイタカッタ
ワタシヲシンジテ
ワタシヲミツケテ
あの言葉が、脳裏に蘇る。
漓久「くそっ」
考えれば考えるほど、わからなくなる。
だが――
一つだけ、決めたことがある。
漓久「逃げない」
俺は、この事件から逃げない。
SoRaの正体も、
桜沢の死の真相も――
全部、俺が突き止める。
そのために――
まずは、あの刑事だ。
漓久「安藤」
あんたを利用させてもらう。
そして同時に――
あんたの本当の目的も、暴いてやる。
俺はポケットにメモをしまい、静かに部屋を後にした。
俺の物語はもう――
後戻りできないところまで来ている。




