第32話、転移爆撃装置
陸上の滑走路を走っていたのに、突然海上の空母に現れ、飛び出すという感覚は、一種の緊張を伴う。
神明 光太郎少尉は、零式双発攻撃機の中央、爆撃手席にいて、突然の視界の変更にふと顔を上げた。
機体は飛び上がり、空母『大鶴』が後ろへと流れる。振り返れば、空母とその直率の松型駆逐艦――回収された駆逐艦の中で比較的小型のものに与えられた艦級――と、戦艦『土佐』を含む挺身攻撃隊の姿があった。
親父殿の旗艦だ――光太郎は視線を正面に戻した。
発進した特爆隊の零式双発攻撃機は6機。護衛につく九八式艦上偵察戦闘攻撃機は7機。それがカントン攻撃隊となる。
編隊を組み、飛行する攻撃隊。
『雷神1より各機』
無線機から、指揮官の菊丸 昌時大尉の声が響く。
『これより航空転移を行う。退屈な道中をすっ飛ばして、カントン上空だ。気を引き締めていけ!』
目的地の長時間クルーズをしなくて済むというのはありがたい。二つの発動機に挟まれて、常時うるさい中を数時間……。そんなのは一日一回でも充分だ。これが本日二回目の飛行であるから余計にそう感じる。
『転移離脱装置を、一番のAから二番のBにセット。間違っても九頭島に帰るなよ』
特爆隊の装備は常に最新の型。複数地点への転移が可能な離脱装置が備えられている。光太郎は操縦士に声をかける。
「武藤一飛曹」
「二番のB、セットしました、神明少尉!」
操縦士からの報告。よろしい、と光太郎は頷いた。
『雷神1より各機、転移開始!』
菊丸大尉の指示を受けて、武藤が叫んだ。
「雷神5、転移!」
一瞬だった。雲が減り、それまでと場所が変わったことを悟る。さらに転移先であった零式哨戒機が視界内に飛んでいた。その周りに、雷神隊こと零式双発攻撃機と、護衛の九八式艦偵隊がついている。
『成功だ!』
菊丸の声。斜め下方前方に、歪なリングのような環礁が浮かんでみえる。
「カントン島だ」
太平洋に浮かぶ小さなそれ。フェニックス諸島にある中ではこれでも一番大きい。そしてその北に、大きな滑走路を備えた飛行場がある。
『雷神隊、基地上空へ突入。攻撃を開始せよ!』
菊丸の号令がかかる。目標に関しては指揮官が指示をしない限りは、爆撃手が自由に選べる。そういう風になっている。
この零式双発攻撃機は、爆弾搭載量というくびきから外れた特殊機なのだ。
護衛の九八式艦偵のうち一個小隊が先陣を切って飛行場の上空に突入したが、敵機の姿はなかった。零式双発攻撃機はそれぞれわかれて、自分の飛行コース上にある地上物に狙いをつける。
五番機の光太郎は爆撃照準機を操作し、地上目標に照準線を合わせる。攻撃目標? 軍事施設、兵器ならば全てだ。
「雷神5、攻撃開始」
光太郎は宣言と共にボタンを押し込んだ。零式双発攻撃機の下面にある突起――砲のようなものが向いている先にあった飛行場関連施設が、次の瞬間、爆発した。
転移爆撃。
すなわち、砲弾や爆弾、各種武器を転移で飛ばす代物だ。
使用可能な弾は、九頭島の専用弾庫内。爆弾の他、転移で撃ち出す大砲まであるそこから、繋がった零式双発攻撃機の操作によって転移しそれが目標に命中する。
これが、零式双発攻撃機に爆弾搭載量が無用とされた理由。専用弾庫が空にならない限り、いくらでも爆撃や砲撃が可能という超兵器である。
機体に爆弾を積まなくてよいとなれば、双発戦闘機並みに比較的小型に作れた零式双発攻撃機である。これらが飛行場の上空を飛び、爆撃手が見かけた施設に、弾数を気にせず撃ちまくることができる。
格納庫、管制塔、燃料タンク、工場、その他目につくものすべて。
わずか6機の爆撃機。しかしそれらがもたらす攻撃は数十、百機を超える攻撃隊に匹敵する。
「……ずいぶんと馬鹿でかい滑走路だ」
さすが重爆撃機が運用できる大きさだけのことはある。滑走路に爆弾を連続して落として耕しつつ、目についた重機も吹き飛ばしておく。
「こんな辺鄙な島に、これほど大きい滑走路とは、何とも不釣り合いといいますか」
武藤が言った。光太郎は煙の裏で、難を逃れていたらしいB-17爆撃機に砲弾を撃ち込んだ。
「フェリールートの中間補給基地というくくりとすれば、こんなものだよ」
わらわらと米兵らしいものが逃げまどう。……こういうのを見ると、まとめて吹き飛ばしてやりたいと思えてくる。前世からの悪い癖だ。こう神様の視点で、下等な蟻を蹂躙したくなる気持ちというか。
「人の心などないんだ」
「はい? 少尉、何か?」
「何も言っていないよ」
爆弾を転移で送り込む。果敢に小銃で反撃している米兵から離れたところで爆発が起き、周りにいた七、八名ごと弾き飛ばした。
「隠れていればいいものを……」
届きもしない小銃を空に撃ち続けたところで、当たるものでもない。仮に届いたとしても、零式双発攻撃機の装甲は小銃では穴も開かない。
大馬力の冬風エンジン2基の出力は、最高速度600キロ以上を出しながらも、しっかり防弾も備えられるものを機体に与えた。
「ここを経由して、オーストラリアに重爆撃機が移動する。これはやがて東南アジアやニューギニア方面に進出する日本軍に爆弾を落とす」
南太平洋の航空フェリールート。この遮断は、これら爆撃機を前線に送られないようにすることに繋がる。味方が爆撃にさらされる回数が減らせるとなれば、敵の燃料補給拠点は叩き潰すに限るのだ。
零式双発攻撃機は、クルージングをするようにカントン島飛行場の周りを周回して、飛行場に関係する地上のものを全て、徹底的に破壊した。修復に使う重機や工具すら残さない勢いでの攻撃だった。
そこまでできるのも、一度の攻撃隊で徹底的な反復攻撃に耐えられるほどの弾薬備蓄があればこそである。普通の攻撃であれば、限られた数の機体、限られた爆弾で重要そうなものを選ぶしかない。
飛行場は煙に覆われ、視界が悪いが、光太郎の能力は、その煙も物ともせず標的を捉える。
かくてカントン島飛行場は、また一からの建造を必要とするほど徹底的に破壊された。米第40フェリー飛行隊もまた、機材を失い、現地にいた人員にも被害が出た。
攻撃を終えた特殊爆撃隊の零式双発攻撃機は、転移離脱装置で母艦――ではなく、九頭島飛行場へ転移、帰還するのだった。




