第75話、船団大空襲
これほどの大編隊で挑むのは、特破隊としては初ではないか。
雷竜攻撃隊隊長にして、第一次攻撃隊総隊長である内田ハル大尉は、九八式艦上偵察戦闘攻撃機のコクピットで思った。
通商破壊任務が主軸の特破隊は、本格的な敵艦隊との交戦も想定はしているが、実際に正面からぶつかるのは初めてと言ってよい。
相手が輸送船などでなければ、攻撃を見送ってもよい――特破隊の任務における基本だが、今回は初めから艦隊と衝突することが任務のため、敵が有力だからと避けることはない。
だから、これだけの数が投入されているのだ。
有人機126、無人機72、合計198機の大編隊である。
「英軍の空母の艦載機を考えると、過剰戦力ではあるかな」
「はい? 大尉、何か?」
パイロットである小松 政子少尉が一瞥した。
「独り言だ」
内田がそう返すと、先頭に位置するP-40改戦闘機隊が、戦闘機動を取り出した。
噂をすれば、イギリスの戦闘機だ。マ式レーダーにその反応が浮かび上がる。
「20機と、13、4機といったところか」
「その数ならヨンゼロだけでも何とかなりそうですね」
ヨンゼロ――味方側P-40を呼ぶ搭乗員たちに倣い、小松は言った。今回の攻撃隊では、新編成の12機で一個中隊――計四個中隊48機が投入されている。
内田は鼻をならした。
「フン、無人機がどこまで頼りになるか、だな」
特破隊は、実験部隊も兼ねる。完全無人のゴーレムファイターがどこまで通用するのか、実戦で使ってみようというのが、上層部の考えなのだ。
機体数は勝っているが、果たして九八式や一式艦上戦闘攻撃機の援護が必要かどうか、見極める必要はあった。
・ ・ ・
P-40改は、上方からの一撃離脱にかかった。
全長9.65メートル、全幅11.35メートル。性能は凡庸。扱い易さと頑丈さ、当時としてはそこそこ脚の速い戦闘機であったが、鹵獲され、特破隊によって改修された機体は、そのスピードと火力が増強されていた。
エンジンが、九八式艦偵と同じ冬風マ冷1500馬力に換装された。軽量で、もとより液冷式エンジンに似たシルエット故、換装しても外見上あまり変化はない。その速度は最高時速630キロメートルとさらに高速性を増している。
機銃は、魔技研開発の光弾砲二門に換装。こちらも九八式などと同じものを装備することで、調達、整備、運用の共通化が図られている。
そんな改造P-40は、イギリス戦闘機隊に覆いかぶさるように一気に突っ込んだ。
英軍パイロットたちは、初めて遭遇する日本機がP-40戦闘機にしか見えず、困惑した。
もっともそれに気づけた者はわずかで、半分は強力な光弾を直撃されて機体を破壊され、残り半分は、一撃を回避するのが精一杯だった。
マートレットは、米海軍のF4Fワイルドキャットである。グラマン社製品らしく頑丈にできていて、さらに零戦と比べると劣るとはいえ運動性も中々にいい機体だ。
しかし今回相手にしているP-40改に比べると、圧倒的に速度で劣った。英軍では多くない空冷エンジン装備機であり、機首の空気抵抗が大きくなる故、速度面で不利ではある。さらに光弾砲が直撃すれば、頑丈な機体も一撃で大穴が開いて四散した。
P-40改が一撃離脱に徹すると、マートレットでは追撃は難しい。日本軍戦闘機搭乗員にありがちな格闘戦を好む――ということも無人機にはない。さらに言えば撃墜することは任務だが、それ以上でもそれ以下でもないため、欲を出して無茶な追撃をするということもなかった。
そしてもう一機種――シーハリケーンMk.ⅡCもまたP-40改に対して有効ではなかった。すでに旧式になりつつあるハリケーンの空母艦載機型。20ミリ機関砲4門を装備し、火力面では高いものがあるが、速度、運動性ともに現行機より不利であった。
48機のP-40改が、英軍戦闘機を押さえている間に、攻撃隊は英艦隊に迫った。
「バンシー隊は、輸送船団に突撃。これを撃滅せよ」
攻撃隊総隊長の内田は指示を飛ばす。
「一空戦隊は、敵護衛艦艇を狙え。二空戦は、英空母と輸送船の残りを仕留める!」
攻撃目標が定まり、それぞれの隊が動き出す。
無人急降下爆撃機であるA-24改27機は、上陸部隊を乗せたY船団、Z船団へ向かう。
敵機はP-40改が相手にしている分、急降下爆撃機を止める存在は空中にはない。
護衛につく駆逐艦、コルベットが対空砲を打ち上げる。
39口径40ミリ四連装機銃――QF2ポンド・ポンポン砲や、12.7ミリや20ミリ機銃が、空へと放たれる。各艦にそれぞれ1基ないし2基のそれらは、しょせん近接防御兵器であり、数も少なかった。それで爆撃機を止めることはできない。
A-24改バンシーは、元は急降下爆撃機だが、無人機は緩降下をかける。そして主翼に懸架されたロケット弾6発を発射。さらに胴体下に積んできた500キロ滑空爆弾を投下した。
Y船団8隻、Z船団8隻の輸送船に次々にロケット弾が炸裂。さらにゴーレムコア内蔵の500キロ新型滑空爆弾が、若干の微調整をしながら船体の甲板を突き破ると、イギリス歩兵もろとも吹き飛んだ。
飛び回るA-24改。そのエンジンが奏でる音は、人の死を鳴き声で知らせる妖精『バンシー』そのもののようであった。
Z船団の旗艦である『ウィンチェスターキャッスル』、2万トン、全長192メートルの大型旅客船も500キロ爆弾に耐える防御性能はなく、その船脚を止めて炎上する。
それは2万トン級の『オロンセイ』、『フランコニア』も同様であり、さながら猛禽の群れに襲われているようでもあった。
護衛艦も必死に対空戦闘を行うが、目先のバンシーに気をとられ、第一空母戦隊の九八式艦偵が、遠距離から滑空魚雷を投下していることに気づくのが遅れた。
誘導された魚雷が次々に駆逐艦とコルベットを襲う。小型艦にとっては確実に命中する誘導魚雷は、死神の鎌であった。艦体をあっさりと爆破され、あるいは分断されてマダガスカル島近海に沈んでいく。
アイアンクラッド作戦における、マダガスカル島上陸戦力は、船に乗ったまま壊滅したのである。




