第7話、再生艦艇
戦艦『土佐』の41センチ砲弾は、USS『テネシー』の艦中央に集中した。つまり、籠マスト、煙突、そして第二、第三砲塔近辺に。
真珠湾攻撃でつけられ、本格修理が必要な傷口に、砲弾がねじ込まれたのだ。14インチ砲戦艦ながら16インチ砲戦艦であるコロラド級に匹敵する防御性能を持つテネシー級だが、すでにその装甲を貫く能力を持つ『土佐』の砲撃に為す術はなかった。
爆沈。
反撃すらできないまま、一方的に葬られた。先の航空攻撃を含め、アメリカ海軍は戦艦3隻と駆逐艦4隻を失ったのであった。
第一戦闘群旗艦『土佐』。その艦橋で、司令の神明 龍造大佐は、自身が整備に尽力した部隊の働き、その一片を目にすることができた。
「弾道制御は完璧だった」
「はい。砲弾の消費20発で戦艦2杯は、上出来でしょう」
阿久津 英正艦長が首肯した。諏訪 将治先任参謀は言った。
「しかし、まさかこの部隊で、戦艦同士の砲撃戦をやることになるとは思いもしませんでした」
「そうなのか?」
神明が片方の眉を吊り上げる。実際は、『土佐』が一方的に撃って終わったわけで、砲撃戦と言ってしまっていいかは微妙ではある。諏訪は答えた。
「真珠湾攻撃に始まり、これからは航空機の時代だと思っていましたから。我が特破隊も、保有する空母の数は多いです」
「空母が多いのは、手頃な戦艦が少なかったからだ」
淡々と神明は告げる。
「まあ、これで3隻、戦艦が増えることになる。これで特破の保有する戦艦は半年後には倍増する」
魔技研の持つ沈没艦艇の回収技術と再生技術。これらを活用することで、特破隊の運用できる艦艇が増える。
事実、彼らが乗艦する『土佐』も、ワシントン海軍軍縮条約で廃艦が決まり、標的艦として沈んでいたものを回収、修理、改装したものである。
実際に特破隊で使用する艦艇は、ほぼ全て海から拾ったものが新たな姿を得て復活したものである。
特に、ドイツが戦端を開き、欧州で戦争が始まって以降、沈没艦艇が爆発的に増えた。魔技研は特殊回収艦を世界の海に派遣し、活発に、かつ秘密裏にこれらを回収を進めた。
結果、その戦力は開戦時点で、戦艦2、巡洋戦艦1、空母10(客船改造含む)、重巡洋艦5、軽巡洋艦9、駆逐艦29、潜水型駆逐艦14、護衛駆逐艦41、潜水母艦6、強襲揚陸艦4、水上機母艦3、その他補助艦艇多数。伊号潜水艦45隻、呂号潜水艦41隻等々……。艦艇の数だけならば、そこらの海軍を凌駕する規模を持っていたのである。
補助艦艇には、日露戦争時代や戦間期のものも多いが、戦闘艦艇として再生させたものは、イギリス、フランスとドイツの戦争で沈んだものが多数を占めている。
第一戦闘群で例を上げれば、戦艦『土佐』は標的艦、重巡洋艦は、ドイツ装甲艦の『アドミラル・グラーフ・シュペー』。空母は瑞鷹『プレジデント・フーバー』、白鷹『シャンブラン』の客船改装。
軽巡洋艦『狩野』は、ドイツ軽巡洋艦『ケーニヒスベルク』、『秋野』は『カールスルーエ』。
防空駆逐艦『雪月』は、イギリスのC級巡洋艦『カリプソ』。
駆逐艦『深雪』は、『電』との衝突で沈んだ吹雪型の一隻。『晴雪』はドイツのZ2、『斑雪』はZ9。『青雲』はイギリスのトライバル級『アフリディ』、『天雲』は同『ヴルカ』。巡洋艦や駆逐艦は、ノルウェーを巡る戦いだったり、北大西洋を巡る通商破壊などで沈んだものが多い。
潜水駆逐艦の『氷雨』は日露戦争時代の巡洋艦『吉野』、『白雨』は巡洋艦『笠置』、『早雨』は巡洋艦『千歳』。
第三一潜水戦隊の潜水母艦『薩摩』は、標的艦で沈められた戦艦『薩摩』。護衛駆逐艦『柿』はイタリア駆逐艦『ダニエラ・マニン』、『樺』は同『チェザーレ・バッティスティ』。
潜水艦は伊700から伊709までは、フランス海軍のルトゥタブル級『プロメテウス』『フェニックス』『パスツール』『アキレス』『アゴスタ』『ウシャント』『アヤックス』『ペルセウス』『スフィックス』と、戦間期の事故、フランス降伏時などで同型が揃っていたりする。
「戦艦三隻ですか……」
阿久津艦長は、雑談するように話を振った。
「改装するのでしょうが、どういう艦にするつもりなんですか?」
アメリカの戦艦。最近、就役の始まった新戦艦群を除けば、速力が21ノット前後。連合艦隊でも、ここまで低速だと使い道に困るのではないか。
もちろん、魔技研の造船部にかかれば、そのままの再生はありえず、機関や砲の更新は当然として、最新の器機も取り入れられる。人員については大幅な自動化と、ゴーレム人形が担うことになるだろう。
「造船部のすることだが――」
神明はそう前置きした。
「おそらく25ノット前後の中速戦艦に改装するんじゃないか」
「微妙ですね」
諏訪は言った。
「その速力では、いまどきの空母の護衛にも使えません」
「そうでもない。うちの改装空母の足を考えてみろ」
第一戦闘群の『瑞鷹』を中心に22ノット前後のものが半分を占める。他艦からの再生や回収で30ノット前後の速力を発揮するものもあるので、それらの護衛には25ノットでは遅いが。
「フネによって、空母部隊の護衛も可能だ。それに戦艦には、対地支援の艦砲射撃も見舞える」
神明は告げた。
「特破隊の空母は基本、通商破壊で一度に多数の機を投入する作戦には不向きだ。もちろん、少数機でも複数の同時攻撃が可能なように進めているが、その点、戦艦の艦砲射撃は数を撃ち込めるからな」
今後、軍令部が推し進める米豪分断作戦で行われる島嶼戦でも、艦砲射撃の出番はあるだろうと考えている。
「まずは、回収しないことには始まらないが」
「回収艦には位置情報は知らせてあります」
阿久津は背筋を伸ばした。
「それで、これからの行動ですが、おそらく敵は撃沈前に、位置情報を通報していると思われます。こちらにも通報を受けた敵の増援が現れる可能性もありますが」
撤退しますか、という確認に、神明は首を横に振る。
「いや、通商破壊部隊らしく、米本土に近づいてやろう。巡洋艦や駆逐艦が少数であれば、それらも沈める。大挙して航空機が向かってくるというのなら、その時はあの方法でさっさと逃げるさ」




