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第9話 「離れた場所で」

「アストは、どこへ行ったのですか!」


レスト王国の王城。


謁見の間に、シオンの声が響いた。


玉座に座る王は、冷静な眼差しを向けた。


「知らぬ。自ら出ていった者の行方まで、なぜ余が把握せねばならぬ」


「ですが、彼は……!」


シオンは言葉を詰まらせた。


神託の祭壇での判定を終えた後、アストの姿は王城から消えていた。


ほかの召喚者たちは、それぞれ優れた適性を示した。


聖騎士。

剣聖騎士。

大賢者。


それに対し、アストに下された評価は、あまりにも低いものだった。


だからといって、何も言わずに姿を消すなんて。


「彼は、本当に自分の意思で出ていったのですか?」


「そう聞いている」


「行き先も分からないのですね……」


「何度聞けば気が済む」


王の声に、わずかな苛立ちが滲んだ。


シオンは唇を噛んだ。


本当は、もっと問い詰めたかった。


アストはどこへ行ったのか。

無事でいるのか。

今、一人で何をしているのか。


聞きたいことはいくらでもあった。


けれど、王の態度から察するに、これ以上問い続けても何も得られそうになかった。


「……失礼いたしました」


シオンは深く頭を下げ、謁見の間を後にした。


長い廊下を歩きながら、何度も考えた。


あのとき、自分に何ができただろう。


神託の祭壇でアストの判定が下されたとき、何か言うべきだったのか。


それとも、彼が姿を消す前に、何か気づくべきだったのか。


どれだけ考えても、答えは出なかった。


ただ一つ、痛いほど分かることがあった。


今の自分には、アストの行方を知ることすらできない。


*


翌朝。


シオンは王城の訓練場に立っていた。


「もう一度、お願いします!」


木剣を構え、目の前の騎士に向かって踏み込む。


渾身の一撃を放つが、騎士はそれを軽々と受け流した。


体勢を崩されたシオンの手から、木剣が弾き飛ばされる。


「そこまでだ」


騎士は剣を下ろした。


「適性は申し分ない。だが、焦りすぎている」


「……分かっています」


シオンは地面に落ちた木剣を拾い上げた。


自分には才能がある。


聖騎士としての適性も、周囲からの期待もある。


それでも、今の自分には何もできない。


アストがどこかで困っていたとしても、助けに行くことすらできないのだ。


その事実が、悔しかった。


「もう一度、お願いします!」


シオンは木剣を構え直した。


「よかろう。今度はどうする?」


騎士が剣を構える。


シオンは深く息を吸い、木剣を握る手に意識を集中させた。


自分に与えられた力。


それを使いこなせれば、今よりも強くなれるはずだ。


「――光刃!」


木剣の刀身が、淡い光を帯びた。


シオンは一歩踏み込み、光をまとった剣を振り抜く。


騎士は目を見開いたが、すぐに剣を構え、その一撃を受け止めた。


乾いた音が訓練場に響く。


「ほう……聖なる力を剣に宿したか」


騎士は感心したように目を細めた。


「聖騎士の適性に恥じぬ力だ。だが、技に頼りすぎている」


シオンの剣から光が消えた。


「力を使うことと、使いこなすことは違う。焦らず、己の剣を磨け」


「……はい」


シオンは木剣を見つめた。


確かに、今の一撃も騎士には届かなかった。


才能があるからといって、すぐに強くなれるわけではない。


それでも。


「もう一度、お願いします!」


シオンは再び構えた。


今度は、剣に光を宿すことだけに意識を向けない。


相手の動きを見る。

踏み込む距離を測る。

剣を振るう瞬間を見極める。


一つずつ、できることを増やしていく。


いつか、またアストに会えるのなら。


そのときは、胸を張って向き合いたい。


ただ心配するだけではなく、誰かに守られるだけでもなく。


自分の足で立ち、自分の力で大切なものを守れる人間になりたい。


「来い!」


騎士の声に、シオンは力強く踏み込んだ。


朝の光が差し込む訓練場に、剣戟の音が響き渡る。


遠く離れた場所で、アストもまた、自分の知らない力と向き合い始めていた。


一人は、失ったものの意味を探すために。


もう一人は、守りたいものを守れる自分になるために。


二人が再び出会うその日まで、歩む道が交わることはない。


それでも、二人はまだ知らなかった。


再会したとき、互いがどれほど変わっているのかを。

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