第52話、アンダマン諸島進出
蘭印の攻略が進み、東南アジアでの日本の勢力圏が広がりつつある中、同地域の日本軍も次の動きを見せていた。
北部スマトラ、アンダマン諸島、ビルマの攻略のため、部隊が集結を始めたのだ。
陸軍をはじめ、船団の護衛を務める海軍――馬来部隊各艦は占領したシンガポールに集まり、各攻略担当部隊に割り当てられ、そして出撃していった。
スマトラ攻略作戦であるT作戦。
アンダマン作戦のD作戦。
そしてビルマ作戦であるU作戦。
まず手始めとばかりに3月12日、T作戦――北部スマトラに上陸、要衝を次々に占領していく。
陸軍船団を護衛していた馬来部隊は、続く作戦のため移動を開始。その作戦はD作戦――アンダマン攻略である。
3月30日。輸送船『宏川丸』『衣笠丸』『國川丸』は、橋本 信太郎少将指揮の第三水雷戦隊の護衛のもと、ペナンより出撃。
この部隊に、小沢 治三郎中将率いる馬来部隊主力が支援する。
●アンダマン攻略部隊
輸送船:「宏川丸」「衣笠丸」「國川丸」
(海軍第12特別根拠地隊分遣隊、第9根拠地隊分遣隊、陸軍歩兵第56連隊第二大隊)
・馬来部隊第一護衛隊:指揮官:橋本 信太郎少将
軽巡洋艦:「川内」「由良」
駆逐艦 :「浦波」「磯波」、「夕暮」「天霧」「朝霧」「白雲」
(途中、第一掃海隊が合流)
・支援部隊:馬来部隊主隊:指揮官:小沢 治三郎中将
旗艦:重巡洋艦「鳥海」
重巡洋艦:「熊野」「鈴谷」「三隈」「最上」
空母:「龍驤」
第四〇航空隊:「相良丸」、「山陽丸」
アンダマン諸島は、ビルマ攻略に向かう船団、その後の海上輸送を守らなければならないという都合上、ビルマとスマトラを結ぶラインの上にある。それ故、海上護衛上、英領アンダマン、そしてニコバル諸島は攻略しなくてはならなかった。
3月23日、攻略部隊はアンダマン諸島ポートブレア近くに上陸した。しかし防衛を担うはずの英軍守備隊は、すでにその戦力を撤収させていた。かくて日本軍は港を含め、ポートブレアを占領。さしたる被害もなく、インド兵を中心とする残置部隊を捕虜とした。
その後も順調に作戦を進め、3月30日までにアンダマン諸島を攻略するのであった。
・ ・ ・
インド洋への道が開けた。……もっとも、特破隊はすでにセイロン島とオーストラリア間の通商破壊を行っていて、その面々にとっては、特別何かを思うことはなかった。
軍令部に顔を出した神明 龍造大佐は、待ち合わせの相手が来るまでの空き時間に、とある報告書の一部に目を通していた。
スラバヤからオーストラリア――フリーマントル間で対潜活動を行っている第一対潜部隊の撃沈レポートである。
1942年2月28日:サーゴ級潜水艦 ―― スカルピン
3月 2日:サーモン級 〃 ―― スナッパー
3日:サーモン級 〃 ―― スティングレイ
:サーモン級 〃 ―― スタージョン
4日:サーゴ級 〃 ―― シードラゴン
5日:ポーパス級 〃 ―― ターポン
:サーゴ級 〃 ―― スピアフィッシュ
9日:サーゴ級 〃 ―― ソードフィッシュ
: S級 〃 ―― S40
10日: S級 〃 ―― S41
:サーモン級 〃 ―― スキップジャック
12日:サーゴ級 〃 ―― シーレイヴン
17日:サーゴ級 〃 ―― ソーリー
18日: S級 〃 ―― S39
19日: S級 〃 ―― S37
:ポーパス級 〃 ―― ピカーレル
:サーゴ級 〃 ―― セイルフィッシュ
23日:サーモン級 〃 ―― サーモン
28日:ポーパス級 〃 ―― パイク
30日:ポーパス級 〃 ―― ポーパス
ほぼ1カ月で二〇隻のアメリカ潜水艦を撃沈した。スラバヤから追い出され、オーストラリアにまで後退してきたところを待ち伏せていたとはいえ、よくもまあ仕留めたものである。
なお少し先の話だが、第一対潜部隊は4月6日に『パーミット』、4月7日に『シーウルフ』、4月9日に『シール』をさらに撃沈している。
「次はブリスベン辺りで張るか」
日本軍はニューブリテンやニューギニア方面に進出しつつある。中部太平洋を含め、この辺りの敵の動きにも注意を払わなくてはならないだろう。
「何を見ているんだい?」
声をかけられた。軍令部第一部第一課課長、作戦部の富岡 定俊大佐だった。
「東南アジアで我が海軍を攻撃してきた敵潜水艦の撃沈リストだ」
神明は答えた。南方作戦では、日本軍の輸送船がそれなりの数が潜水艦にやられている。
「魔技研に任せて改装するがな。2個潜水戦隊分の増強だ」
「ほう、それはそれは」
「それとは別になるが、オーストラリアを目指していた船団を二つほど叩いた。米陸軍第41歩兵師団を運んでいた。――貴様には、そちらのほうが関心があるのではないか?」
米豪遮断。米軍のオーストラリアへの兵力移動は、軍令部としても看過できない事柄だろう。
神明としては、敵陸軍の移動を阻めたのももちろんだが、その輸送に使われた兵員輸送船――かの豪華客船「クイーン・エリザベス」を撃沈できたことのほうが喜ばしかった。また新しい哨戒装甲空母に打ってつけのフネを手に入れたのだ。
「とてもいい話だなそれは、うん」
富岡は感心したように言い、そして手招きした。
「待たせたね。それじゃあ、戦況分析といこうじゃないか。連合艦隊を通さない実戦部隊の意見も聞きたいのでね」
「連合艦隊では駄目なのか?」
「今は山本長官が強すぎる」
富岡は歩きながら言った。
「軍令部の考えと、連合艦隊の考えが一致していない……そういえばわかるかな?」
本来は軍令部の命令、連合艦隊が実行という流れのはずだが、真珠湾攻撃を成功させ、序盤の戦いを優勢に進めている連合艦隊の作戦に関する考え方、意見は軍令部のそれと異なる場合、特に対立する傾向にあった。
「ただでさえ海軍は陸軍と意見調整で忙しいのに、連合艦隊とも調整しなければならないのだから……まあ、察してくれ」
「軍令部も大変だな」
神明は皮肉げに言うのであった。




