第47話、遠きオーストラリア
SU1船団の護衛についていたイギリス海軍艦艇で、一番強力な艦艇は、HMS『コーンウォール』であった。
ケント級重巡洋艦の1隻である『コーンウォール』は、基準排水量9850トンの艦体に、50口径20.3センチ連装砲4基8門を搭載する。通商路保護の観点から、性能としては標準的。しかし航行能力は高めで、航続距離も12ノットで1万3000海里の長さを持っている。
パーシバル・クライブ・ウィッカム・マンワリング艦長は、見張り員の報告に双眼鏡をとった。
「敵機が飛んできたというのか……!」
日本軍航空隊はどうも足が長く、通商破壊にも活発に投入され、シンガポールへの増援船団をことごとく海底に転属させてしまった。
「今度はオーストラリア行きの船団ということか」
予兆はあった。先月からフリーマントル行きの船がぼちぼちやられ、数日前には日本海軍の通商破壊部隊がC3船団ほかを食い散らかした。
それだけであれば、この重巡洋艦『コーンウォール』がつくことで、船団を守ってみせたのだが、十数機もの航空機が相手となると、さすがに手にあまる。
……かのZ部隊、『プリンス・オブ・ウェールズ』と『レパルス』は、航空機によって沈められたのだ。
「対空戦闘用意!」
「対空戦闘!」
英国軍人たるもの、敵を前に弱音を漏らすわけにはいかない。
今、マンワリング大佐が守るべき船団は、本来のSU1船団のみならず、SU2、SU3船団も含まれている。
●SU1船団
輸送船:「シティ・オブ・ロンドン」「シティ・オブ・パリ」「エグラ」
:「イースタン・プリンス」「エンパイア・グレード」「サルウィン」
:「エスペランス・ベイ」「コシチュシュコ」「ノルデン」
:「マドラスシティ」「シルバーウィロア」「ペンリス・キャッスル」
護衛:重巡洋艦「コーンウォール」、仮装巡洋艦「マヌーラ」
●SU2船団
輸送船:「ネバサ」「ディルワラ」「アロンダ」「クエリンバ」
:「ブリティッシュ・アビエーター」「カリフォルニア・スタンダード」
●SU3船団
輸送船:「ストラサラン」「ダーバン・キャッスル」
:「アンデス」「オーケード」
輸送船22隻、護衛は2隻。といっても空からの敵にまともに対抗できるのが『コーンウォール』しかない。仮装巡洋艦『マヌーラ』は、武装商船であり、実際、そこらの輸送船とほとんど変わらない。
重巡洋艦『コーンウォール』は、45口径10.2センチ連装高角砲4基、2ポンド(40ミリ)対空機関砲を総動員して、船団を守る構えであった。
だが、日本軍航空隊――特破隊の九八式艦偵は、滑空魚雷を飛ばしてきて、英重巡洋艦の迎撃などまったく意に介さなかった。
蟷螂の斧。波のように押し寄せた誘導弾は、ほとんど妨害を受けることなく、回避行動をする船団近くに着水、そこから海中を推進して輸送船に突き刺さった。
『コシチュシュコ』『シルバーウィロア』が真っ先に沈み、『サルウィン』『ペンリス・キャッスル』も大破、沈みつつあった。
一方で大型船の多いSU3船団の船は一本の命中には耐えた。『ストラサラン』『アンデス』『オーケード』は、2万3000トン超えの大型船だ。さらに速力も23ノット以上出せる高速船ばかりであり、もし敵が潜水艦であったなら、他船団と合流などせず、単独で突っ切っていただろう。
相手が重巡洋艦を含む水上部隊であると見られたから、合流したものの、航空機攻撃まで受けてしまうとなれば、船としては高速でも逃げ切れるものではない。
第一の波――雷竜隊の攻撃で船団は半減した。そしてこれら残った船舶に対して、第二波――黒竜隊の九八式艦上偵察戦闘攻撃機が攻撃を開始した。
船の数と日本機の数で、攻撃を免れていた船、損傷したがまだ浮いている船にトドメの一撃がきた。
「面かじ!」
マンワリング大佐は、『コーンウォール』に回避をとらせるが、誘導された滑空魚雷を躱しきれなかった。
「艦首に直撃ぃっ!」
激しい衝撃に、31ノットを発揮していた艦が急に止まったような感覚を乗組員たちに与えた。前へ放り出されそうになるのを何とか堪え、マンワリングは声を張り上げる。
「ダメージ・リポート!」
「艦首大破! 隔壁破損! 浸水中!」
「艦首の浸水により速度低下!」
「なんてこった……!」
魚雷を躱すつもりだったが、それが誘導弾であることは、まだ英国海軍には浸透していない。
「速度を――」
これ以上の隔壁破壊は沈没に繋がる。マンワリングが指示を出そうとする前に、次の衝撃が『コーンウォール』を襲った。
その爆発の起き方は、艦長である彼に最悪の想像をさせ、事実そうなった。
二発目の魚雷が艦首から飛び込み、艦体内部で爆発。それは艦首A砲塔弾薬庫をも吹き飛ばし、1万トン級重巡洋艦の命運を尽きさせた。
『コーンウォール』爆沈。
そして残る護衛である『マヌーラ』は、第一波時点で輸送船と誤認され、すでに沈んでいた。
SU3船団の大型輸送船も、トドメの雷撃を受けて海に消えた。
オーストラリア陸軍第18旅団、第21旅団、その他、野戦連隊、対戦車大隊、機関銃大隊、騎兵コマンド連隊、
先日のC3船団では第19旅団と、オーストラリアに帰還するはずだった第6師団、第7師団は半壊にも等しい大打撃を受けたのだった。




