Vol.103【死の輪舞曲】
みつき「もう少ししたら、先生が準備してくれているチャーター機で出発するから。
そして午後から集中治療室に入る。」
ケンジ「いよいよなんだな。」
みつき「うん……色々なリスクがあるからそれしか方法がないって言われた。
東京から旭川まで2時間もかからないと思う。」
ケンジ「気分は?」
みつき「気分はだいぶマシになったけど、
またいつ容体が悪くなるかわからない。
そして、しばらくICUから出られないと思う。
だから今、連絡を取れる人に連絡してるの。」
ケンジ「お前、今こそ漓久が必要なんじゃないのか?
空には悪いけど、あいつが居なくなっちまった以上、もう意地を張る必要もないだろ?」
みつき「だからこそ出来ない!!
今はお姉ちゃんに対して、そんなこと出来ないよ!」
ケンジ「空はもう居ないんだよ……
空はもう……
いないんだ……」
みつき「わかってる……
でも、まだニュースで知ったばかり……
私の中では、まだお姉ちゃんは生きてるの!!」
ケンジ「俺だってそうさ!
空が死んで……
何をしたらいいかわからない!
こうしてお前と話してると、やっぱりSoRaなんだなって思わされるよ。
今の俺は、漓久に余計な心配をかけたくない!!
来夢を殺ったことも……
空のことも……
だから自首するまで、漓久の前では可能な限り普通にしてるつもりだ!」
みつき「うん……
今の漓久君には、ケンジが必要だよ。
だけどケンジ……
あなたは罪を背負ってる。
自分のことも大切にして?
お願いだから……」
ケンジ「わかってる。
それよりみつき、気分は大丈夫か?」
みつき「うん、だいぶいいよ。
ありがとう。」
ケンジ「……うん。
とにかく俺は、漓久に連絡してみる。
実は俺、一昨日から漓久の様子がおかしいことに気づいてるんだ。」
みつき「な、何なの?」
ケンジ「一昨日、ネバーランド内でSoRaのアカウントにコメントしただろ?
あれ以来、漓久の様子が少し違う。」
みつき「コメントって、現実の私が入院したって、SoRaのダイアリーにKenJiとして書き込んだこと?」
ケンジ「あぁ!
アイツ、俺がネバーランドで使ってるKenJiって名前のプレイヤーだって事に気づいたかもしれねぇ。」
みつき「あのコメントは、ちょっと焦った……
昨日と一昨日は、私もSoRaとしてKaitoと話してたから……
何故コメントしたの?
しかも漓久君、ネバーランドやってるしSoRaのダイアリーにも頻繁に来てるからバレるに決まってるでしょ?」
ケンジ「沙羅にも言ったんだけど、アイツに隠しごとするのが辛くてな……
でもお前との約束もあったから、気付いてほしかったんだろうな。」
みつき「全てはネバーランドの中の私の欲望だね。
ケンジには本当に悪いことをしたと思ってる。
ごめんなさい。」
ケンジ「そんなことはもういいんだ!
それより、お前ずっと病院だろ?
ネットカフェもないし、スマホを持たないお前がどうやって?」
みつき「実は篠原さんからノートPC借りてるの。」
ケンジ「篠原って、お前が雇った探偵だよな?
あの人もプロだ。
そのPCなら足はつかないのか?」
みつき「……大丈夫。
私、自分用のSSD持ってるから。
そこから別環境で起動してたの。」
ケンジ「別環境?」
みつき「PC本体は使ってないってこと。
だから、多分……追われにくいと思う。」
ケンジ「……みつき。」
みつき「それに……。
最近ずっと体調悪くて……。
意識飛びそうになりながら返信してたから、返事遅かったの。」
ケンジ「……みつき。」
みつき「ん?」
ケンジ「漓久はいずれ全部知ることになる。
知った時に……
俺は漓久の傍に居たくないんだ。
アイツだって、俺が居たら何も手につかなくなる。
漓久は今もSoRaに夢中だ。
それが“みつき”だって分かれば……
漓久だって何かが変わるかもしれねぇ!!
それがほんの少しの可能性だとしても……
俺は賭けてみたいんだ!
そしてお前も……
長い間閉じこもってた氷の世界から、
漓久と一緒に抜け出すんだよ!!」
みつき「……………」
ケンジ「みつき。
今日は漓久も、警察の方でかなりゴタつきそうだな。
俺はずっと空と接触してないけど……
空は漓久の部下だから、事情聴取とかもあり得る。」
みつき「ケンジ……
これからどうするの?」
ケンジ「漓久と1度話す。
空には……
ひと目会いたかった。
今はまだ、気持ちの整理が出来ない。
みつきはまず、自分の身体を第一に考えろ。
俺が捕まれば、しばらくはお前にこうして話しかけることも出来なくなる。
だから、これからは漓久に頼れ。
お前が好きな、漓久に頼るんだ!」
みつき「……ぅん。」
ケンジ「絶対だぞ!」
みつき「私、頑張って治療するよ……
ケンジ。」
ケンジ「あぁ!それが一番だ!
しかし……
空を殺った奴って誰なんだ……?」
心の痛みと共に、新たな疑問が二人を襲った。
――その時。
みつきの脳裏に、ふと、ある光景が浮かんだ。
みつき「……あれ。」
ケンジ「ん?どうした?」
みつき「……ううん。」
一瞬だけ、みつきの表情が曇る。
みつき「なんか……
少し気になる事、思い出しただけ。」
ケンジ「気になる事?」
みつき「でも、考えすぎかもしれない。」
ケンジ「…………。」
ケンジは、どこか引っかかるものを感じていた。
だがこの時は、それ以上深く聞かなかった。




