第2話 「卒業式の朝」
「明人、お待たせ!」
家の前で待っていると、奏が小走りでやってきた。
「遅いぞ。卒業式に遅刻するところだった」
「まだ全然間に合うじゃん」
「そういう問題じゃないんだよ」
「はいはい。じゃあ、行こう?」
カナデは笑いながら、アストの隣に並んだ。
いつもと変わらない通学路。
けれど、今日だけは少し違っていた。
「ねえ、アスト」
「ん?」
「こうして一緒に学校に行くのも、今日で最後だね」
「……そうだな」
「なんだか、変な感じ。ずっと当たり前だったのにね」
「明日からも会えるだろ?」
「そういうことじゃないの」
カナデは少しだけ頬を膨らませた。
「毎日こうして一緒に歩くことは、もうないんだよ?」
「まあ、確かにそうだな」
「もう少し寂しそうにしてくれてもいいんじゃない?」
「寂しくないとは言ってないだろ」
「ふふっ。そうだね」
カナデは嬉しそうに笑った。
「……じゃあさ、カナデ」
「ん?」
アストは何かを言いかけて、少しだけ視線を逸らした。
「いや、なんでもない」
「なにそれ。気になるじゃん」
「そういえば、昔もこうして一緒に学校に行ってたよな」
「もう、そういうことじゃなくて。勇者ごっこをしてた頃!」
「ああ、そんなこともあったな」
「アストが勇者で、私がお姫様だったよね」
「カナデがお姫様をやりたかっただけだろ?」
「えーっ! そんなことないよ。アストだって、結構楽しそうだったじゃん!」
「そうだったか?」
「そうだよ!」
カナデは懐かしそうに目を細めた。
「それに、あのときのこと覚えてる?」
「あのとき?」
「ほら、勇者ごっこをしてたら、年上の子たちにからかわれたこと!」
「ああ……そんなこともあったな」
「私が怖くて何も言えなかったとき、アストが前に出てくれたんだよ」
「……別に、大したことじゃないだろ」
「そんなことないよ。あの子たちにやめてって言ってくれたじゃん」
カナデは少しだけ笑った。
「結局、アストも突き飛ばされて泣きそうになってたけどね」
「泣いてない。ちょっと痛かっただけだ」
「それから、もっと強くなるんだって言って、毎日剣の練習してたよね」
「……あれは、次に負けるのが嫌だっただけだ」
「そういうところ、昔から変わらないね」
カナデは嬉しそうに笑った。
「それに、『ずっと一緒にいるから、絶対に守ってやる』って言ってくれたもん」
「……そんなことまで覚えてるのかよ」
「もちろん。忘れるわけないよ」
カナデは嬉しそうに笑った。
その笑顔を見て、アストも昔のことを思い出す。
あの頃は、何も考えずに毎日を過ごしていた。
明日も、その先も、ずっと同じ日々が続くと思っていた。
「ほら、早く行こう。みんな待ってるよ!」
「ああ」
二人は再び歩き出した。
いつもと変わらない、見慣れた通学路を。
学校に近づくと、校門の前に見慣れた二人の姿があった。
「おーい! アスト、カナデ!」
先に気づいたオクトが、こちらに手を振っている。
その隣には、妹のシオンもいた。
「おはよう、二人とも」
「おはよう、シオン。オクトも」
カナデが笑顔で挨拶を返す。
「遅かったな、アスト」
「カナデを待ってたんだよ」
「えっ、私のせい?」
「ほらな。そういうところだぞ」
「ちょっと、アスト!」
二人のやり取りを見て、オクトが小さく笑った。
「相変わらずだな、お前ら」
「そっちこそ、朝から仲がいいじゃないか」
「俺とシオンは普通だろ」
「そうかな?」
シオンが首を傾げる。
「兄さん、今朝も私が起こしてあげたんだよ?」
「それは言わなくていい!」
「ふふっ。オクトも相変わらずだね」
カナデが笑うと、シオンもつられて笑った。
いつもの四人。
いつもの会話。
けれど、今日でこの制服を着て集まるのも最後になる。
「……いよいよ卒業か」
オクトが校舎を見上げながら呟いた。
「あっという間だったな」
アストもその視線を追う。
「みんな、卒業してもまた会えるよね?」
カナデの言葉に、シオンが頷いた。
「もちろんです。これでお別れなんて嫌ですから」
「そうだな。また四人で集まろうぜ」
オクトがそう言って、アストに手を差し出した。
「ああ。約束だ」
アストはその手を握り返した。
「じゃあ、そろそろ教室に行こうぜ。卒業式まであまり時間もないしな」
「そうだね。行こっか!」
カナデが歩き出すと、シオンが隣に並んだ。
「カナデ、卒業したら何か予定はあるんですか?」
「うーん、まだ具体的には決めてないかな。シオンは?」
「私はまだ学校がありますからね。少し羨ましいです」
「ふふっ。シオンもあっという間だよ」
二人は楽しそうに話しながら、少しずつ先を歩いていく。
その後ろ姿を眺めていると、オクトが隣に並んだ。
「なあ、アスト」
「ん?」
「昨日の電話のことなんだけどさ……」
オクトは前を歩く二人に一瞬だけ視線を向けた。
「ちょっと、話しておきたいことがある」
「……ああ」
いつもとは違うオクトの表情に、アストは小さく頷いた。




