Vol.106【雨のステラ】
田所は、震えるように息を吐きながら
ナースステーションへ向かった。
モニター越しに見えるみつきの容態は、
明らかに危険域へ入っている。
このままでは——間に合わない。
田所は迷うことなく内線を掴んだ。
田所「……旭川中央総合病院へ繋いでくれ。
血液内科部長、松浦誠先生に至急だ。」
看護師「はい!」
数秒後——
『……旭川中央総合病院、血液内科です。』
田所「東都総合医療センター血液内科主任医師、田所です。
松浦先生をお願いします。」
緊迫した空気が、電話越しにも伝わっていた。
やがて——
低く落ち着いた男の声が響く。
松浦『松浦です。』
田所「松浦先生、お久しぶりです。
単刀直入に言います……患者が危険です。」
松浦『症例は?』
田所「女性、22歳。
重度再生不良性貧血ステージ4。
長期間治療拒否歴あり。
現在、全身状態急激悪化。
SpO2低下、広範囲皮下出血、意識レベル低下。」
電話の向こうで、一瞬沈黙が走る。
松浦『……かなり悪いな。』
田所「えぇ……。
正直、こちらではもう限界です。」
田所は、悔しそうに奥歯を噛み締めた。
田所「頼みます、松浦先生……。
この患者を受け入れてください。」
再び短い沈黙。
そして——
松浦『分かった。
すぐICUを空ける。』
田所「……!!」
松浦『搬送中に急変してもおかしくない状態だ。
輸血ラインは維持。
酸素管理を切るな。
到着次第、こちらで引き継ぐ。』
田所「ありがとうございます……!!」
松浦『田所先生。』
田所「はい。」
松浦『まだ諦める段階じゃない。』
その言葉に、
田所はゆっくり目を閉じた。
田所「……えぇ。」
電話を切ると同時に、田所は振り返る。
田所「医療ジェットの手配はまだか!!
一刻も早く北海道へ搬送しなければ……」
慌ただしく動き出す医療スタッフ達。
その中心で田所だけが、
静かにみつきの病室を見つめていた。
——絶対に、助ける。
その想いだけを胸に。
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2017年4月6日 AM8:06
新宿歌舞伎町 篠原探偵事務所
みつき……
電話の奥で医療スタッフが懸命に処置していたみたいだから、今は信じるしかない!
お前の依頼、確かに引き受けたぜ!
しかし俺も全く厄介な依頼を受けちまったもんだ!
しかもノーギャラだ!
まぁいい!!
しかし驚いたな!
本当にみつきがSoRaだったとは…
架空世界ってココまで人を変えることが
出来るのか…
普段言えないことが何でも言える世界
それがSNSか。
この世界で大きく開花する人もいる
それに対して中傷や批判もある。
良くも悪くも使う奴次第の世界…
みつきはSoRaとして自分なりにいい使い方をしていたんだ
空央はあお♥としてSNSにおけるルールを破った!
それがSoRaを痛めつけてしまった。
みつき…
お前はなんで俺にしか犯人を見つけられないって言った?
犯人を知っているのか?という問いに、お前は答えなかった。
いや――
答えられなかったんだ。
もし本当に犯人を知らないなら、あんな言い方にはならない。
だが、知っているなら警察へ言えばいい。
それが出来ない。
そして、俺にだけ頼んだ。
つまり――
そこには、
警察では辿り着けない何かがある。
始まりはいつも楽しく
終わりはいつも悲しい
お前が犯人に対してやってやれること
せめて自身の意思で出頭し、
自らの罪を軽くしてやる事だったんだな。
そういえば、みつきに依頼をされて
空央を調べていた時に妙な事があったな!
そしてみつきが言い残していた言葉、
記憶を……
彼の記憶を……
取り戻して……
南 漓久か……
調べてみる価値はあるな。
今年は菜種梅雨の影響か
雨が降る日が多かった。
篠原が捜査に出ようとした時に突然振り出さした雨。
空を見上げて思う。
雨か…
これから起こることはみつきにとっても
とても悲しい出来事になるだろう。
東京の雨は、やけに冷たい。
まるで――
SoRaが泣いているみたいだ




