第5話、戦艦 対 戦艦
チャールズ・リオーダン大佐は、結局のところ救助作業を優先した。太平洋艦隊司令部は何も言ってこなかったからだ。
あるいは近場の友軍が急行中で、それが現れるまで現海域に留まれということなのかもしれない。
危惧していた日本軍の反復攻撃はなかった。
だが、より悪いものを引き当てた。
日本軍の水上打撃部隊が現れたのだ。
「戦艦1、重巡洋艦とおぼしき艦1、駆逐艦2。戦艦と巡洋艦は、未識別の新型の模様!」
見張り員の報告に、リオーダン大佐は歯噛みする。
「ここは合衆国の庭先だぞ。ジャップの空母どころか戦艦までうろついているとか、どうなっているんだ……!」
どこまでも馬鹿にしている。それとも――
「もしや日本軍は、米本土攻撃に大艦隊を動かしているのか……?」
その途中で、『テネシー』ほか戦艦群を発見し、艦隊から戦力を分散させてこちらに向かってきたのではないか。
「おい、本土のほうは何か騒ぎになっていないか?」
通信士官に確かめさせる。もし日本軍が米本土攻撃を起こっているのであれば、無線も相当混乱している可能性もあるが。
「いえ、特に敵の攻撃を知らせる通信は、これまでのところ傍受されていません」
ただ、まだ攻撃されていないだけで、これから攻撃が始まるという可能性もあった。
「艦長、とりあえずのところ、どうされますか?」
航海士官が尋ねた。
「敵が接近しつつあります」
「応戦したいのは山々だが……」
戦艦『テネシー』は、14インチ――35.6センチ三連装砲を四基搭載するが、真珠湾攻撃で第二、第三砲塔に被害を受けたため、砲撃能力は半減している。
さらに悪いのは、現れた日本戦艦が、艦級不明の新型艦らしいということ。ワシントン、ロンドン海軍軍縮条約失効後に作られた新戦艦であれば、日本海軍は長門型と同じ16インチ砲を装備しているに違いない。防御力はともかく、攻撃力では劣っているのは想像がつく。
それを手負いの『テネシー』で相手をするのは――
「艦長、USSメリーランドから通信。敵は本艦が応戦するので、『テネシー』は離脱されたし」
メリーランド艦長のドナルド・C・ゴドウィン大佐は、日本の新戦艦を相手どるつもりだ。どちらかといえば静かなタイプだが、実戦では率先して動く人間である。
彼が指揮するコロラド級『メリーランド』は、海軍軍縮条約後の新戦艦を除けば、最強の攻撃力を持つ。16インチ――40.6センチ連装砲四基八門と、砲の数では長門型と同等。しかし攻防の性能ではそれを上回っていると目される。
日本の新戦艦といえど、速度を除けば互角以上に渡り合えるだろうが……。
「いくらなんでも単艦は不利だろう」
リオーダンは、戦闘配置を命じる。
「主砲は二基しか使えないが、巡洋艦の相手には充分だ」
当たれば、重巡洋艦だろうと一撃で大破させられるだろう。『メリーランド』が日本の新戦艦を相手どっている間、邪魔されないように立ち回ることもできる。
最大仰角30度。1500ポンド(680キロ)徹甲弾を最大3万5100ヤード――3万2100メートルの範囲で届かせる。
数の不利さえ覆せたならば、新戦艦1隻にも充分対抗できるだろう。
・ ・ ・
日本海軍特破隊、第一戦闘群通商打撃戦隊の四隻は、27ノットの速力で疾走。アメリカ戦艦2隻に追いついた。
先頭は対潜警戒の駆逐艦『天雲』、続いて旗艦である戦艦『土佐』、重巡洋艦『妙義』、駆逐艦『青雲』が単縦陣で続いた。
戦艦『土佐』の艦橋で、神明 龍造大佐は命じた。
「遠距離砲撃戦を仕掛ける。右砲戦」
それに合わせて、『土佐』の艦首側二基、艦尾側三基の45口径41センチ連装砲が指向。さらに仰角を上げる。
その射程は最大3万8430メートル。砲弾重量1020キログラムの九一式徹甲弾を放つ。
諏訪 将治先任参謀が口を開く。
「お試しになるのですか?」
「問題はない」
神明は返した。本来、最大射程での砲撃など、まず当たらない。そもそも砲撃の命中率など、近づかなければあてにならない代物だ。敵も味方も常に動いていて、波の動き、風、重力など環境にも影響を受ける。離れれば離れるほど目標に当てるのは至難の業である。
が、そこは魔技研の技術と、特殊な能力を持った人間、いわゆる魔法的な能力で補う。
「コロラド級が向かってきているが、あれが撃ち出すのは早くても2万5000前後だろう。こちらが一方的に叩いて沈めてやる」
確信めいた神明の声。演習時の命中率は知っている諏訪だが、実戦と演習は違う。どうして上司がそこまで自信を持てるのかわからなかった。
「艦長」
神明が確認するように言えば、『土佐』艦長の阿久津 英正中佐が隊内電話を手に頷いた。
「射撃準備、完了です。彼女も、いつになく意気込んでいるようですよ」
彼女――この戦艦『土佐』を制御する『魔核』と呼ばれる装置を制御する能力者の、正木 初子大尉のことである。前世、魔力持ちの人材を集め、その能力を活用した魔技研であるが、今世でも神明は同様に人材を集め、登用した。それが女性であっても。
もっとも、正木 初子に限れば神明の妹の娘であり、古くから付き合いはある。ちなみに神明自身も能力者である。
「よろしい。では、撃ち方始め」
「うちーかた、始め!」
阿久津艦長が復唱、というより命令を発すると、『土佐』の十門の砲門が一斉に火を噴いた。
全門斉射。通常の砲撃では、弾着を確認する意味を込めて、一門ずつ五発を撃つものであるが、能力者である正木 初子にはそれは必要なかった。
何故なら彼女は、砲弾を追尾し、その弾道を空中で修正させる力を持っているからだった。
遠距離である砲弾は散らばり、一定の範囲内に弾着する。散布界。これが狭いほど、目標に命中しやすくなるわけだが、正木 初子は無理やり弾道を曲げて、砲弾を収束させる。
その結果は、劇的だった。




