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復活の艦隊 太平洋戦記  作者: 柊遊馬


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第61話、トリンコマリー空襲


 4月9日、南雲機動部隊はセイロン島、トリンコマリーの東方およそ200海里から第一次攻撃隊を飛ばした。

 零戦41機、九七式艦上攻撃機91機からなる攻撃隊である。


 空母『赤城』。第一航空艦隊司令長官、南雲 忠一中将は西へと飛び去る航空機群を見送り、かすかに首を振った。


「結局、英東洋艦隊は姿を見せなかったな」

「さすがにここまで現れないとなると、セイロン島から撤退したのかもしれませんな」


 草鹿 龍之介参謀長は真顔であった。

 昨日はセイロン島からと思われるカタリナ偵察機に発見された。これに対して、東洋艦隊との対決も視野にやってきている南雲機動部隊は、敵空母の出現に備え、いつでも攻撃隊を振り向けられるように準備していた。


 奇襲は望めない。しかし強襲で上等と考えていたのだが……、結局、敵は現れなかったのである。

 午前10時、セイロン島北部、トリンコマリーに攻撃隊は到着。飛行場と港湾に対して殴り込みをかけた。


「さすがに、敵基地も迎撃態勢は整えているでしょう」


 草鹿は言った。


「昨日の接触で、我々がトリンコマリーを空襲する可能性を考えないはずがありませんから」

「軍港の船もいくらか脱出しているかもしれない」


 さすがに英軍も警報を出しているだろう。ここで何もしていないなどという怠慢など考えられない。

 なにせ今朝も、カタリナ飛行艇が艦隊に触接しようとしたからだ。随伴する防空巡洋艦の『六角』がマ式電探によりこれを発見。直掩の零戦が撃墜した。

 だがそれは、おそらく敵にもバレている。


「攻撃隊は強襲だが、大丈夫だろうか?」

「はっ、おそらくコロンボを攻撃した時と同程度が迎撃してくると思われますが、我が零戦隊がこれを鎧袖一触にしてくれることでしょう」


 艦隊にいればわからないが、実際のところ、トリンコマリーには、ホーカー ハリケーン17機、ファアリーフルマー6機が第一次攻撃隊を迎え撃った。


 しかし、フルマーの鈍足ぶり、ハリケーンが零戦得意の格闘戦に乗ってきたために、日本側の護衛戦闘機隊は、英軍機を圧倒した。

 攻撃隊も飛行場と港湾施設を破壊。モニター艦『エレバス』ほか被害を軍港の艦艇に与えた。


 そして攻撃からおよそ1時間といったところで、周辺索敵中の戦艦『榛名』の水上偵察機が、トリンコマリーから事前に脱出した艦艇を発見した。


「長官、空母です! 英空母1隻と駆逐艦3隻を発見との報告です!」


 もたらされた報告に、空母『赤城』の艦橋に緊張が走った。参謀たちが何か言うでもなく、南雲は頷いた。


「第二次攻撃隊、発進。目標、敵空母!」


 準備万端の攻撃隊が5隻の空母の飛行甲板から滑り出した。『蒼龍』『飛龍』から零戦3機ずつが護衛につき、九九式艦爆85機が飛び立つ。その内訳は、『赤城』から17機、『蒼龍』『飛龍』『翔鶴』から各18機ずつ、『瑞鶴』から14機である。


「しかし、若干、戦闘機が少ない気もする」

「上空直掩に振り向ける分を考えますと、それほど余裕があるわけではありません」


 源田 実航空参謀は答えた。


「かといって戦闘機を増やしますと、攻撃機を減らすことになりますので、それはできるだけ避けたく思います」


 攻撃機の減少は空母航空隊の打撃力が落ちてしまう。それは許容できない。

 そもそも偵察も行える艦上攻撃機を、索敵に多く用いることをあまりよく思っていない司令部である。敵を見つけることは大事だが、それによって敵を仕留め損なうことがあっては困るという論法だ。


「特破から、新たな空母がこちらに回ってきましたら、多少は改善するものと思われます」


 源田は言ったが、南雲は渋い顔をする。


「特破か。……使えるのか?」


 連合艦隊とは別の組織、それも何やら得体の知れない研究をしている魔技研と関わりの深い特破隊である。多くの海軍軍人同様、南雲も懐疑的である。

 通商破壊で活躍しているのは小耳に挟んでいて、多数の船舶を沈めているのは聞いている。

 米戦艦3隻を沈めた話もあるが、あれは第一航空艦隊が徹底的にダメージを与えた、いわゆる瀕死状態のところを介錯したのであって、正面から戦った戦果とは言えないと思っている。


「山本長官曰く、こちらの空母に随伴できる程度のものを引き抜いたそうですから、足手纏いにはならないでしょう」


 一応、連合艦隊司令部から、特破隊の提出した表を見た源田である。空母の数は多かったが、半数以上が第一航空艦隊で低速である『加賀』よりさらに遅く、とても連れて行くことができなかった。さらに艦載機搭載数も少ないとあれば、なおのことだ。


「ただ、護衛につけた防空艦については多少期待はしていいかと」


 実際、主砲がすべて高角砲という防空巡洋艦や駆逐艦の存在は、借り物の第一水雷戦隊よりも有力な護衛となろう。

 さらに特破艦艇が用いるマ式電探は、こちらが一方的に索敵できる上に、敵に同様の装備がないために逆に探知されることがない優れものであった。


 事実、敵の哨戒機など、マ式電探装備艦からの通報は、従来の対空監視よりも遥かに勝っていた。

 南雲は考え深げな顔になる。


「どこで聞いたか覚えていないが、以前、電探を使うことは夜中に提灯をつけて歩くようなものだと言われていた」


 電探――レーダーは電波を発する。それで索敵するのだから当然だが、その電波は敵も拾えるので、何者かがレーダーを使っているのがバレてしまう。むろん、正確な位置はわからないにしろ、敵の存在自体はわかるのである。

 源田は少し躊躇いつつ言った。


「奇襲はやりにくくなりますからね。ただマ式電探は、敵に絶対に察知されないのであれば、猫の目を手にいれたようなもので、我が軍が一方的に有利になります」

「悪い話ではない、な」


 南雲は頷いた。ただ一航艦司令部では、まだ電探を使った索敵という点のみしか考えが至らず、発見した敵への対処についてまだまだ追いついていなかった。


 この時、マ式電探によりセイロン島より敵機編隊が接近しつつあるという通報を受けて、直掩の零戦が迎撃に向かったが、大まかな位置情報のみで、誘導らしきものもなかった結果、敵――ブリストル・ブレニム双発爆撃機9機に、かなり踏み込まれ、あわや爆撃されるところもまで迫られた。

 結果を言えば、第一航空艦隊の空母に被害はまったくなかったわけだが。


 優秀なレーダーがあるとしても、それを有機的に艦隊防空に活かせられるかは、別問題なのである。

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