第73話、特破隊遠征艦隊、西進す
ドイツとイタリアから求められた日本海軍のインド洋の派遣。太平洋でアメリカを相手にする連合艦隊には、長い期間インド洋に大規模な戦力を貼りつけることはできない相談であった。
連合艦隊は、ハワイ攻略を目指し、軍令部は米豪遮断を次期作戦として進めたい。枢軸国からの要請に答えたいのは山々だが、日本には日本の都合がある。
連合艦隊としても、米軍が本格反攻を行う戦力を整える前に、戦争に決着をつけたい。それまでに行けるところまで行くというスタンスである。
そこでインド洋に派遣された、というより動いたのが特破隊である。今次大戦において、軍令部や連合艦隊以上にインド洋、引いては大西洋方面に乗り出すことが、当初より戦争遂行において考えられていた。
それは燃料の確保、武器・弾薬の生産、備蓄。無駄を省く転移を用いた時短兵站線の確保もまた、世界の海を股にかけるための壮大な準備であった。
●日本海軍特破隊インド洋遠征艦隊:指揮官、佐々山 久雄少将
戦艦 :「肥後」「土佐」
巡洋戦艦:「愛鷹」
空母 :「黒竜」「雷竜」「神竜」「翔竜」「瑞鷹」「迅鷹」
哨戒空母:「大鶴」
重巡洋艦:「妙義」「筑波」
軽巡洋艦:「奥入瀬」「渡良瀬」「狩野」「秋野」「石狩」
:「神流」「早淵」「天神」
駆逐艦 :「早雪」「根雪」「氷雪」「凍風」「旋風」「瑞風」「真風」
:「青雲」「天雲」「冬雲」「雪雲」
潜水駆逐艦:「氷雨」「白雨」「早雨」「霧雨」
護衛駆逐艦:「桑」「桐」「杉」「柳」「椿」「檜」「楠」「早梅」「葛」「橘」
:「八重桜」「矢竹」「桂」「若桜」
水上機母艦:「来島」
潜水母艦:「大瀬」
強襲揚陸艦:「敦賀」「須佐」
潜水艦 :「伊710」「伊711」「伊712」「伊713」「伊714」
:「伊715」「伊716」「伊717」「伊718」「伊719」
:「伊731」「伊732」「伊733」「伊734」「伊735」
:「伊736」「伊737」「伊738」「伊739」「伊740」
:「伊741」
付属 :工作艦「本渡」、航空機修理艦「八島」
:戦闘支援艦(補給艦)「関東」
特破隊が保有する戦艦、巡洋戦艦3隻。哨戒空母『大鶴』と6隻の空母。空母艦載機は全体的に控えめであるが、基地航空隊の規模も含めれば、南雲機動部隊にも引けを取らない航空戦力を有する。むしろ『大鶴』の存在だけで、長距離索敵機や陸上航空機が運用できる分、活躍の幅が大きい。
その空母の顔ぶれだが、新たに『神竜』が配備された。この艦は、イギリス海軍の標準型サイズである2万2000トンの空母『アーク・ロイヤル』である。
1941年11月、Uボートの雷撃で撃沈されたものを、遥々ジブラルタルから持ち帰り、改装。つい先日戦力化したばかりの新鋭艦である。艦載機は、英軍空母にしては多い60機を運用する。
巡洋艦について、重巡洋艦は変わらないものの、軽巡洋艦には、開戦から撃沈したオーストラリア海軍回収艦艇である神流=シドニー、早淵=パース、天神=アキレスが戦力化し加わっている。
駆逐艦では、マハン級駆逐艦の回収艦が加わり、それ以外と護衛駆逐艦の顔ぶれは特に変化はない。
潜水艦は、第32、34の2個潜水戦隊が投入され、マダガスカル周辺の警戒、通商破壊を行う手筈となっていた。
「一度に運用するにしては、最大規模ではないだろうか」
インド洋遠征艦隊の指揮官、佐々山 久雄少将は、旗艦『肥後』の艦橋で告げた。転移室を経由してやってきた神明 龍造大佐は頷いた。
「英軍が過剰ともとれるほどの戦力をマダガスカルに投入していますから、損害を少なくやるなら、それなりにこちらも規模を揃える必要があります」
「それなんだがな」
佐々山は首を捻る。
「まだ英軍はオレたちが来ていることを知らんのだろう。一応、警戒部隊を置いているようだが、それにしても海上戦力が充実しているんじゃないか? 近場で動かせるやつを総動員してきた。現地のフランス艦隊は、コルベットや潜水艦が少ししかないんだろう? これじゃイジメじゃないか」
「そうですな」
阿畑 洋吉参謀長が口を開いた。
「地中海でも、そんなに余裕はないはずなんですがね、英軍は……」
「短期で一気に決着をつけるつもりなのだろう」
神明は言った。
「戦力が分散せざるを得ない英軍だからこそ、必要な時に一点集中で戦いを素早く片づける。彼らは上陸が上手く行ったら、艦隊の半分はマダガスカル島の占領を待たず、引き上げる腹づもりだ」
「では、マダガスカル島に上陸させてしまった後のほうが、敵艦隊が減るので楽になる、と……?」
「個々の戦場の話をするなら、そうなのだろうが、今後の戦いを見据えるなら、ここでまとめて叩いてしまったほうが、ドイツやイタリアが大いに助かる」
「同盟国が、ですか……?」
「まあ、元々、あの連中は日本海軍に、イギリス東洋艦隊を潰してほしがっていたからな」
佐々山がどこか他人事のように言った。神明は付け加える。
「ここで英艦隊をまとめて叩けば、地中海や大西洋での英軍戦力がさらに減ります。地中海戦線のイタリア、ドイツ軍もアフリカ戦線やマルタ島を巡る戦いで優勢に近づくでしょう」
「そう考えると……滅茶苦茶重要じゃないですか、このマダガスカル島は」
阿畑は事の重要性に気づき、驚いた。佐々山はニヤリとする。
「そうそう、目先の事柄だけでなく、もっとグローバルに戦局を見なくちゃいかんのよ」
遠征艦隊指揮官は、神明を見た。
「で、一応、揚陸艦と陸戦隊を連れてきているが、英軍が島に上陸する前に仕掛けてしまっていいんだな?」
「はい。偵察情報によれば、マダガスカル島北方より、英軍の上陸部隊が侵攻する構えのようです。その直前で船団を襲い、ついでに空母も叩いてしまいます」
「航空攻撃だな。……そうなると敵の警戒部隊は」
「戦艦戦隊で突撃、というのはどうでしょうか?」
神明は提案した。東洋艦隊と決戦し、ここで叩く。インド洋の制海権を確保するためにも、その敵戦力は撃滅すべきである。




