第46話、SU船団
HMS『ロイヤル・ソブリン』は、リヴェンジ級戦艦の1隻である。
1914年1月15日に起工、翌年4月29日に進水。1916年5月に就役した。
第一次世界大戦の頃の旧式戦艦ではあるが、イギリス艦隊を構成する戦艦の1隻には違いなかった。
排水量3万0451トン。全長189メートル、艦幅27メートル。機関出力4万馬力、最大速力23ノット。10ノット・7000海里の航続力を持つ。
主砲は38.1センチ連装砲4基8門。日米の14インチ砲を上回る威力を持ち、旧式ながらまだ容易ならざる存在である。
……もっとも近代化改装の手が回っておらず、部分部分のアップグレードをされていても、主砲の射程など現代からすれば短いなど弱点を残していたりする。
「なんたることだ、まったく」
ロイヤル・ソブリン艦長、レジナルド・ヘンリー・ポータル大佐は、艦内に蔓延する愚痴というか苛立ちというのを肌で感じていた。
セイロン島に戻って、わずかとはいえ上陸、休養を期待していたのが、目の前でキャンセルされ、これから半月は海の上。しかも今度はオーストラリアへ行けと言われる始末だ。
船団護衛は重要だ。この『ロイヤル・ソブリン』も、ドイツとの戦争が始まって以来、幾度も船団の護衛に出撃している。
アジアに回され、少しは楽できるかと思えば、この体たらく。破竹の勢いで進撃する日本軍が、いつインド洋を本格的に進撃してくるかわからず、何とも微妙な日々が続いている。
休暇取り消しになった乗組員たちの中には、どうせトリンコマリーまできたのだから、ロイヤル・ソブリンはそのまま入港、第3戦艦戦隊の僚艦である『ラミリーズ』が行けばよかったのだ、と文句が出ていた。
ともあれ、『ロイヤル・ソブリン』と駆逐艦『ニザム』は、先行する船団に追いつくべく速度を上げる。
本来、別々だったSU1、SU2、SU3船団は、護衛の不足を補うべく集結しつつ、『ロイヤル・ソブリン』の護衛を待つとのことだった。
待つといっても、オーストラリアへの道中で合流できればよいので、別段足を止めたりはしなかった。日本軍の潜水艦が活動している可能性もあれば、わざわざ攻撃しやすくしてやることはないのだ。
そして3月10日、幾らか不平不満が減りつつも航行を続ける『ロイヤル・ソブリン』だったが、緊急電が飛び込む。
『我、日本軍航空隊の攻撃を受ク』
・ ・ ・
船団が集結しつつある――その報せを受けた第二戦闘群司令官、佐々山 久雄少将は、攻撃のタイミングを図ることにした。
船団が別々であれば、攻撃隊の振り向けや追撃の手順など詰めていく必要があったが、一塊であれば、攻撃隊を複数にわけても同一船団に集中できるし、戦力を分ける必要もなくなる。
敵潜水艦の集中運用対策として、船団を大きくすることは、最終的に受ける被害を減らすことができるが、こと有力な水上打撃部隊や空母機動部隊にとっては、鴨が葱を背負ってくるに等しい。
そして船団がほぼ一塊になった時、佐々山は攻撃隊を差し向けた。
●特第二戦闘群:司令官、佐々山 久雄少将
通商打撃戦隊:戦艦「肥後」、巡洋戦艦「愛鷹」、駆逐艦「冬雲」「雪雲」
空母戦隊 :空母「雷竜」「黒竜」
防空戦隊 :軽巡「石狩」「鶴見」、防空駆逐艦「沖月」
駆逐艦「早雪」「根雪」「氷雪」
前哨警戒隊 :潜水駆逐艦「霧雨」「樹雨」「長雨」
第32潜水戦隊:潜水母艦「安芸」、護衛駆逐艦「葛」「橘」
潜水艦 :「伊710」「伊711」「伊714」
:「伊715」「伊716」「伊717」「伊718」「伊719」
○別動隊
・哨戒隊 :水上機母艦「早岐」 駆逐艦「榧」「檜」「桜」
・通商打撃戦隊
第四部隊:重巡「筑波」、軽巡「渡良瀬」、駆逐艦「細雪」「粉雪」
・アデレート方面通商破壊隊
第33潜水戦隊:潜水母艦「初瀬」、駆逐艦「萩」「菫」
潜水艦:「伊720」「伊721」「伊722」「伊723」「伊724」
:「伊725」「伊727」「伊728」「伊729」「伊730」
・インド洋哨戒隊
第52潜水戦隊:
潜水艦:「呂706」「呂707」「呂708」「呂709」「呂710」
:「呂711」「呂712」「呂713」「呂714」「呂715」
空母『雷竜』『黒竜』を飛び立った航空隊は、合計35機。その構成は、全て九八式艦上偵察戦闘攻撃機である。
「……見つけた。輸送船団!」
雷竜攻撃隊隊長、内田ハル大尉は、洋上に航跡を刻む船団を見やる。操縦席の小松 政子少尉はやや舌足らずさの残る声を出した。
「大きな船団ですね! 見たところ20隻くらいでしょうか?」
「まあ、そんなところだろうな。23隻、護衛艦はあり」
「では、問答無用で攻撃できますね!」
「そういうことだ」
内田は、雷竜隊が先手をとる旨を、黒竜隊に伝える。
「――残り物はそちらに任せる!」
『了解!』
黒竜隊指揮官の応答を聞き、内田は第一、第二中隊を攻撃位置へ移動させる。17機の九八式艦偵は横に広がる。
船団上空に敵影なし。敵の位置情報を伝え、触接している水上機母艦『早岐』の偵察機の報告の通りだ。
戦闘機の邪魔が入らないならば、測定士は滑空魚雷の誘導に集中できる。
「攻撃用意――投下っ!」
九八式艦偵が抱えてきた滑空誘導魚雷が放たれた。ロケットモーターが火を噴き、およそ10キロ先の英船団に向かって飛んでいった。




