第4話、航空機が去って
瑞鷹第一次攻撃隊が、本土へ回航中の米戦艦群を攻撃した。
敵艦隊に貼り付けた特偵察飛行隊の観測機からの報告は、特第一戦闘群の旗艦『土佐』に届いた。
先任参謀、諏訪 将治少佐は通信を読み上げた。
「第一次攻撃隊は、敵駆逐艦三隻を撃沈。ペンシルベニア級戦艦一隻を大破、転覆させたとのことです」
「……」
神明 龍造大佐は無言だった。艦橋にいたクルーたちは、戦艦一隻の実質撃沈に声をあげようとしたが、司令官の沈黙に押し黙った。
諏訪は口を開いた。
「駆逐艦、一隻残っているようですね」
特破隊を作った男は、これまでの言動からすると、熱烈な通商破壊戦主義者である。
特破隊の目標は、敵船団を一隻残らず沈めることであり、航空機だろうが潜水艦だろうが、自軍にもっとも被害を与える可能性のある護衛戦力、駆逐艦を最優先ターゲットと定めていた。
何故なら、駆逐艦を全滅させれば、残った船を葬るのは容易いからだ。潜水艦も、ハンターのいない輸送船を仕留めるのは難しいことではない。
その観点からすると、空母も優先攻撃対象にしてもよさそうなものだが、神明は、航空機の攻撃に対する回避方法を発明して以来、こと通商破壊戦において、空母の撃沈の優先度を下げたのだった。
むしろ、敵を誘因できるとばかりに、敵空母とその艦載機を利用しようと考えるくらいであった。
「小隊を四機にすべきだったかもしれないな」
神明は言った。
「小隊ごとに目標を振ったせいで、一隻あぶれてしまったのだろう。切りが悪かったんだ」
第一次攻撃隊が、駆逐艦を一隻残してしまったのはそういう理由だろうと、想像したのだ。
が、ここで追加の報告がくる。
「特殊偵より報告。攻撃隊が残存駆逐艦を撃沈。残るは戦艦2隻。攻撃隊は撤収を開始」
「ふむ……」
神明が考える中、諏訪は眉をひそめた。
「まさか機銃掃射をしたのでしょうか?」
対艦誘導弾がないから、接近して他武装で攻撃したとか。
「機体の被弾、鹵獲を防ぐため、今回は接近しての攻撃を禁じたはずですが、まさか――」
「いや、おそらく対航空機用の誘導弾を使ったのだろう」
九八式艦偵中隊の運用に当たって、必ず1個小隊が、敵の空中哨戒の戦闘機用の中型誘導弾を積むことになっている。九八式艦上偵察戦闘攻撃機の、戦闘の部分は、誘導弾を用いたアウトレンジ航空戦も含まれているのだ。もちろん機銃掃射もできるのではあるが。
「相手が駆逐艦だから、当てさえすればそれで大打撃を与えられると考えたのだろう」
「……確かに、駆逐艦はあちらさんでもブリキ艦なんて言われているほど、防御に不安のあるフネではありますが」
機銃掃射で穴があく駆逐艦であれば、航空機用誘導弾でも当たり所によっては、破壊もできる。……駆逐艦で幸いだったな、と神明は思う。
「創意工夫、ということにしておくさ」
「はぁ……」
曖昧な表情になる諏訪。神明は軍帽をかぶり直した。
「残るは戦艦二杯だ。我々と潜水艦、どちらが先に着くかな」
・ ・ ・
日本軍の航空機は去った。
BB-43、USS『テネシー』、艦長のチャールズ・エドウィン・リオーダン大佐は、空襲の後、すぐに漂流する駆逐艦乗組員の救助活動を命じた。
他に残ったBB-46、USS『メリーランド』もまた、戦艦『ペンシルベニア』や駆逐艦漂流者の救助に移っている。
「まったく忌々しい限りだ」
リオーダンは唸った。
「パールハーバーに続いて、再びジャップの空襲を受けるとは」
真珠湾攻撃では、テネシーは爆弾二発を受けたが、それで砲が二基使用できない状況にある。『メリーランド』『ペンシルベニア』と比べても被害が大きいのが『テネシー』ではあったが、まだ真珠湾に残っている戦艦群に比べれば遥かに損害は軽かった。
だが――
「まだ距離はあるとはいえ、ここは我がアメリカのテリトリーだろうに」
潜水艦が通商破壊のついでに攻撃をかけてくるというのならまだわかる。通商破壊は海軍の基本だ。だから戦艦部隊の回航にも護衛の駆逐艦がついていた。
だが単発機の空襲とは、この近くに日本の空母が近くに存在するということだ。
「空母部隊は日本本土に戻ったのではなかったのか」
「しかし、あれは日本軍だったのでしょうか?」
航海士官が言った。
「あれは、こちらの高角砲の射程の外から空を飛ぶ爆弾で攻撃しました。パールハーバーの時だって、あんな武器は――」
「我々に攻撃してきたのだ。ジャップに違いない」
そもそもこの太平洋で、日本軍以外にアメリカの戦艦を攻撃してくる者などいるものか。ナチス・ドイツ? 連中は大西洋だ。Uボートならともかく、太平洋に艦艇を送り込むのは実質不可能である。そもそもの話をするなら、ドイツには空母はない。
だがあの飛翔する爆弾については、ナチスが同盟国である日本に技術提供をした可能性は高いだろう。東洋の山猿が、合衆国の想像だにしない兵器を作れるはずがないのだ。
苛立つリオーダンだが、段々思考は冷めてくる。
敵空母が近くにいるなら、戦艦2隻がここに留まっていていいのか? 海の男として、投げ出された味方の救助を躊躇う理由はないが、こうしている間にも敵が第二の矢を放ってくるかもしれない。
真珠湾攻撃や、『ペンシルベニア』の撃沈がなければ、航空機など恐れるものではないと、堂々と救助作業を続けただろう。敵は少数機だが、それでも『ペンシルベニア』を沈めてみせた。
攻撃隊の規模からすれば、敵は小型空母の可能性は高いが、それでも反復攻撃にさらされれば、『テネシー』『メリーランド』とて無事に切り抜けられる保証はない。繰り返すが、『ペンシルベニア』がやられているのだ。
すでにハワイとサンディエゴに、空母を含む敵艦隊の存在の可能性大と報告はしている。あるいは漂流者の救助を、近場を通っているだろう船団に要請し、本土へ回航を続けるべきではないか。
貴重な戦艦を、ここで沈められたら合衆国の損失だ。真珠湾と違い、ここでやられたら復帰はない。
難しい判断だ。太平洋艦隊司令部が指示を出してくれれば、全力にそれに乗っかるのだが。




