第91話、ポートエリザベス空爆
アデン――欧州とインドを結ぶ通商の要衝。アラビア半島の南、イエメンの南西部。アデン湾を挟んだ対岸は、アフリカ大陸、ソマリア半島。
16世紀はポルトガルとオスマン帝国が支配、のちにエジプト、そして現在はイギリスが支配する土地だ。地中海から紅海を抜け、アデン湾、そしてインド洋。アデン植民地として、港湾機能が発展。船団の拠点として活用されていた。
しかし地中海は、イタリア、ドイツ枢軸軍が活発に動き、英軍と衝突している結果、船団の運行が非常に困難なものとなっていた。
結果、イギリス地中海艦隊や北アフリカ戦線への補給を、喜望峰周りのインド洋側からの船団が支援していた。アデンはその中継点として重要な土地であった。
だが、マダガスカル島を日本が押さえたことで、喜望峰ルートが塞がれる。北アフリカ戦線、地中海艦隊、そしてインドへの通商が大きく脅かされることになった。
そして特破遠征艦隊は、喜望峰から大西洋に進出する通商破壊部隊と、アデン湾を制圧することによる、インドの孤立。地中海および北アフリカの連合国の補給を遮断を目指した。
そのために、アデンを制圧する。紅海を抜けて、スエズを攻略する戦力や手間を考えれば、遥かに負担が軽いのがメリットである。その上でアデンを押さえてしまえば、実質、スエズ運河を制圧するのと変わらない効果を得られる。紅海出口で待ち受けていれば、連合軍船舶は通れなくなるからだ。
特破遠征艦隊の佐々山 久雄少将は、特破隊の作戦方針に沿って、アデン攻略作戦の下準備を開始した。
まずは潜水艦による偵察活動である。敵の通信周波数帯の確認、そして傍受しつつ英軍の様子を調べる。その後、特破の特殊陸戦隊による上陸、偵察を行い、頃合いを見計らい、攻略部隊を送るのである。
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アデン攻略までの間、特破遠征艦隊は暇ではなかった。
喜望峰を超えて、大西洋に通商破壊部隊を送るため、アフリカ沿岸のイギリス拠点への攻撃を行うのである。これは、マダガスカル島の防衛にも関わるので、すぐに実行された。
●大鶴機動部隊
哨戒装甲空母:「大鶴」
空母:「迅鷹」
重巡洋艦:「九重」
軽巡洋艦:「神流」
駆逐艦:「凍風」「旋風」「桑」「杉」「桐」
大鶴機動部隊は、アフリカ南部、ダーバン東方海域に進出する。
陸上基地航空隊を運用できる『大鶴』から、零式哨戒機が発艦。超長距離飛行が可能な大型の四発哨戒機は、その足を活かして、ダーバン、ポートエリザベス、ケープタウン――その近郊にあるサイモンズタウンへ飛んだ。
そして攻撃の本命である特殊爆撃隊――特爆隊の零式双発爆撃機隊が、九頭島飛行場の滑走路転移板を踏んで、『大鶴』飛行甲板の転移板に瞬間移動すると、そのまま大型空母の甲板から飛び上がった。
その五番機に、神明 光太郎少尉は爆撃照準士として搭乗する。
『雷神1より、各機へ』
特爆隊中隊長の菊丸 昌時大尉の声が、マ式通信機から聞こえた。
『作戦通り、小隊ごとに目標へ転移。基地施設を叩け。全兵装、使用自由!』
第一小隊は、サイモンズタウン。
第二小隊は、ポートエリザベス。
第三小隊は、ダーバン。
『それでは、やっつけてやろう。第一小隊、転移はじめ!』
3機の零式双発爆撃機が、先発した零式哨戒機の転移中継装置を頼りに消えた。
『第二小隊、行くぞ。転移用意――』
光太郎の五番機が所属する第二小隊も、転移を行う。大鶴機動部隊の上空から、アフリカの大地の上に。
『雷神4より第二小隊。各機点呼』
「雷神5、異常なし」
光太郎は答える。
『雷神6、異常なし!』
僚機もきちんと転移に成功した。
『よろしい。ポートエリザベスの目標については、いまさら言わなくてもわかっているな? 所定の目標に攻撃を開始せよ。対空砲にやられるヘマはするなよ!』
周辺の地図については、昨日偵察した零式哨戒機からの航空写真で暗記済みだ。光太郎は照準器の操作をしつつ、操縦士である武藤一飛曹に告げた。
「よし、武藤。飛行場へ直進だ!」
「宜候!」
零式双発爆撃機は、スロットルを上げて高速飛行。対レーダー塗料のおかげで、地上の対空レーダーを無視し、爆撃機は飛ぶ。
南アフリカ、東ケープ州南部。その南部沿岸部にある町。ポートエリザベスの地名は、総督代理ルーデンス・ドンキンが、インドで亡くなった夫人を偲んでつけられた。
海に面した港、そして町が見えてくる。風の町の異名を持つ、比較的温暖な土地である。
「少尉! 飛行場です!」
武藤が叫んだ。光太郎もそれを見る。南アフリカ空軍(SAAF)の飛行場だ。駐機されているのは双発機。しかしそれらは、塗装込みで軍用爆撃機ではあるが、どこか民間機のようにも見えた。
「改造機か……?」
「少尉、あれはアブロ アンソンですよ!」
武藤は答えた。アンソンと言えば、アブロ社製の航空機で、はじめは民間向けの輸送機として作られた。
イギリス空軍と海軍、そして植民地軍が使用する。この戦争でも輸送、偵察、哨戒、爆撃などの多用途に使われていた。ニックネームは『忠実なアニー』。実用性、信頼性に優れ、スピードはともかく、前線では好評だ。
なお、この地に駐留するのは、第33沿岸偵察飛行隊であった。……大西洋にこちらの部隊が出る時、邪魔になるのは間違いない。
「戦闘機はなさそうだが……手早く片付けよう」
「前情報だと、複葉の戦闘機が飛んでるらしいですよ」
現代の戦闘機が飛んでこない空とはこういうものか。光太郎は淡々と照準器を覗き込む。
「周回飛行に入ります!」
「応。雷神5、攻撃開始!」
発射ボタンを押し込む。狙いをつけた場所に爆弾が転移し、そして爆発。アブロ アンソンが1機、派手に吹き飛んだ。
さらにボタンを押す。次々に双発爆撃機が爆発、四散した。まさしく一方的であった。
3機の零式双発爆撃機は、ポートエリザベスの上空を飛行し、転移された爆弾で軍事施設を片っ端から破壊した。




