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復活の艦隊 太平洋戦記  作者: 柊遊馬


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第6話、轟沈、米戦艦


 戦艦『土佐』の41センチ砲弾10発は、3万6000メートル先の米戦艦『メリーランド』に吸い込まれた。

 基準排水量3万2600トン。全長190メートル、艦幅29.7メートルの中に、1020キログラムの砲弾が頭上から降り注いだ。


 水柱一本。ほか九発が、コロラド級戦艦に満遍なく降り注ぎ、アメリカ戦艦の特徴とも言える籠マストを爆砕し、主砲天蓋や水平甲板を撃ち抜いた。

 その結果どうなったか? 一番、二番砲塔の天蓋127ミリの装甲を貫通した砲弾が弾薬庫を吹き飛ばした。


 艦首が、真珠湾攻撃で爆沈したアリゾナのように破裂するように吹き飛び、船体をへし折った。爆発で噴き上がった黒煙が辺りに広がり、千切れ飛んだ鋼鉄の破片が、数千メートルまで飛ばされ、海面に落ちて飛沫を上げた。


「敵コロラド級戦艦、轟沈!」


 見張り員が絶叫し、『土佐』の艦橋に歓声が上がった。初弾命中、そして撃沈。これはラッキーヒットで轟沈した巡洋戦艦『フッド』以上の速攻であった。

 訓練通りの成果に、諏訪先任参謀は感心するが、司令である神明は微妙な表情だった。


「命中率90パーセントか」


 一発外したね、と彼は言った。まるで全弾命中は当然と言わんばかりであった。事実、弾道制御を行う能力者である正木 初子にかかればそれができると神明は考えていた。


「砲弾を節約できることはいいことだ」


 散布界に包み込んだら、あとは当たるまで撃ちまくる遠距離砲戦は、当然ながら命中する砲弾より外れる砲弾のほうが圧倒的に多い。

 兵器は揃えても、弾の生産、補充能力に疑問のある日本海軍にあって、無駄を極力省いて効率よくというのが、神明の兵器運用、設計のポリシーでもあった。


「次の斉射で、もう1隻仕留めようか、艦長」


 まるで散歩にいくように軽い調子だった。阿久津艦長は頷いた。


「了解です。目標、テネシー級戦艦!」


 戦艦『土佐』の次なる目標が指定される。

 テネシー級戦艦――アメリカの標準型戦艦の中で、主砲を除けば、ほぼコロラド級戦艦に近い性能を持つ。


 というよりも、テネシー級戦艦に16インチ砲を搭載した改良型がコロラド級戦艦である。本来は14インチ三連装砲四基のところを、日本海軍の長門型に対抗するために16インチ砲を載せたのがコロラド級。であれば、それを撃沈できた『土佐』にとって、テネシー級は困難な相手ではない。


 むしろ、日米の緊張の高まりから、大規模改装を見送った結果、テネシー級戦艦は現代において、ちぐはぐな面も見受けられた。なお防御面は16インチ砲装備だったコロラド級とほぼ同じと、14インチ砲戦艦としては堅牢な艦と言える。アメリカ海軍の防御を重視した設計のなせる業……というより準同型艦故ともいえるかもしれない。


「目標、捕捉。射撃準備よし」

「撃て」


 短い命令を受けて、土佐の主砲が炎と煙を噴き上げた。交互撃ち方ではなく、またも全門一斉射でる。



  ・  ・  ・



「『メリーランド』が一撃で葬られた、だと……!」


 USSテネシー艦長、チャールズ・エドウィン・リオーダン大佐は愕然とした。

 日本戦艦が砲撃を開始した。だが3万5000を超える距離からの砲撃など、まず当たらない。水柱が海面を割り、そこからどこに落ちたかを見て、より精度を上げていくものだ。


 それがどうだ。ありえないことに初弾でほぼ全ての砲弾が、『メリーランド』に殺到し、これを破壊してしまった。

 これもあり得ないことだ。砲弾がばらつかず、その一点――全長190メートルの中に収まるなんて!

 リオーダンは迷う。


『メリーランド』が、敵戦艦と撃ち合い、こちらは援護する役回りのはずだった。彼の指揮する『テネシー』は、真珠湾攻撃の損傷が原因で主砲は半減している。しかもまだ射程の外で砲撃ができない。仮に最大射程に入ったとて、まず当たらない。

 だが敵は、こちらを遥かに上回る射程を持ち、メリーランドに一発も撃たせないまま撃沈する離れ業を見せた。


 あの魔法のような砲弾命中率は、偶然と片付けていいのか大いに迷うところだが、少なくともコロラド級戦艦の装甲を貫通できる攻撃力を持っているのは確実だ。

 そしてこの『テネシー』の装甲は、『メリーランド』と同じ。つまりテネシーもまた、敵弾によって轟沈させられる可能性があるということだ。


 始末が悪いのは、あの悪魔的命中率がまぐれでなかった場合、最悪の事態を招くことにある。『テネシー』は『メリーランド』より明確な弱点を晒しているのだから。


 パールハーバーアタックで受けた爆弾によって、主砲の天蓋にダメージがあって、装甲もあってない状態である。そこにもし敵弾が突っ込んだら、『テネシー』は『メリーランド』の後を追うことになる。


 では逃げるか――艦長の脳裏に過る選択。だがそれも不可能だ。敵戦艦は28ないし29ノットで突き進んでいる。

 アメリカの標準型戦艦の速力は最大21ノット。これではとても逃げられるわけがなかった。


 であるならば、もはや突っ込むしかない。まぐれ当たりでも何でも、敵戦艦に打撃を与えることを期待し、突撃。奇跡が起これば、敵の射撃装置にダメージを与えたり、舵を損傷させたりできるかもしれない。

 正直、全財産を賭けるに等しい酷い博打だが、やらなければ奇跡は起きない。リオーダンが決意を固めた時、日本の新戦艦の主砲が火を噴いた。


 狙われた。

 残っているのはこの『テネシー』のみだ。リオーダンは逡巡する。日本軍が『メリーランド』を一撃で葬ったのがマグレでなかったら?

 あの恐るべき全門斉射が、この距離で正確にヒットさせるものであるならば、回避運動をしなければならない。あり得ないことが起きただけに、本来ならしないことも気になるのである。


 最短で距離を詰めるなら直進だが、ここは時間がかかってもジグザグで動いて、回避も並行するべきか。

 砲撃は当たらないものだが、発砲するまでは敵味方の速度から、未来位置を算出してそこに撃ち込む。だからその予想位置を踏まなければ砲弾の中に突っ込むことはないという理屈は成立するのである。


取り舵(スターボート)!」


 リオーダンは命令を発した。しかし戦艦は、命じてから実際に舵がきき始めるのに時間がかかる。弾着が迫る中、左へ艦首が向き始める。遠距離である分、砲弾が落ちてくるまで余裕があるのだ。

 だが、意志を持ったように、わずかに軌道を修正した砲弾が、『テネシー』に覆い被さってきた。

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