第60話、マラヤフォースの通商破壊
南雲機動部隊が、セイロン島に対する攻撃を仕掛けていた頃、インド洋北部ベンガル湾を、日本海軍馬来部隊が進撃していた。
ベンガル湾北部カルカッタを行き来する連合軍船舶に対して通商破壊をすると共に、攻略して日が浅いアンダマン諸島を防御するための作戦行動である。
馬来部隊旗艦の『鳥海』は、高雄型重巡洋艦の四番艦である。
基準排水量1万3400トン。全長203.76メートル、艦幅19.52メートル。機関出力13万3100馬力、速力34.25ノット。20.3センチ連装砲5基10門を装備する条約型重巡洋艦として日本海軍の完成形とも言える艦である。
しかし艦隊旗艦としての機能を重視し、あれやこれやと載せた結果、艦橋が巨大になり、海外からはその艦影についてあまりいい印象は受けていない。
またその後の第四艦隊事件などで船体の強度やバランスの見直しが図られたことで、一番艦『高雄』、二番艦『愛宕』は改装時に艦橋の縮小化が行われた。
だが『鳥海』は改装の機会を逸し、初期の巨大な艦橋をもったまま今次大戦に突入していた。
「要は忙しくしてやるということだ」
小沢 治三郎中将は言った。
第一航空艦隊のセイロン島攻撃、東洋艦隊の撃滅と同時に進行する馬来部隊の攻撃で、英印軍にラングーンへの通商路を手を出させないのである。
「相手が貨物船や商船では、やる気のでない者もいるかもしれんが、これも作戦だ。もしかしたら、ひょっこり大物と遭遇することがあるかもしれん」
特破隊が、通商破壊の中、戦艦と交戦し撃沈した話は耳に届いている。英海軍などは、船団護衛に戦艦をつけている場合もあり、実際にインド洋でR級戦艦を沈めている。
……もっとも、小沢の部隊からすると、戦艦とは遭遇したくないのが本音ではあるが。
部隊は、三つの戦闘部隊に分かれた。
小沢が直接率いる中央隊は、重巡洋艦『鳥海』、軽巡洋艦『由良』、空母『龍驤』、駆逐艦『夕霧』『朝霧』の5隻。
北方隊は、重巡洋艦『熊野』『鈴谷』、駆逐艦『白雲』の3隻で、栗田 健男中将が指揮する。
南方隊は、重巡洋艦『三隈』『最上』、駆逐艦『天霧』で、指揮官は三隈の艦長である崎山 釈夫大佐が執る。
中央部隊は、もっとも多くの船舶が通行するだろう辺りを狩り場としつつ、事があれば北方隊、南方隊を支援できるよう西進した。
北方隊は北に移動し、ポイントDと定めた地点から通商破壊を開始。その後は、マドラス、カルカッタ間の海上航路Eへ移動しつつ、中央部隊と合流する。
南方隊は、南西へ移動し、補給回廊の南から敵を絶つべくポイントFへ。最終的には、ポイントGにて、中央部隊、北方隊と合流する流れであった。
4月5日、インド、ヴィザガパトナムに『龍驤』を発艦した九七式艦上攻撃機が、港に在泊する船舶への攻撃を仕掛ける。
インド空軍第6沿岸飛行隊の哨戒機が、近くにいる日本艦隊を発見。小沢の中央部隊の存在を報告したが、この近くにそれに対応できる部隊は存在していなかった。彼らができることは、日本軍が近くにいることを商船などに警告することのみであった。
そしてこれら通行船舶は、日本軍と遭遇し――砲撃を受けた。『鳥海』の20.3センチ砲が唸り、イギリス船を撃沈すれば、『由良』『朝霧』『夕霧』はオランダ船を沈めた。
午前中にさらに商船6隻を血祭りに上げ、『龍驤』の九七式艦攻も貨物船を雷撃した。
空母を預かる角田 覚治少将は、ヴィザガパトナムにさらに艦攻を送り出し、戦果拡大を図った。攻撃隊のみならず、『龍驤』を突撃させ、商船に対して12.7センチ高角砲を撃ちこんだというのだから、彼の猛将ぶりが遺憾なく発揮されたとも言える。
北方隊もまた、『熊野』『鈴谷』の水上偵察機を出して周辺を捜索。発見した商船をかたっぱしから沈めた。
熊野は最上型重巡洋艦であり、第七戦隊を構成する1隻である。最上、三隈、鈴谷の姉妹艦を持つこの巡洋艦は、川の名前ながら重巡洋艦だった。
海軍軍縮条約により、重巡洋艦の保有枠がなくなった日本海軍が、軽巡洋艦の枠を使って建造したのが最上型である。
基準排水量1万2000トン。全長200メートル。艦幅20.2メートル。機関出力15万2100馬力、速力35ノット。
本来は15.5センチ三連装砲を装備していたが、軍縮条約失効後に20.3センチ連装砲に換装。5基10門と、妙高型、高雄型と同等の火力を持つ。艦橋は先の高雄型の例もあって小型化しているが、性能ではほぼ日本海軍重巡洋艦として劣るところはない。
もっとも建造時に起きた第四艦隊事件などで、前期の最上、三隈、後期の鈴谷、熊野で若干の違いは存在する。
「水偵より、報告! 方位295に、輸送船6隻を確認!」
「目の前の貨物船を早々に片付けよう」
栗田は命じた。
「その後、新たに発見した6隻を叩く」
先に発見した貨物船に8200メートルの距離で砲撃を開始。『熊野』『鈴谷』の射撃は、弾着観測もあって正確であり、あっさりと目標の船は炎上した。
「目標変更。逃げる船団を狙う」
『熊野』は『白雲』と砲撃しつつ、『鈴谷』を回り込ませて、敵の退路を絶つ。砲撃はおおよそ5000メートルから6000メートルの間で放たれた。水偵の支援もあり、商船ならびに貨物船を撃滅する。
「180度反転。集合地点へ迎え」
栗田は反転し、合流地点を目指した。
一方、南方隊も、『三隈』『最上』の水偵を発進させ、航行船舶を発見すると接近してこれらを撃沈した。最上型の20.3センチ砲に対抗できる一般商船は存在しない。通商破壊における砲撃で見れば、重巡ほど適当な艦種はないだろう。
部隊はその後、合流。撤収した。
この3日に渡る通商破壊の戦果は、以下の通り。
中央部隊
・撃沈:「MVバンジョエワンギ」「SSビアンヴィル」「SSガンジス」
:「SSハルパサ」「SSセルマシティ」「SSシンキアン」
:「SSタクサン」「MVファン・デル・カペレン」
・損傷:「MVアングロ・カナディアン」「MVバタビア」
:「SSポイントクリア」
北方隊
・撃沈:「SSオートリクス」「MVエルザ」「エクスムーア」「SSインドラ」
:「SSマルダ」「SSシルクスワース」「SSシルクアン」
南方隊
・撃沈:「MVダグフレッド」「SSダルダヌス」「SSガンダラ」「SSベルモッド」




