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第12話 「剣聖と大賢者の試練」

最深部。


巨大な扉をくぐった瞬間、二人の肌を重い魔力が撫でた。


広大な空間の中央に、それはいた。


全身を黒い甲殻に覆われた巨大な魔物。


頭部には鋭い角が伸び、四本の腕には人間の身体ほどもある爪が生えている。


迷宮の守護者。


その姿を目にしたカナデが、息を呑んだ。


「……これが、試練の相手?」


「そうらしいな」


オクトは剣を抜いた。


「いい相手じゃないか」


次の瞬間、魔物が咆哮した。


空気が震え、床の石片が跳ね上がる。


魔物は四本の腕を広げ、二人へと突進してきた。


「カナデ!」


「分かってる!」


カナデが杖を掲げる。


「《魔力障壁》!」


二人の前に光の壁が展開された。


激突。


凄まじい衝撃が迷宮全体を揺らす。


障壁に亀裂が走り、カナデの額に汗が浮かんだ。


「っ……なんて力なの!」


「十分だ!」


オクトは障壁が崩れる寸前に飛び出した。


魔物の懐へと潜り込み、剣を構える。


「《聖剣・天翔》!」


刹那、オクトの剣が眩い光を帯びた。


踏み込みと同時に放たれた斬撃が、魔物の身体を斜めに切り裂く。


黒い甲殻が砕け、巨体が大きくよろめいた。


だが、致命傷には至らない。


魔物は怒りの咆哮を上げ、四本の腕を振り下ろした。


「オクト、下がって!」


カナデが杖を地面へ向ける。


「《氷結拘束》!」


床を走った氷が魔物の脚に絡みつき、その動きを封じた。


しかし、魔物は力任せに氷を砕こうとする。


「もう破られる……!」


カナデは一瞬だけ目を閉じ、魔力を集中させた。


周囲の空気が急激に冷えていく。


床を覆う氷が広がり、壁面にまで白い霜が走った。


「逃がさないわ」


カナデが杖を掲げる。


「《氷獄封印》!」


轟音とともに、巨大な氷柱が魔物を取り囲んだ。


幾重にも重なった氷が四本の腕を封じ、脚を覆い、胴体を包み込んでいく。


最後には頭部まで氷に閉ざされ、魔物は巨大な氷の牢獄に閉じ込められた。


魔物が暴れるたびに氷が軋む。


それでも、封印は崩れない。


「オクト! 長くは持たないわ!」


「ああ。十分だ!」


オクトは剣を握り直した。


剣を振るうための力ではない。


敵を断ち切るための、ただ一撃のために。


剣身に光が集まっていく。


その輝きは、先ほどの斬撃よりも遥かに強かった。


「これで終わりだ」


オクトは氷に閉じ込められた魔物を見据える。


「《聖剣・天断》!」


振り下ろされた剣から、眩い光の斬撃が放たれた。


それは氷の牢獄ごと魔物を貫き、黒い甲殻を深々と断ち切った。


一瞬の静寂。


次の瞬間、氷の牢獄に亀裂が走り、無数の破片となって砕け散った。


その中心で、魔物の巨体がゆっくりと傾く。


轟音とともに床へ崩れ落ち、やがて動かなくなった。


迷宮に静寂が戻った。


「……倒した、のよね?」


カナデが息を整えながら尋ねる。


「ああ。俺たちの勝ちだ」


オクトは剣を下ろした。


カナデは大きく息を吐き、安堵したように笑った。


「もう……最後まで無茶するんだから」


「お前の魔法があったから決められた。助かった」


「……そういうこと、急に言わないでよ」


カナデは少しだけ顔をそらした。


その表情には、疲労と喜びが入り混じっていた。


二人は確かに成長していた。


剣聖と大賢者。


その名にふさわしい力を、今この場で証明したのだ。


◇


迷宮からの帰路。


オクトは、先ほどの戦闘跡を思い返していた。


壁に刻まれた斬撃。

床に残された大きな窪み。

そして、何かが激しく争った痕跡。


「……なあ、カナデ」


「何?」


「俺たちが来る前に、誰かがここで戦っていたんだろうな」


「そうね。あの傷を見る限り、かなり危険な戦いだったと思う」


カナデは少し考え込んだ。


「でも、不思議なのよね」


「何がだ?」


「魔物の痕跡はあったのに、戦った人たちの姿も、荷物も、何も残っていなかった。まるで、急いで立ち去ったみたい」


オクトは黙って考えた。


誰が、何のためにこの迷宮へ来たのか。


そして、あれほどの戦いを繰り広げた者たちは、今どこにいるのか。


「いつか分かるさ」


オクトは前を向いた。


「その時は、そいつらがどれほどの実力なのか、この目で確かめてやる」


「ふふっ。あなたらしいわね」


二人は迷宮を後にした。


彼らはまだ知らない。


自分たちが通った道を、ほんの少し前に歩いた者たちがいたことを。


そして、その者たちとの出会いが、いつか自分たちの運命を大きく変えることを。


剣聖と大賢者。


二人の勇者の物語もまた、静かに動き始めていた。

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