第65話、新型局地戦闘機
須賀 義二郎海軍少尉は、航空機搭乗員である。
開戦時、空母『蒼龍』に乗り込み、戦闘機隊の一員として零式艦上戦闘機を駆って真珠湾攻撃にも参加した。
その後、しばらくは機動部隊と共に転戦したのだが、突然、魔技研とかいう得体の知れない研究機関に転属となり、内地に呼び戻された。
そこで幼馴染みの正木 妙子少尉――能力者ゆえの特例で女性でも海軍に所属している――と出会い、九頭島の航空隊に配属となった。
聞けば、須賀も能力者だという。適性検査でそのような結果が出て、魔技研――引いては特破隊のパイロットとなった。
「――それだけ貴様は優秀な戦闘機乗りということだ」
神明 龍造大佐は表情にとぼしく事務的にそう告げた。
「前世の貴様は、あらゆる機体を乗りこなしていた」
特破隊の実質ボスという噂の大佐が直々に会いにきて、そんなことを言う。前世と言われてもこの人は頭大丈夫だろうか、としか感想のない須賀である。
「はあ、それで。私は何に乗ればいいんですか?」
ようやく新型――魔技研と武本重工共同開発の一式艦上戦闘攻撃機の扱いに慣れたところに、一度も実戦で飛ばすことなく、もう別の機体に乗れは、さすがに酷くないかと思うのだ。
「試製局地戦闘機のプロトタイプというやつだ。こいつはこれまでの航空機とは一味もふた味も違う」
「新型ですか」
一式艦戦だって新型なのに、さらに別の新型とか。これではテストパイロットではないか。
とはいえ、新型というワードは、須賀にある種のワクワク感を与えた。腐っても戦闘機乗りということだ。
武本重工の工場にやってきた須賀と正木妙子、そして神明。さっそく実機を見せられる。
「どうだ?」
「……プロペラがないですね」
鋭角的な機首。マ式冷却方式のマ冷エンジン搭載機は、水冷エンジン機と同様、先端が細くなっているものだが、これはそもそも機首にプロペラをつけるものではない印象だ。
ノーズが伸びているように見える分、従来機より全長が長く見えた。その割に翼の幅がそれほど大きくないのが、違和感を与えた。
つまり従来のレシプロ航空機は、縦が短く、横に長いのだが、この機体は逆なのだ。
「エンジンは、後ろですか?」
誘導弾のロケットノズルのようなものが一番後ろにあるので、そうではないかと須賀は推測する。例によって、プロペラ軸はないが。
「これはロケット航空機ですか?」
「いや、ジェットエンジンだ。欧米ではすでに開発が進んでいるものだが……私の場合は、前世の知識があるのでな」
また前世とか言った。いやに強調しているように聞こえるのは気のせいだろうか。須賀は首をかしげる。
神明はかまわず続けた。
「正確には魔力式ジェットであって、外国のそれとは違うのだがな。レシプロ航空機よりも断然早いし、燃料と混合させるのが空気ではなく魔力だから、高高度でも性能が落ちない。局地戦闘機という通り、高高度の重爆撃機に余裕で追いつける代物だ」
「それが前世ですか」
「白電、震電といった高高度局地戦闘機があったんだが、まあそれをさらに改良したものだ。5年や10年は未来を先取りしている」
実際、神明はマ式エンジン搭載型震電の機体の後部を延長し、前翼装備のエンテ型ではなく、通常の飛行機同様、後ろに尾翼をつける形にした。エンテ型特有の挙動を見直した結果、機首や前半分は震電の面影を残しつつも、機体の後ろ半分は別の航空機をつけたような印象を与えた。
「これ、速いんですか?」
「現時点でも最高時速800キロは超えている。正式配備の頃には900は出せるようにしたい」
そのスピードは、現状どの戦闘機も追いつけない。世界最速機といってもよいのではないか。まるでロケットだ。
須賀はコクピットを見やり、眉をひそめた。
「これ、複座ですか……」
戦闘機乗りである須賀の本音をいえば、やはり単座であるのが好ましい。さすがに複座の相棒をお荷物とは言わないが、その分、重量が増えるのもまた事実である。
その点、特破隊の新鋭機、一式艦戦は基本は単座。任務によって九八式艦偵と同じく複座にもできた。
「どちらがいいんだろうな?」
神明は逆に問い返した。
「自動操縦コアの補助がつくから、単座でも構わない気もするが、航空管制、誘導弾の補助で複座がいいのか。それを貴様が、正木 妙子と飛んで記録に残せ」
ちら、と後ろに立っていた正木 妙子を見やる。彼女には姉、初子がいるが、そちらとは違い、ややもすればボーイッシュな雰囲気をかもしだす。姉がお淑やかなら、妹は元気娘である。
その妙子はニッと笑みを返していた。まだ幼馴染み気分が抜けなかった。
「彼女は、私の姪っ子でもある。丁重に扱えよ」
ギロリと神明が睨んできたような気がして、須賀は自然と背筋を伸ばした。何だか若干目の敵にされている気がするが、何かしたのだろうかと思っても心当たりなどない。……まさか前世で何かあったとかではあるまいな?
全長11.7メートル、翼幅8.4メートル。全高4.51メートル。主翼は後退翼で、爆弾倉はなし。ただし誘導弾や爆弾用と思われる接続レールが5つ。これが局地戦闘機というのが本当であれば、空対空用の誘導弾用がメインで、対艦誘導弾クラスだとせいぜい2、3発が限界ではないかと須賀は推測した。
「内蔵の機関砲は、20ミリですか?」
「いや光弾砲だ」
神明は答えた。光弾砲――魔技研の独自開発兵器で、何とかいう粒子を光の魔法とやらで加速して撃ち出すという武器らしい。以前に説明を受けたが、よくわからない。わからなくても引き金を引けば出るのだから問題はない、とその時の説明で言われた。
九八式艦偵にも、一式艦戦にも搭載されていたので、いまさらどうこういうつもりはない。試射はしたが、実機相手に使ったことがない須賀としては、信用できるのか怪しかった。
連射性能は低いが、弾速は恐ろしく早く、当たれば戦闘機なら一、二発で破壊。重爆撃機相手でも二、三発当てれば大体沈むと言われた。つまり、威力は40ミリ弾程度はあるということだ。それが重力に負けずにお辞儀せず真っ直ぐ飛ぶのであれば、実際の40ミリ機関砲より、遥かに使いやすいだろう。
「マニュアルだ。アメリカさんに習って、馬鹿でもわかるように作ってある。明日にも実機でテストをやってもらう。そのつもりで」
「はい……」
分厚い手引書だ。須賀はうんざりだったが、それ以上は態度には出さなかった。




