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復活の艦隊 太平洋戦記  作者: 柊遊馬


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第33話、焦燥の太平洋艦隊司令部


「カントンがやられた」


 ハワイに司令部を置くアメリカ太平洋艦隊。その司令長官チェスター・ニミッツ大将は頭を抱えたくなった。


「ソック、どうなっている?」

「日本軍の攻撃です」


 チャールズ・ホレイショ・マクモリス作戦参謀は控えめな調子で答えた。


「姿は確認されていませんが、十中八九、日本の機動部隊と思われます」

「……だろうな」


 それ以外に、フェニックス諸島を攻撃する敵がいない。マクモリスは続けた。


「推測ですが、マーシャル、ギルバート諸島から、エリス諸島を迂回した敵機動部隊が、サモアに続き、カントンを叩いたものと思われます」

「……まだ敵の空母は発見されていないのだろう?」


 ニミッツは苛立ちを押し殺そうと必死だった。当たり散らしてどうにかなるものではないことを知っている。

 だがあり得ないことが起こると、人は得てしてカッとなるものである。


「日本の機動部隊は、オーストラリアとアジア方面にいるはずだ」


 彼らの進めるアジア侵略に、かつてハワイの太平洋艦隊を叩いた南雲の機動部隊は協力していると聞いていた。だから逆に、ハワイ方面に近いフェニックス諸島や米領サモアを空母機動部隊が襲撃するなど、信じられなかった。


「日本には我々がまだ確認できていない戦力があります」


 マクモリスは、慎重に言葉を選んだ。


「ハワイ、オーストラリア間の通商破壊に、未確認の空母が動いています。その空母戦隊が、不意をついてきた可能性があります」

「日本海軍の空母は主力に6隻。あとは小型のが2、3隻」

「情報部によれば最低10隻、他に空母補助艦があるようですが、未確認の空母は呼び出し符丁さえ不明でして」


 言い訳するように聞こえたが、事実である。情報将校のレイトン少佐も、そのように報告していた。


「このマスクされた空母……何隻いるかはしらんが厄介だ」

「サモアとカントンの我が軍は壊滅的です」


 マクモリスは低い声を出した。


「最低でも2、3隻の空母が存在していた……。もしかしたら4、5隻かもしれません」


 サモアとフェニックス諸島の距離を考えれば、同じ空母部隊の攻撃ではないだろう。ニミッツは苛立ち混じりの声を発した。


「いったい日本には何隻の空母があるんだ?」


 それに対する明確な答えマクモリスは持ち合わせていなかった。ニミッツは従兵にコーヒーを頼むと、息を整えた。


「ハルゼーを呼び戻そう」

「第16任務部隊をですか?」


 マクモリスの確認に、ニミッツは頷く。


「ウェーク島を奇襲できた。もしできるならマーカス島を攻撃させるつもりだったが……。日本の空母部隊がハワイ方面に進出する可能性がある。警戒任務に就かせよう」


 いまこの方面で近くて動ける空母は『エンタープライズ』しかない。


「日本軍がフェニックス諸島から北上してくることになれば、どこかで迎撃しないと」

「『エンタープライズ』だけで大丈夫でしょうか?」


 マクモリスが懸念する。ニミッツは片方の眉を吊り上げた。


「今はそれしか手はない」


 空襲された時点で、敵は空母を有する機動部隊であろう。だが実際にそれがどれほど戦力か確認されていない。複数の空母が動いている可能性は高いが、実際に何隻いて、どれほどの艦載機があるのかわからない。


「推定、推定、推定……。推定で敵の姿を実態より大きくしていないか? 人は想像力が豊かだ。だが恐れや不安は、敵を強く、多く想像してしまうものだ」


 ニミッツは、コーヒーを口に運んだ。


「悪い想像は、最悪を受け止めるための緩衝材だ。だが我々は軍人だ。きちんと現実を見据える必要がある。想像の悪魔に思考を狭めてはいけない。実際は、大したことがないかもしれない」


 虎の影におびえたら実は猫だった――軍人としてはそれは笑えないのである。


「しかし、最悪の想定はしておくべきかと」


 マクモリスは言った。ニミッツは口元を緩める。


「さすが、ソックだ。冷静になった上での最悪の想定は必要だ。……それで?」

「仮に、敵空母がハワイ方面に進出が確認され、第16任務部隊単独では防ぎきれない規模であった場合は、如何いたしますか?」

「そんなのは簡単だ」


 ニミッツは笑った。


「貴重な空母を温存する。エンタープライズには海域を離脱してもらい、本土にでも後退させるさ」


 今は戦力の回復が優先される。アメリカ本国では、兵器の大生産が始まっている。半年は無理でも、一年経てばある程度、二年ともなれば日本海軍と正面から戦える戦力が揃うであろう。


「その時までは、無用なリスクは回避するに限る。優先順位を間違えてはいけない」



  ・  ・  ・



 2月25日、ウィリアム・ハルゼー中将率いる第16任務部隊に、ハワイ近海、ジョンストン島方面の警戒命令が届く。

 ハワイ方面に日本軍の空母の進出の可能性とあれば、これを叩く絶好のチャンスとハルゼーは意気込んだ。


 第16任務部隊は、ミッドウェーに後退し、給油艦『サビーネ』から補給を受けると、部隊を南東へと移動させた。


 しかし、この時、日本海軍特破隊、第一戦闘群挺身攻撃隊は、ハワイの南、パルミラ環礁方面をさらに迂回。米本土から、オーストラリア、ニューカレドニアへと向かう航路のそばを通っていた。

 そして行き掛けの駄賃とばかりに輸送船を撃沈し、さらに北東へ針路を取り、ハワイを迂回するように移動したのであった。


 一方、日本海軍は、ハワイ方面への航空作戦であるK作戦を実行するため、その準備を進めていた。

 すでに作戦のための二式大型飛行艇はマーシャル諸島ヤルートにいて、途中で燃料補給を担当する潜水艦の移動を待っている。


 ハワイより北西にあるフレンチ・フリゲート礁が、その二式大艇の給油ポイントとなる。小規模ながら、二回目のハワイ空襲の時が迫りつつあった。

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