7.
いくつかの夜を、森の中で過ごした。火の起こし方にも少し慣れ、乾いた枝を選ぶとすぐに煙が立ち、草の根を炙って食べられるようになった。それでも、空腹と寒さと孤独には慣れなかった。小山の笑顔を思い出すたび、胸がきゅっと締まる。何度思い出しても、感情が薄れない。
「……ごめん」
夜になると、陽介は弱い声で謝るように呟いた。返事は返ってこないのに、それでも呟かずにはいられなかった。
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森を抜けた先に、また村があった。最初の村よりさらに規模が小さく、道は細く、土壁の家がいくつも寄り添うように並んでいた。けれど、外には誰もいなかった。動物の鳴き声も、鍋の音も、人の気配もない。陽介は少し躊躇したが、ここまで来て戻るわけにもいかなかった。
入口のそばで静かに「こんにちは」と言ってみたが、人が出てくる気配はない。陽介は、勇気を振り絞って一軒の家に近づき、木でできた扉を軽く叩いた。
コン、コン。
返事はない。もう一度、少し強く叩いた。すると、中から足音がして、扉がかすかに揺れた。
「……しごと。ある? てつだう……する」
陽介が短い単語を並べると、扉の向こうから短い声が返った。
「ない」
それだけだった。
影が動き、足音が遠ざかり、家の中の気配は消えた。陽介は深く頭を下げたが、誰にも届かないのを自覚していた。
二軒目も同じだった。扉を叩くと、一瞬だけ中から人の気配がした。しかし、陽介が声を発すると、その気配はすぐに奥へ引っ込んだ。陽介は唇を噛んだ。自分が何か怖がらせてしまったのだろうか、単語の発音が悪かったのだろうか。理由は分からない。
ただ、胸が静かに痛んだ。
三軒目の家。日の光が傾き、空気が冷えてきたころだった。陽介がためらいながら扉を叩くと、
今度はゆっくりと扉が開いた。中から現れたのは、背の低い男性だった。年齢はよく分からないが、陽介を見る目は他の村人のような怯えではなかった。男は陽介の泥だらけの服を見て、ひとつだけ息を漏らし、短く言った。
「……しごと、ある」
陽介は顔を上げた。
「……ある? てつだう、する、たべもの、ください」
男は頷いた。
「◯%こい」
陽介の胸が、久しぶりに少し軽くなったように感じた。誰かに必要されるのは、小山以来だった。胸の奥がじんと温かくなり、陽介はそれを押し隠すようにうなずいた。
男が案内した先は、村の裏手にある広い畑だった。土が固まり、柵は壊れ、雑草が腰の高さまで伸びていた。男は陽介に、土を掘るように手で指示を出した。
陽介は慣れない手つきで土を掘り、石を拾い、壊れた柵を持ち上げて立て直した。手のひらが痛み、爪の間に土が入り込んだ。足もガタガタ震え、息を吸うだけで胸が熱くなった。それでも、陽介は手を止めなかった。誰かの役に立てるのが嬉しかった。
“ありがとう”と言われる未来を、どこかで少しだけ期待していた。夕方になる頃、陽介は男のもとへ戻った。顔も服も泥だらけで、指先は震えている。
「……おわった。たべもの……?」
男は陽介を見た。その目に、感謝の色はなかった。表情が少しだけ強張り、短いく答えた。
「……ない」
陽介は息を呑んだ。
「……ない……?」
男は陽介の肩を軽く押し、扉のほうを示した。
「かえる。#◯%%。おまえ、$%◯」
陽介は言っている事の意味を理解するのに数秒かかった。心が追いつかなかった。体に流れ込む疲労よりも、胸の奥に落ちた重い石の方がはっきりした。陽介は何も言えず、その場を離れた。村の外に出るころ、空はもうすっかり暗くなっていた。森へ戻り、火を起こし、草の根をあぶってそのまま口に運ぶ。噛むたびに、小山の笑顔が浮かび、胸がじんと痛んだ。
「……小山」
弱い声は、火の音にかき消された。陽介は膝を抱え、そのまま静かに目を閉じた。




