第78話、激突
この時、日本側は、先頭のイギリス戦艦を、クイーン・エリザベス級ではなく、R級であると誤認した。
その理由は、戦艦『マレーヤ』が、クイーン・エリザベス級の第二次改装を受けていない艦だったからだ。
つまり、艦橋が新型戦艦と似た箱形ではなかったのだ。この改装は、『クイーン・エリザベス』『ヴァリアント』『ウォースパイト』が実施されたが、『マレーヤ』と『バーラム』には従来型の艦橋のままだったのである。
日本でいえば高雄型重巡の『高雄』他が艦橋を小さく改装したが、『鳥海』はその工事を受ける間もなく、開戦になってしまった例に似ている。
ともあれ、『マレーヤ』の東洋艦隊配備の情報がなかった日本側は、形状が似ていることもあってR級戦艦であると判別したのであった。
しかし、それが致命的な何かに繋がることはない。
何せ、24ノットを発揮できる『マレーヤ』は、速度に劣る『レゾリューション』に足を揃えていて、火力の面で双方38.1センチ連装砲四基八門と同一だったからだ。
速度が同じであれば、クイーン・エリザベス級とR級の扱いに大した差はない。
「『フォーミダブル』から戦闘機を発進。制空権を確保せよ」
ジェームズ・サマヴィル中将は命じた。弾着観測機の支援のもと、命中率を上げて日本艦隊に対抗するのだ。
「航空機を出した後、『フォーミダブル』は後退させろ」
砲撃戦の中に空母を連れ込むことはない。万が一にも砲撃の範囲に入って沈められたら、国中の笑いものである。
一方、特破隊水上部隊は、三隊に分かれた。その編成は以下のようになる。
●特破遠征艦隊、水上打撃部隊:司令官、佐々山 久雄少将
・第一隊:戦艦・巡洋戦艦:「肥後」「愛鷹」「土佐」
・第二隊:重巡「妙義」、軽巡「奥入瀬」「渡良瀬」
駆逐艦「青雲」「天雲」
・第三隊:重巡「筑波」、軽巡「神流」「早淵」
駆逐艦「冬雲」「雪雲」
戦艦3隻が直進し、重巡1、軽巡2、駆逐艦2を一隊として左右それぞれに展開する。
なお、第一隊の並び順は、速力の都合で30ノットを発揮できる『肥後』『愛鷹』が前、最後尾が28ノットの『土佐』となっている。
双方とも弾着観測機を展開。英空母『フォーミダブル』から戦闘機が上がるが、日本側も空母戦隊からエアカバーに飛来した一式艦上戦闘攻撃機隊と空中戦となる。
フォーミダブルの戦闘機は、F4Fワイルドキャットの英軍仕様のマートレットである。
しかし対応するのは、魔技研の新鋭機である一式艦戦であった。
『第一中隊、突撃!』
指揮官の通信を耳にし、鳥井 武志少尉は操縦桿を倒した。
『対空誘導弾、用意! 目標に合わせ!』
号令に従い、鳥井は照準器の中心に、これと定めた敵機を入れる。まだゴマ粒にも満たないそれだが、搭載された自動コアは、誘導弾に標的を記憶させる。
『ようし、発射!』
中隊長の合図に合わせて、鳥井は発射ボタンを押し込んだ。切り離された二式対空誘導弾はロケットの炎を噴かして飛んでいった。
これまでの誘導弾は、測定士が標的を照準器に収め続けることで追尾、命中させていた。それは機体を操縦しながら、特に空中戦ともなれば困難であり、操縦する者以外の人員が必要であった。
だが新開発の二式対空誘導弾は、内蔵された自動コアが独自に誘導を調整するため、パイロットが一度標的を定めて発射すると、後は照準器を無視し、パイロットが追わなくても勝手に飛んでいく。
いわゆる、魔技研が進めている自動システム=ゴーレムの技術であり、ロケットゴーレムともいうべき代物である。
誘導弾型ゴーレムにより、パイロットは次の敵機へ向かったり、あるいは別の機動をとることが可能になった。
なお、一式艦戦は基本単座ではあるが、こちらも自動コアが搭載されているため、九八式艦偵が二人でやっていた分の不足を補う。
素人目には、何でもかんでもゴーレムと思われるが、実際のところ応用が利くなら、一つの技術で可能な限り、共通化したほうが資材と時間、運用の節約となるので、ある意味わざとやっている。決して、馬鹿の一つ覚えではない。
閑話休題。
放たれた誘導弾は、マートレット戦闘機の斜め上方から飛来。パイロットたちがその煙に気づいた時には、バードストライクよろしく機体に衝突。そして爆発した。
あっという間の出来事だった。マートレットは10機が立ち所に撃墜され、とっさに反応して生き残った機は、何か高角砲のようなもので撃たれたのではと困惑した。
だがそれ以上、考える余裕はなかった。一式艦戦が猛スピードでダイブし襲いかかってきたからだ。
主翼がきらめき、20ミリ光弾砲が白い光を放つ。その一撃はマートレットのエンジンを一撃で破壊し、胴体を分断し、主翼に大穴を開けた。
一個中隊の一式艦戦によるダイブ&ズームの後、マートレットの残存機はわずか2機となっていた。
これではまったく話にならなかった。
制空権は日本海軍側が押さえ、英軍側は弾着観測機が使えない。日本軍側には、しっかり観測機が上がり、英戦艦の針路、速度など必要な情報が報告される。
日本戦艦戦隊、『肥後』『愛鷹』『土佐』は、面かじをとる。英戦艦戦隊の頭をとる形だ。
だがもちろん、東洋艦隊司令長官のサマヴィル中将は、それをよしとしない。取り舵をとって、日本戦艦と同航するような動きをする。ただこれは最短距離を詰めるやり方ではない。
佐々山は射程の有利差を充分に把握していた。
「目標に対して、撃ち方始め!」
3隻の日本戦艦の45口径41センチ連装砲が一斉に火を噴いた。




