誠と華
これまでのあらすじ
不思議な女・・・華。
華と暮らし始めた竜二は、ときどき消えてしまいそうなくらい透明になる華を見た。
消えそうなほど透明になる現象は命が尽きる前兆なのか。
華が話し始めた竜二との前世とは・・・
そして再び出会った竜二と華の運命とは・・・
二人が辿る道がこれから明かされる。
『私は前世では女優だったの。
当時は映画が大流行していて、庶民の娯楽と言えば映画しかなかったから・・・
私の母も女優。
スターだったわ。
私と一緒にいるとよく姉に間違えられるくらいに若く見えた。
娘の私から見ても本当に綺麗な母だった。』
『俺が新聞記者で華が女優!?
まったく世界が違うのに、なんで俺は華と脱走したんだ??』
竜二の疑問は当然である。
映画スターと一介の新聞記者が恋に落ちる話などあまり聞いたことがない。
マッチングアプリもない時代の話だ。
『まあ小説だからなんとでも書けるか。』
おいおい。
主人公がなんてこと言うんだ!
華もクスクス笑いながら竜二のバカな話を楽しそうに聞いていた。
『でもね。
私は女優だったけど、実は警察に追われていたのよ。
私がアメリカのスパイだって疑われて・・・
当時、私ははハリウッドの映画にも出ていたから、何度もアメリカと日本を行ったり来たりしていた。
そんな私の活躍を快く思わない俳優仲間が、まったくデタラメな記事を新聞記者に書かせたのよ。』
『ひどい話だな。
俺が前世にいたらそんな新聞記者はぶっ飛ばしてやるのに!
あ!
そっか。
俺は前世にいたんだっけ?』
『そうよ。
誠は前世にいたのよ。
そして今のあなたが言う通り、その記事を書いた新聞記者を本当にぶっ飛ばしてくれたの。』
『おっけ〜!!!
やっぱ俺は前世でも活躍してんじゃないか!
前世は新聞記者じゃなくてバットマンの方がよかったな。』
『誠は曲がったことが大嫌いだったから、同じ新聞記者が記事を捏造したことを本気で怒ったわ。
そしてそのことで私たちは巡り会ったの。
誠は、真実を新聞に書くために私に会いにきた。
その時に初めてあなたと会ったのよ。
そして私たちは恋に落ちた。』
『そうだったのか・・・
それで俺はちゃんと記事にできたのか?』
『ううん。
残念ながら記事にはならなかったわ。
なぜなら、新聞社自体が女優のスパイスキャンダルの方がお金になるからと、誠の記事を新聞に載せなかったのよ。
ひどい話だわ。
そして私は特高警察と呼ばれる秘密警察に追われる身となって、それで人目に触れないように身を隠したの。
しかし私の容貌は目立ち過ぎて、どこにいても見つかってしまった。
ついには特高警察に捕まってしまって、警察署にある留置所に入れられてしまったの。』
『わかった!
それで俺カルロス・ゴーンの登場か!』
『その通り。
あなたは新聞記者として警察署にも出入りできたから、それで私を留置所から連れ出して一緒に逃げたのよ。
あなたはアメリカに行く貨物船の船長に話をつけてくれていて、私たちはその貨物船に隠れてアメリカに亡命するつもりだった。
ただ・・・
アメリカに行けたのは私だけ。
あなたは私だけを貨物船に乗せて、そして・・・・・・・・・
特高警察に射殺されてしまったの。』
『そうなのか・・・・・・・・』
竜二は華を元気づけようとなんとか明るく振る舞っていたが、前世での自分は短い命だったことを知り複雑な気持ちだった。
『俺はそんなに若くして死んだのか・・・・・・・・・・・・・・・』
明日は『脱走』へ続きます。




