第41話、ラエ、サラモア上陸
南方作戦が順調に推移する中、日本海軍は第二段作戦の検討を行っていたが、第四艦隊側から、とある声が上がる。
『ラバウルだけを確保しても意味がない。南方資源帯を守るためにも、ラエ、サラモアを占領すべし』
開戦前の第一段作戦の検討段階にも、第四艦隊は同じ主張をしていたが、その時は南方作戦が最優先とされたため、南東方面については後回しにされた。
だがいざ開戦となり、南方作戦は想定よりスムーズに進行。第二段作戦の検討に入った段階で、第四艦隊が再度、この意見をぶつけてきたのである。
ラバウル攻略の際、第一航空艦隊第五航空戦隊が1月21日に、ラエ・サラモアを空襲し、打撃を与えた後で、正式にニューギニア・ソロモン諸島方面の攻略が決定。
ポートモレスビー、ツラギの攻略に並んで、ラエとサラモアも攻略目標となったのであった。
かくて、2月16日にSR作戦と呼称され、上陸を3月3日とし、ラエ、サラモアを素早く占領したのちは、飛行場を設営してポートモレスビーへの圧力を強めることが定められた。
部隊が編成され、準備が進められていたが、2月20日の米空母のラバウル接近騒動――ニューギニア沖海戦の結果、第四艦隊がその追撃などで振り回されたため、上陸予定日は3月8日に変更となった。
そして3月3、4日に訓練を実施した後、参加部隊はラバウルに集結、3月5日、艦隊は出撃した。
●SR方面攻略部隊:指揮官、梶岡 定道少将
旗艦:軽巡洋艦「夕張」
サラモア攻略隊:駆逐艦「追風」「疾風」「朝凪」「夕凪」
:輸送船「横浜丸」「ちゃいな丸」 南海支隊約2000名
ラエ攻略隊 :駆逐艦「睦月」「如月」「弥生」
:敷設艦「津軽」「天洋丸」
:特設巡洋艦「金剛丸」
:特設運送船「黄海丸」 陸戦隊560名ほか800名
航空部隊:特設水上機母艦「聖川丸」、駆逐艦「望月」
哨戒部隊:特設掃海艇「玉丸」「第二玉丸」「羽衣丸」「第二能代丸」
○支援部隊:指揮官、五藤 存知少将
第六戦隊 :重巡「青葉」「衣笠」「古鷹」「加古」
第十八戦隊 :軽巡「天龍」「龍田」
第二十三駆逐隊:「菊月」「卯月」「夕月」
給油艦:特設運送船「東邦丸」
○航空部隊:後藤 英次少将
・第四航空隊、第一航空隊
・水上機母艦「神威」
SR方面攻略部隊には、第六水雷戦隊指揮官である梶岡 定道少将が指揮し、その支援部隊には重巡『青葉』以下第六戦隊がつく。
これらが進軍する間、ラバウルから後藤 英次少将の第二十四航空戦隊がポートモレスビーほか、ソロモン、ニューギニア東部の航空基地の偵察と爆撃を繰り返した。この時点では、まだ対空砲火以外にさしたる反撃はなかった。
先月のニューギニア沖海戦で、一式陸攻に大きな損害を受けた第四航空隊であったが、第一航空隊の九六式陸攻が加わることで何とか作戦を遂行していた。
しかし、これをオーストラリア軍、そして米軍が手をこまねいていたわけではなかった。
まずロッキード・ハドソン双発爆撃機による、ラバウル、スルミ方面への空襲を実施。また、日本軍が上陸する3月8日も早朝から空襲を仕掛け、少数――たった1機の場合もあり――ラエ、サラモアに飛来し、悪天候下、上陸作戦を進める日本軍船団に爆撃を加えた。
これによりサラモア攻略隊の『横浜丸』が被弾したものの、上陸自体は天候に悩まされつつも進んだ。ラエでは大発動艇の大半が荒天で座礁するアクシデントが発生。しかしラエ、そしてサラモアの飛行場、町など無血占領に成功した。
これを受けて、五藤存知少将の支援部隊は反転し、予定に従い、ブカ島クインカロラ占領に移動した。
順調に進んでいた作戦であったが、ここに米軍がやってくる。
ウィルソン・ブラウン中将率いる第11任務部隊と、フランク・ジャック・フレッチャー少将の第17任務部隊が、3月6日に合流し、ラバウル攻撃のために動いていた。
だが、ラエ、サラモアに日本軍上陸の報を聞きつけ、目標を変更したのであった。
「今度こそは、と思っていたんだがな」
空母『レキシントン』に座乗するブラウン中将は、皮肉めいた表情を浮かべた。艦長のフレデリック・C・シャーマン大佐は頷いた。
「先月は、奇襲できませんでしたから」
2月のラバウル空襲は、日本軍の陸上攻撃機からの先制攻撃を受けたことで、奇襲不可能と判断。任務部隊は撤退したのだ。……あれは少し慎重に過ぎたのではないか、とシャーマンは思う。
「私の敢闘精神を疑っているのかね、艦長」
「いえ……」
眉間にしわを寄せていたシャーマンは、引きつった笑みを浮かべた。
「再度のラバウル空襲を、ニミッツ長官に提言されたのは、提督です」
「そうとも。あれですごすごと引き下がったままというのは、合衆国軍人の沽券に関わる」
「左様で」
前回は、空母は1隻のみ。そして燃料事情も不安があったから、ブラウンはニミッツ大将に、ラバウルを攻撃するに空母とタンカーの数を倍にするよう告げた。ニミッツはそれを受け入れ、第17任務部隊を合流させたのだった。
「提督、ANZACの連中は、信用してもいいのでしょうか?」
アンザック・スコードロン。連合海軍戦隊とも呼ばれる部隊であり、その司令部は1月27日に設立された。
フィジー、ニューヘブリディーズ、ニューカレドニアを含むオーストラリア北東部海域の防衛をために編成された。
第11任務部隊もこの部隊に放り込まれたが、その部隊構成の中身は、少数のオーストラリア海軍艦艇と多数のアメリカ軍艦艇と何ともバランスの悪いものがあった。
今回の作戦においても、オーストラリアからヌーメアへの陸軍部隊輸送の間接援護の役回りがあって、オーストラリア海軍もジョン・グレゴリー・クレース少将が指揮する第44任務部隊を派遣していた。その役割は、こちらが連れてきたタンカー2隻の護衛であり、ラエ、サラモアの日本軍攻撃に直接参加するものではない。
「開戦序盤で、オーストラリア海軍もフネをやられているからな」
ブラウンは何とも言えない顔になる。
「まあ、タンカー護衛でも、こなしてくれれば貢献といえるだろう」
「重巡と旧式巡洋艦2隻しかいないのですが」
シャーマンが意地の悪い笑みを浮かべると、ブラウンは言った。
「こっちからもフネを出してやるべきだろうな……。燃料タンカーがやられるのは困る」
ブラウンは空母の護衛についている艦艇を、タンカー護衛に振り向けるのを決めた。
元々、空母航空隊ですべて決着をつけるつもりでいたから、艦隊から巡洋艦などを引き抜いても問題はない。




