第49話、古き戦艦と新しい戦艦
第二戦闘群、第二通商打撃戦隊は、戦艦『肥後』、巡洋戦艦『愛鷹』に、護衛の駆逐艦『冬雲』『雪雲』がついていた。
これら4隻は、イギリス戦艦『ロイヤル・ソブリン』との距離を詰める。
「敵の頭を抑えろ。取り舵一杯!」
佐々山 久雄少将は、敵戦艦の射程の外からの遠距離砲戦を選択する。
ドイツ海軍『ビスマルク』改装の『肥後』は、27ノットの速度で機動しつつ、四基八門の45口径41センチ連装砲を、英戦艦に指向させた。
後続する巡洋戦艦『愛鷹』も、前後に二基ずつ背負い式に搭載された45口径41センチ連装砲を向ける。
この巡洋戦艦は、『ビスマルク』が沈む結果に終わったライン演習作戦で、その『ビスマルク』に撃沈されたイギリス最大の巡洋戦艦『フッド』である。
常備排水量4万2670トン、全長261メートル、全幅31.7メートル。全長では『ビスマルク』より10メートル長く、幅では約5メートル細い。
主砲は『ビスマルク』が47口径38センチ砲、『フッド』が42口径38.1センチ砲を搭載していた。
しかし魔技研が回収した際、日本製45口径41センチ砲に換装、バーベット孔から大改造された。
雑多な砲弾の生産に魔力生成リソースを使うには無駄と、戦艦砲弾は日本海軍のもので共有できるようにしたのである。
これにより砲が統一され、補給はもちろん、砲撃での連携も非常に取りやすくなった。同じ射程、同じ射撃速度。統制のとりやすさが段違いであるのだ。
「距離3万7000!」
予定の距離となった。佐々山は口を開く。
「主砲、撃ち方始め!」
「撃ちー方、始め!」
戦艦『肥後』、そして僚艦『愛鷹』が砲撃を開始した。対するリヴェンジ級戦艦の射程より1万メートル離れての攻撃である。
能力者の誘導により弾道が微調整される。それらは3万7000メートル先の『ロイヤル・ソブリン』へとじりじりと修正されながら高速回転しながら飛ぶ。
弾着!
パッと光が走り、外れた砲弾が『ロイヤル・ソブリン』の周りで水柱を突き立てた。
『本艦の砲弾、二発命中!』
射撃指揮所の能力者からの報告に、佐々山は片方の眉を吊り上げた。
「ほう、当たったか」
「砲術演習では当ててましたから」
阿畑 洋吉参謀長は苦笑するが、佐々山は返す。
「言ったろ。演習と本番は違うって」
『肥後』、そして『愛鷹』の砲撃は続く。その度に、二、三発が命中するが、リヴェンジ級戦艦には、煙は見えど大きな変化がないように見える。
「しぶといな」
向こうは第一次世界大戦の頃に現役だった艦。こちらは第二次世界大戦初期の新鋭艦。どうしても相手が旧型の格下に見えてしまう。
「装甲は抜けているはずだろう?」
「はい、リヴェンジ級戦艦の水平装甲は、この距離からでは余裕で貫通できます」
阿畑は答える。
「なんなら主砲の天蓋も撃ち抜けるはずですが」
「……つまり、当たり所が悪いわけか」
いや、敵からすれば逆か。リヴェンジ級のヴァイタルパートを撃ち抜ける41センチ砲弾だが、これまでのところ致命的な部分に直撃していないようだ。
「しかし、速度は落ちているようですから、機関部はだいぶやられているようです」
阿畑は言った。佐々山は口をへの字に曲げた。
「それでは、ただの的じゃないか。早く介錯してやれ」
いたずらに苦痛を長引かせるものではない。
・ ・ ・
戦艦『ロイヤル・ソブリン』は、満身創痍だった。
射程外から一方的に撃たれるというのはこういうものか。艦長のR・H・ポータル大佐は軍帽を置いた。
「恐るべきは、敵の砲撃の精度か」
こちらが射程に飛び込む間もなく、叩かれ、戦闘力、航行能力を奪われていった。せめて1発でも撃ち返したいが、射程に入る前に艦首A、B砲塔は旋回不能になり、被弾か至近弾の影響かは知らないが、後部主砲の揚弾機構が動かなくなった。
たとえ2万7000メートルに辿り着けても――最大射程ではほぼ当たらないだろうが――、狙って撃つことは不可能だった。
もっとも、これ以上は誘爆の危険を避けるために弾薬庫に注水を命じたので、主砲に直撃したところで誘爆しないようになっている。
「『ニザム』は離れたな?」
「はい、艦長」
随伴していた駆逐艦『ニザム』は反転し、離脱にかかっている。あとで人員を救助してくれる存在は必要だ。無理やり突撃させても、十中八九、返り討ちだろう。
しかし特に水雷屋は、旗艦の脱出支援といって突撃し、魚雷をぶっ放そうとする。
すべての艦長がそうだとは言わないが、我が大英帝国の船乗りは、危機的状況に際して、敵艦に体当たりをぶちかますような者もいる。ドイツ重巡洋艦『アドミラル・ヒッパー』に当たりにいった駆逐艦『グローウォーム』のように。
隊内電話で副長が新たな報せを持ってきた。機関が全機使用不能、復旧の見込みなし。
「ここまでだな。軍艦旗を下ろせ」
総員退艦――ポータルがそう命じようとした時、最期の時がきた。右舷の着弾で隔壁がやられたか、浸水が止まらなくなり、『ロイヤル・ソブリン』の傾斜がひどくなった。
「これはいかんな――」
そう声に出した時、急激に傾き、そして転覆した。こうなってはもはや沈没するしかない。
・ ・ ・
「敵リヴェンジ級、転覆!」
見張り員の声を聞くまでもなく、佐々山と阿畑はその様子を見た。もっともほとんど小さいそれが、海に消えたのはわかった。もうもうたる煙だけが周りに漂っている。
「やりましたな」
「そのようだな」
砲撃中止を命じ、ふと振り向く。
「敵の駆逐艦は?」
「すでに逃走を図っています」
「狙えるか?」
「すでに射程外です」
ふむ――佐々山は首をかしげ、通信兵を呼んだ。
「空母戦隊に、逃げた敵駆逐艦の撃沈を命じろ」
「承知しました」
「……沈めるんですか?」
尋ねる阿畑に、佐々山は厳しい表情を向けた。
「我々の戦い方を英軍全体に知らせたくないからな。対策されるのは遅ければ遅いほどいい」
ただ、と佐々山は水平線に目をやった。
「あの生存者を救助してやれ。さすがに船乗りとして漂流者は見殺しにはできんからな」




