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復活の艦隊 太平洋戦記  作者: 柊遊馬


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第36話、遠距離の殴り合い


 スラバヤ沖の戦いを振り返った時、まず目につくものと言えば、昼間の遠距離砲戦における命中率の悪さだろう。

 いくら『昼間の戦いで、敵を誘い出し、夜戦における雷撃戦で一網打尽にする』という作戦どおりの展開だったとしても、限度があるのだ。


 もっとも昼の戦いにおいて、双方ともに魚雷を使用していた。特に日本海軍は、九三式酸素魚雷という長射程、大威力の魚雷に絶大な自信をもって戦いに臨んでいた。


 が、この魚雷もことごとく外れた上に、全体の3分の1が海面下を進む間に自爆してしまった。


 長い射程距離のある九三式魚雷だったが、無誘導の魚雷という兵器は、未来位置に向けて発射するものであり、距離が離れれば離れるほど、命中率は下がる。

 日本海軍はそれを数撃てばどれかが当たる理論でばらまいたのだが、そのうち無数の魚雷が自爆してしまえば、さらに命中率は下がる。


 結論から言えば、すべて外れたのだが、この自爆による水柱が、戦場での誤認を発生させるのだから、さらに始末が悪かった。

 複数の魚雷の爆発は、連合国軍が散布した機雷に命中したからと判断した結果、距離を詰めることは機雷原に突っ込むだけと突撃を控える事態を引き起こした。


 こうした埒のあかない砲撃と雷撃を行いながら、戦いは日本軍輸送船団に近づきつつあった。


 砲撃は繰り返され、一応の命中弾もあったが、不発弾だったりと運に見放される場面もあった。


 そんな中、ようやく魚雷の一本が命中する。吹き飛んだのはオランダ駆逐艦『コルテノール』だった。

 九三式魚雷は恐るべき破壊力を発揮し、駆逐艦の船体をねじ曲げ、轟沈させた。


「雷撃……日本軍の潜水艦か!?」


 ABDA艦隊旗艦『デ・ロイテル』。カレル・ドールマン少将は、ここにきて敵に対して誤認する。

 九三式魚雷の長射程を、連合軍側はまだ知らなかった。日本艦隊が隠密雷撃をしたことにまったく気づいていなかった。というより自軍の魚雷と同じ程度の射程と考えていたから、まさかアウトレンジで魚雷が発射されたと思わなかったのだ。


「転進だ! 一時離脱!」


 ドールマンは態勢を立て直すことを選んだ。活発に砲撃を繰り返す日本重巡洋艦の砲撃の中、艦隊は南東へ針路を向けた。


 すでに1200発もの20.3センチ砲弾を撃ち込んでいた『那智』『羽黒』だが、第五戦隊指揮官の高木 武雄少将は、敵が離脱しつつあると報告を受けると声を張り上げた。


「追尾せよ! 全軍、突撃せよ!」


 突撃命令を受けた第四水雷戦隊は、一斉に突撃に移った。快速を飛ばしてABDA艦隊を追尾した。

 そして必殺の魚雷を四水戦の『那珂』は距離1万2000メートルで発射。同じく追撃していた第二水雷戦隊の旗艦『神通』はさらに1万8000メートルで魚雷を発射、所属駆逐艦8隻は9000メートルまで近づいてから魚雷を放った。


 が、通常の雷撃位置から遠すぎるこれらは、ABDA艦隊が煙幕を使ってさらに針路を変えた結果、全て外した。


 一方、四水戦所属の駆逐艦は、さらに距離を詰めていた。第二駆逐隊の『村雨』『五月雨』『春雨』『夕立』は、距離7500メートルまで近づき、魚雷を投下、そして反転離脱した。

 だが、第九駆逐隊の『朝雲』『峯雲』は、さらに突撃を敢行した。ABDA艦隊が接近する2隻の駆逐艦に砲撃してくる。


 しかし第九駆逐隊はなおも突き進む。司令の佐藤 康夫大佐は、初回の遠距離雷撃が空振りに終わったことが腹に据えかね、水雷屋らしく肉薄突撃で今度こそ命中させてやろうと意気込んでいたのだ。

 実際、ABDA艦隊が展開した煙幕のせいで視界は悪く、距離を詰めねば狙いをつけるのも難しかった。


「距離5000!」

「魚雷、発射はじめっ!!」


 佐藤が怒鳴り、『朝雲』『峯雲』は予備を含めた最後の雷撃を行った。そして他隊が雷撃後、反転するのも構わず、『朝雲』と『峯雲』はさらに突撃を続けた。


 これに立ち塞がったのがイギリス駆逐艦の『エンカウンター』と『ジュピター』だった。双方、激しい砲撃戦を展開し、『朝雲』が被弾、一時航行不能に陥ったが、『峯雲』が英駆逐艦1隻を打ち負かし撃沈に追いやった。


 だがこの間に、ABDA艦隊主力は、戦域から離脱に成功した。周りは煙幕に加えて、日没により夜となりつつあったのだ。


「これ以上の追尾は危険か……」


 旗艦『那智』の艦橋で、高木は顔をしかめる。那智艦長の清田 孝彦大佐は言った。


「先ほど陸の方向で爆発がありました。機雷の可能性もあります」

「うむ、各隊を集結させよう」


 実は放ったこちらの魚雷の自爆だったのだが、自軍のそれがこうも自爆するものという認識はこの時はなかった。


 ともあれ、多大な砲弾と魚雷を消費した割には戦果に乏しい昼――夕刻の戦いは終わった。

 だがこの時も、日本軍――軽巡『神通』の水上偵察機が、ABDA艦隊と触接を継続しており、おおまかな位置情報は高木のもとに届いていた。


「船団をやらせるわけにはいかん。敵と船団の中間に、我が第五戦隊を置く」


 敵の進撃を阻み、船団の護衛自体は遂行している日本海軍だが、ABDA艦隊はまだ戦いを捨ててはいなかった。

 ドールマンは、比較的戦闘力を有していた米駆逐艦4隻に牽制攻撃を命じたのだ。


 命令を受けた米駆逐艦は反転し、煙幕を突破。水偵の回収作業中だった『那智』『羽黒』を発見すると魚雷を一斉に放った。距離9000メートル。この時2隻の重巡洋艦は、米駆逐艦に気づかず、さらに魚雷の接近にも気づいていなかった。


 あわや奇襲成功か――とはならなかった。

 米魚雷は届かなかったのである。射程9000はギリギリであり、それゆえギリギリ届かなかったのだ。

 かくて米駆逐艦4隻は全ての魚雷を使い切った。しかし、ドールマンは諦めない。


「敵は追尾してこない。船団の位置まで戻ったのだろう。では奴らのもとまで忍び寄って、船団を攻撃しようではないか」


 ABDA艦隊主力は反転。日本軍に夜戦を挑むべく突き進んだ。

 しかしこの動きは、神通水偵によって報告される。

 重巡洋艦『那智』の高木少将は、通信で命じた。


「各隊、夜戦に備え」


 夜は、始まったばかりだ。

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