第48話、ロイヤル・ソブリン、発見する
船団はおそらく全滅した。
敵空襲を受けるという報告を最後に、SU船団と護衛艦艇からの通信は途絶えた。
戦艦『ロイヤル・ソブリン』の艦長、R・H・ポータル大佐は、セイロン島司令部から命令の変更がないことから、船団の航路をなぞり、襲撃海域へと艦を進めた。
今後の相談も含めて艦橋にやってきた副長は言った。
「近くに、敵の空母がいるのでは?」
「いるかもしれない。いや、いたかもしれない」
SU船団を撃滅したことで気をよくして引きあげた可能性もある。
「さらなる戦果拡大のために、まだうろついているかもしれません」
「可能性はある」
ポータル艦長は認めた。もし敵がまだ船団を捜索しているのなら、その航路をトレースしている『ロイヤル・ソブリン』は遅かれ早かれ発見されるだろう。
「だが、我々は進むしかない」
もし予想通りSU船団がやられたとしたら、大量の漂流者がいる。鮫も多い海域だ。できるだけ早く救出する必要があるだろう。
「我々が鮫の餌にならなければいいですが」
副長は首を振った。
「日本軍の航空隊は、キング・ジョージⅤ級すら沈めていますから」
この男はまだ拗ねているのだろうか?――ポータルは訝る。トリンコマリー寄港寸前に戦場に戻され、守るべき船団はすでになく、なお危険にさらされているこの状況に対して。
とはいえ、日本軍の航空機が脅威であるというのは理解できる。この『ロイヤル・ソブリン』より防御もしっかりしていた新戦艦だった『プリンス・オブ・ウェールズ』。それが航空攻撃で沈められた事実は、英国海軍軍人として無視はできない。
口には出さないが、無意識下でトラウマになっている可能性もなくもなかった。
「艦長、本艦に接近する艦影あり」
味方か? 船団の生き残りがいたかとポータルは顔を上げる。
「水平線上に煙」
見張り所からの報告である。
「レーダーは?」
「まだ捉えられません」
旧式のリヴェンジ級戦艦であるが、細かな改装は受けており、最新のレーダーや電子機器の搭載はされている。ただ赤道近くの気候に若干脆弱性が見られ、改良や整備が英海軍を悩ませていた。
「警戒せよ。敵かもしれない。戦闘配置だ」
パースの比較的近くで日本巡洋艦が通商破壊を行っているという。彼らも通商破壊に水上艦艇を投入しているのなら、SU船団の生き残りを捜索して現れた可能性もある。
「識別を急げ」
果たして現れたのは何か。巡洋艦であるならば、速度はともかく火力で圧倒もできよう。あるいは交戦を嫌って、勝手に立ち去るかもしれない。
随伴する駆逐艦『ニザム』を従え、戦艦『ロイヤル・ソブリン』は距離を詰める。やがて相手の正体がわかってくる。
「接近中の艦は戦艦! 推定、日本海軍のナガトクラス戦艦! 隻数2!」
「ナガトクラス……!」
ポータルは歯噛みする。戦艦と聞いて浮かんだのは、活発に活動していると言われる金剛型だ。
あれならば攻防ともに、格下の14インチ砲対応戦艦。一対二は不利だが、攻撃力で圧倒している分、やりようはあった。
だが、長門型となれば、逆に16インチ砲対応となり、15インチ砲基準の『ロイヤル・ソブリン』は不利となる。
もっともそこまで隔絶した差というわけでなく、得意レンジでの砲撃戦ならば充分に対抗は可能だった。
そう、問題は射程だ。
ポータルは軍帽を被り直し、敢然と向かってくる日本戦艦を睨んだ。
主砲であるBL15インチMkⅠは、第一次大戦時の砲。さらに言えば、戦間期は軍の予算の都合上、旧式のリヴェンジ級に大規模改装はなかった。主砲の改良すらなく、射程に関しては、ユトランド沖海戦以前の設計だ。
対する長門型は、そのユトランド沖海戦以後――戦艦の砲戦距離が伸びた時代に作られている。
つまり、その射程は1万メートル以上の差があるのである。
一応、砲の射程向上のための改装を受けられなかった旧式戦艦には、新型砲弾を使用するスーパーチャージャーによって約2万7000メートルにまで砲撃を届かせることができるようになっているのだが……。
それで対抗できるのか、不安は拭えなかった。
・ ・ ・
イギリス側は、長門型と識別したが、やってきた戦艦2隻は、長門型ではなかった。
本物の長門は、日本本土にある。
現れたのは、特破第二戦闘群の戦艦『肥後』、巡洋戦艦『愛鷹』である。
「敵リヴェンジ級、接近しつつあり!」
見張り員が叫び、艦橋の佐々山 久雄少将は相好を崩した。
「さすがは見敵必戦の英国海軍だ」
「向こうは、こっちを金剛型と思っているんですかね」
阿畑 洋吉参謀長は呆れも露わにした。
「こっちはそれ以上のものですが」
まともにやれば、まず負けない。それだけの性能であると阿畑は思っている。性能で勝り、さらにこちらが2隻である。どう考えても負ける要素がない。
「実戦で砲撃しておく機会というのは逃すべきではない」
佐々山は双眼鏡を手にとった。
「特に、演習と実戦は違うものだ。本艦の砲撃がきちんと当たるのか、実際に見ておきたい」
蘭印を巡る戦い、スラバヤ沖海戦では、遠距離砲撃戦に終始した結果、恐ろしいほど砲撃が当たらなかった。
魔技研の技術と能力者であれば、ああも酷い結果にならないとは思う。実際に、戦艦『土佐』はアメリカの標準型戦艦2隻を凄まじいまでの命中率で撃沈した。
だがあれは、能力者の正木 初子の能力であり、正直あまり参考にしていい数字ではない。
「だから、敢えて航空隊ではなく、戦艦できたのですか?」
阿畑は尋ねた。佐々山は口元を引きつらせる。
「敵の船団が他にあった時に、航空隊を使うために待機させているんだ」
特破隊の主な目的は、通商破壊だ。その本分に航空隊を投入して確実に通商路を破壊する。そのためなら、戦艦の1隻など捨て置いていい――というのが、特破隊の中心人物である神明 龍造大佐の言である。
「とはいえ、遅かれ早かれ、インド洋の進出と東洋艦隊との戦いは避けられないだろう」
佐々山は確信をもって断言する。
「そのために、敵の主力になりそうな戦力を削る機会は逃がさん」




