第57話、待ちぼうけの東洋艦隊
イギリス東洋艦隊は、セイロン島コロンボ、トリンコマリー、そしてアッズ環礁に分散させていた戦力を集結した。
3月31日、サマヴィル中将は集まった艦艇を高速部隊と低速部隊に分けた。
●イギリス東洋艦隊:司令長官、ジェームズ・F・サマヴィル中将
・A部隊:ジェームズ・サマヴィル中将
空母 :「インドミタブル」「フォーミタブル」
重巡洋艦:「ドーセットシャー」(4月1日に合流予定)
軽巡洋艦:「エンタープライズ」
駆逐艦 :「パラディン」「パンサー」「ネイピア」「ネスター」「ホットスパー」
:「フォックスハウンド」
・B部隊:アルガノン・ウィリス中将
戦艦 :「レゾリューション」「ラミリーズ」「リヴェンジ」
軽空母 :「ハーミーズ」
軽巡洋艦:「カレドン」
駆逐艦 :「ノーマン」「アロー」「エクスプレス」「ヴァンパイア」
:「フォーチュン」「グリフィン」「デコイ」
:「ヤコブ・ファン・ヘームスケルク」「アイザック・スフェアーズ」
:「スカウト」 (追加、合流)
艦隊は、日本艦隊が現れるまで、セイロン島の南の海域を進み、夜間には積極的に日本軍を求め、昼間は距離を置いて、艦隊の連携向上の演習に勤しんだ。
「これでは、ただの訓練だな」
空母『フォーミタブル』の艦橋で、ジェームズ・フォウンズ・サマヴィル中将は肩をすくめた。
「もう4月2日だぞ? 極東合同局の情報だと、日本艦隊は昨日にはセイロン島を攻撃していたはずだ」
「予定より遅れているようですな」
参謀長の言葉に、サマヴィルは鼻をならした。
「そのようだな。あるいは情報部が、誤情報を寄越したのかもしれん」
「その可能性はあります」
参謀長は頷いた。
「であれば、まんまと一杯食わされました」
「我らが大英帝国の情報収集能力も地に落ちたものだ」
「まだ、偽情報と決まったわけでは……」
「そうだな。日本人は我ら英国人と違い、時間通りにはこなかっただけかもしれん。……いや、レディーは古来より遅れてくるものだと相場が決まっている。我々男を待たせて苛立たせるのが好きなのだ」
艦橋に渇いた笑いが起きた。そうでなければやっていられない気分だった。
「提督、B部隊より通信です。第三戦艦戦隊は真水が不足しつつあり」
「水、か……」
「主砲の砲弾を揚げるにも水を使いますから、もし日本艦隊と砲戦となった場合――」
「そりたった15インチ砲が使い物にならなくなる可能性が出てきたわけか」
サマヴィルはやれやれと首を横に振った。
「やはり水分不足は毒だな」
「演習を繰り返しておりますから、そろそろ小型艦の燃料も補給が必要になる頃合いかと」
参謀長も告げた。
「本番のために張り切り過ぎたかな? 練度不足を補うために手ほどきをしてやれば、これか」
「全ては予想されたタイミングに現れない日本艦隊のせいです」
「あるいはFECBのミスか。……決断のしどころだな」
サマヴィルは司令塔の窓まで歩き、インド洋を眺めた。少し考え、そして振り返った。
「作戦を中止する。敵は現れなかった。どの道、こちらは燃料を入れねばならん」
「承知しました」
「問題はだ、どこで補給するか……」
サマヴィルは海図台の元まで歩いた。
「日本艦隊が盛大な遅刻をやらかしていた場合、我々が港に座り込んだところを奇襲してくるかもしれない。……パールハーバーのアメリカ人と同じ目には遭いたくない」
真珠湾攻撃で、アメリカ海軍は主力の戦艦群を壊滅させられた。イギリスは航行中に戦艦を沈められていて、日本軍の航空隊が脅威であることを認識している。
「もし敵機動部隊が現れた場合――」
参謀長は、セイロン島の拠点であるコロンボ、そしてトリンコマリーを指した。
「民間船舶の多いコロンボは、いざという時、艦隊の行動を阻害します。トリンコマリー軍港は、防空設備が不充分です」
「であれば……セイロン島は諦める」
サマヴィルの視線が動く。
「艦隊は、アッドゥ環礁で補給。そして待機するものとする」
東洋艦隊主力は移動を開始。修理途中で合流していた重巡洋艦『ドーセットシャー』は修理を再開するためコロンボへ、空母『ハーミーズ』と駆逐艦『ヴァンパイア』は近く予定されるマダガスカル島にまつわる作戦のため、一度トリンコマリーへと向かう。
そして4月4日の夕方、アッドゥ環礁に東洋艦隊は着いたが、セイロン島の哨戒機が、ついに日本の空母機動部隊を発見した。
「――セイロン島より南東360海里に敵、大艦隊とのことです」
「時間にルーズ過ぎるのも問題だな」
サマヴィルは口元を引きつらせた。
「これはぜひとも躾けてやらねば」
「しかし提督。現在、A部隊は燃料を補給しておりまして、B部隊に至っては、まだこれからであります」
参謀長は報告する。B部隊が動けるようになるのは翌朝まで待たねばならなかった。
「A部隊だけ先に出撃させよう」
直に日が暮れる。昼間は敵から距離を取るつもりだったが、今はむしろ夜間攻撃隊で仕掛けるにいい頃合い。攻撃するに悪くない。むしろ好機とも言える。
「夜道は危ないということを、彼女たちに教えて差し上げよう」
空母2隻を主力とするA部隊は、燃料補給を終えるとただちにアッドゥ環礁を出た。
「コロンボの『ドーセットシャー』を呼び戻せ。こちらに合流させるんだ」
サマヴィルは命じた。日本の機動部隊は明日にでもセイロン島を攻撃してくる。修理中とはいえ、有力な重巡洋艦を失うわけにはいかない。
A部隊は東進し、日本艦隊を捜索した。レーダーを活用した夜間攻撃隊の準備が進められたが、肝心の日本艦隊を発見することはかなわなかった。




