第84話、敵を求めて
日本軍のMO作戦は、ツラギ攻略で土がついたが、南洋部隊(第四艦隊)司令部は、予定の変更を加えなかった。
また、連合艦隊司令部も、ミッドウェー作戦の検討に忙しく、この時点では指導的介入はしていない。
対して、米軍はTF17にTF11が合流を果たした。
●連合軍
○第17任務部隊(TF17):指揮官、フランク・ジャック・フレッチャー少将
・TG17.2:トーマス・C・キンケード少将
重巡洋艦:「ミネアポリス」「チェスター」「ポートランド」
駆逐艦 :「フェルプス」「ファラガット」「デューイ」「モナガン」
:「エールウィン」
・TG17.5:オーブリー・フィッチ少将
空母 :「レキシントン」「ヨークタウン」
駆逐艦 :「パーキンス」「ウォーク」「モリス」「ラッセル」
・TG17.6:ジョン・S・フィリップス大佐
給油艦 :「ディペカノー」
駆逐艦 :「ウォーデン」
・TG17.9:ジョージ・H・ホーデン中佐
水上機母艦:「タンジール」
任務部隊の指揮官はフレッチャー少将が執るが、航空戦はフィッチ少将が担う。
「彼は、この中で一番、航空隊の指揮経験があるからね」
フレッチャーは、事実だけを述べるようにさらりと言ってのけた。
「私は巡洋艦戦隊の指揮官上がりだが、フィッチはパイロット資格があって、空母と航空機に精通している。専門家に任せるのが一番だ」
アナポリスでの同期ということもあって、フレッチャーはフィッチに不安を抱いていない。
幕僚たちも、石橋を叩いて渡るタイプのフレッチャーが、そう言うのであれば、と特に指揮権について意見を挟まなかった。
しかし作戦面で不安はある。
「ニューカレドニアを攻撃してきた敵空母の存在が気になりますな」
「うむ。あれは実に気持ちが悪い」
ポートモレスビーに進軍する日本軍とは別の部隊がいると思われるが、その所在は掴めていない。敵機動部隊と交戦した後、不意討ちはされたくないのである。
「オーストラリアやニューカレドニア島で偵察機は出してもらっている。敵が恐れをなして離脱してくれることを祈るしかあるまい」
フレッチャーの言葉に、作戦参謀は眉をひそめた。
「祈る、ですか」
「さすがに二方向を同時に相手はできない」
二兎を追う者は一兎をも得ず、というのは日本の諺だが、北のMO攻略部隊、南に謎の空母部隊、そのどちらも対応というのは、TF17には不可能に近い。
まさか、レキシントンとヨークタウンを分散させてそれぞれと当たるなどできない。敵に各個撃破の隙を与えてはならない。
「TF16が、間に合ってくれればよいのですが……」
「無理だろう」
フレッチャーはきっぱりと言った。日本本土空襲――ドゥーリトル爆撃に動員された空母『エンタープライズ』『ホーネット』は、真珠湾に帰投後、日本のMO作戦阻止のため、こちらに派遣されている。
が、日付と現在位置から、この戦いには間に合いそうになかった。
「オーストラリア艦隊があったなら……」
フレッチャーは呟いた。
本当なら、オーストラリア海軍の艦隊も、このTF17に加わり、敵のポートモレスビー侵攻阻止を行うはずだった。
だがやはり3月の戦いで、タンカー部隊の護衛についた結果、なけなしの巡洋艦と共に日本軍の空襲で壊滅した。
できれば水上部隊を進出させ、空母部隊が敵空母を叩いている間、敵上陸部隊の侵攻を阻止させたかった。
だが、今残っている巡洋艦戦隊を進出させた場合、空母部隊の護衛が駆逐艦4隻のみとなってしまう。
これはさすがに無防備が過ぎる。日本軍の空母との戦いを、裸で戦うほど蛮勇ではないのだ。
前々から、ニミッツ太平洋艦隊司令長官からは、空母が損失するようなことは極力避けるよう念押しされている。
今の太平洋艦隊の反撃戦力は、空母を中心にせねばならず、その空母自体、数が限られている。無茶はするな、しかし敵は倒せと割と難題を押しつけられている。
――まあ、やってみせるさ。
堅実、慎重で生きてきたフレッチャーである。
かつて大西洋艦隊の指揮官として活躍したフランク・フライデー・フレッチャー提督をおじに持つ彼は、偉大な親族や家名に恥をかかせるようなことがないよう、その振る舞いは慎重、そして真面目にこなしてきた。
日米開戦となる真珠湾攻撃の時に、太平洋艦隊司令長官だったキンメル大将から、大変評価されていたフレッチャーは、無難に、しかし確実な仕事ぶりを発揮してきた。
敵と正面から戦い、被害なしで乗り切れという無茶も、こなしてやろう。なに、ギルバート諸島のヒットエンドランも、先のツラギでもやってみせたじゃないか。
そのためには、索敵で、ポートモレスビー攻略を目指す日本艦隊を早期に発見し、先制攻撃を仕掛ける。
相手が空母だろうが、先に攻撃し、その飛行甲板を叩ければたちまち浮かぶ棺桶だ。幸い、我が海軍は急降下爆撃機には事欠かない。空母が航空機を運用できない状況になれば、水上艦艇がいくら残っていようとも関係ない。ツラギの時のように一方的に叩いてやるだけである。




