第42話、サラモア、ラエ空襲
ラエとサラモアに上陸した日本軍攻撃のために進んでいたアメリカ空母機動部隊だったが、その途中でウィルソン・ブラウン中将は配置転換を行った。
第11、第17任務部隊の重巡洋艦3隻、駆逐艦3隻を、オーストラリア海軍の第44任務部隊に振り向けたのだ。
部隊の編成は、以下の通り。
●第11任務部隊:司令官、ウィルソン・ブラウン中将
空母 :「レキシントン」
重巡洋艦:「インディアナポリス」「ミネアポリス」「サンフランシスコ」
駆逐艦 :「フェルプス」「デューイ」「ハル」「パターソン」「バックレイ」
:「マクドノー」「デイル」「クラーク」
●第17任務部隊:司令官、フランク・J・フレッチャー少将
空母 :「ヨークタウン」
駆逐艦 :「モリス」「ウォーク」「ラッセル」
●第44任務部隊:司令官、ジョン・グレゴリー・クレース少将
重巡洋艦:「オーストラリア」「アストリア」「ルイビル」「シカゴ」
巡洋艦 :「アデレート」
駆逐艦 :「ヒューズ」「アンダーソン」「ハムマン」「シムス」
給油艦 :「ネオショー」「カスカスキア」
「――いいんですか? 少しばかりバランスが悪い気もしますが」
レキシントン艦長のフレデリック・C・シャーマン大佐が尋ねれば、ブラウン中将はわずかに首をかたむけた。
「今回はあくまで航空隊を使う。重巡洋艦を前進させることはないからいいんだ」
ニミッツ太平洋艦隊司令長官は、積極的防衛の名のもと、ヒットエンドラン作戦に空母機動部隊を投入しているが、空母の喪失は避けるようにと前線指揮官たちに念を押している。
その観点からも、重巡洋艦部隊を先行させて、敵を徹底的に叩くことよりも、航空隊で一撃を与えて、その後、敵が反撃できないうちに退避できることをブラウンは優先させたのであった。
そしてラバウルから極力遠い位置に部隊を移動させ、攻撃隊を放つこととした。
それが東部ニューギニアの南、パプア湾から、かの航空の難所たるオーエンスタンレー山脈越えのルートである。
重装備では超えるのが難しい山脈だが、一部標高が2500メートル程度の場所があり、朝方2時間程度は晴れることがわかったため、そこから攻撃隊を通すことにしたのだ。
かくて、3月10日早朝。予定地点に到着した2隻の空母から艦載機が放たれた。
『レキシントン』からSBDドーントレス30機、TBDデヴァステイター13機、F4Fワイルドキャット8機の合計51機。
『ヨークタウン』はSBD30、TBDデヴァステイター12、F4F10の計52機。
合わせて103機。ラエにヨークタウン攻撃隊、サラモアにレキシントン攻撃隊が飛んでいった。
なお、この海軍の動きに合わせて、アメリカ陸軍も呼応し、B-17爆撃機18機が発進、日本軍船団の攻撃に向かった。
・ ・ ・
SR方面攻略部隊にとって、それは嵐であった。
多数の爆弾が、上空援護のない船団と護衛部隊に襲いかかり、複数の至近弾ないし一発程度の直撃を受けて、戦死や、少なくない重軽傷が出た。
旗艦『夕張』は一時火災に見まわれ、比較的大型だった敷設艦『津軽』は戦艦と誤認されて直撃1、至近弾複数による破孔が多数、舵も損傷した。
『ちゃいな丸』『朝凪』『夕凪』、そして水上機3機を送り出した『聖川丸』が被弾損傷。輸送船『横浜丸』、『天洋丸』『金剛丸』、特設掃海艇『第二玉丸』が沈没した。
戦闘機の進出が遅れ、充分な援護がなかったSR方面攻略部隊は大きな被害を受けた一方、アメリカ軍攻撃隊は撃墜1機とほぼ被害らしい被害もなく、母艦へ帰還を果たす。
空母『レキシントン』、シャーマン艦長は、ブラウン中将に報告した。
「大戦果です。攻撃隊員から、再度の攻撃でトドメを刺したいと言っておりますが」
「いや、ここまでだよ、艦長」
ブラウンは、ある方向を指さした。第44任務部隊のいる方向だった。
「我々は奇襲をするのみだ。無用に敵につけいる隙を与えるわけにはいかない」
「……そうですか」
若干の不満はあったが、指揮官はブラウンである。シャーマンは頷いた。
第11任務部隊、第17任務部隊は、ニミッツの打ち出した積極的な防衛的任務を厳守し、離脱にかかった。
だが、すんなりと撤収は日本海軍が許さなかったのである。
・ ・ ・
特破第一戦闘群所属空母『瑞鷹』。
貨客船プレジデント・フーバー改装の空母の艦橋後部、転移室を通って神明 龍造大佐が到着すると、艦長兼戦隊司令の田之上 義雄中佐が敬礼した。
「お待ちしていました、司令」
「状況を」
「ラエとサラモアの友軍が爆撃を受けました」
オーストラリア東海岸、珊瑚海を北上中の第一戦闘群別動隊である。田之上は海図台に神明を導いた。
「こちらからも北に索敵機を飛ばしたところ、敵艦隊を発見しました。ただ、空母を伴っていません」
「編成は?」
神明は短く尋ねた。
「重巡洋艦4、ひどく古めかしい軽巡洋艦1、駆逐艦4、タンカー2の艦隊です。陣容からすると――」
「艦隊の支援部隊だな」
サラモア、ラエを攻撃した機動部隊の燃料補給を担当する部隊に違いない。田之上は言った。
「艦種を識別したところ、アメリカ、オーストラリアの混成部隊のようです」
「攻撃隊の準備は?」
「完了しています。しかし……ラエとサラモアを攻撃した敵空母部隊の所在がわかっていない状況で、果たして攻撃隊を出してよいものかと」
それで神明を呼んだのだ。田之上は状況を鑑み、上司に判断を仰ぐべきと考えたのである。転移室を使って遠く離れた部隊にいる人間と連絡が取れる特破隊ならではの行動。それがなければ彼は自分で決断しただろうが。
「では、攻撃隊を出せ。敵空母の存在は索敵機が見つけるか、あるいは見つけられるまでは考えなくていい」
いざとなれば、部隊は緊急離脱も可能なのだ。
「特破隊は、通商破壊部隊だ。敵のタンカーがいて、攻撃しない手はない」




