第31話、カントン島攻撃隊、発進
第一戦闘群挺身攻撃隊は、米領サモア近海から北上し、フェニックス諸島へ針路を向けた。
挺身攻撃隊旗艦、戦艦『土佐』。神明 龍造大佐は海図台を見下ろしていた。
「正直に言えば、我々が北を目指す理由は、単なるアリバイ作りに過ぎない」
「アリバイとは――」
先任参謀の諏訪 将治少佐は、地図上のサモア、その南にあるトンガ諸島。そこから時計周りにフィジー諸島、エリス諸島を順に眺めた。
「米軍に、我々を発見させるための……?」
「サモアを叩かれ、近辺の米軍はカタリナなどの飛行艇を飛ばして、索敵をするだろう」
神明は言った。
「そして米軍の勢力圏に、日本の機動部隊が存在する。そうなったら、彼らはどう動くだろうか?」
「近くに空母がいれば、叩こうとするでしょう」
「近くにいなくてもだ。我々がフェニックス諸島方面を目指しているとすれば、敵は襲撃を阻止しようと動かざるを得ない」
神明は顔をしかめる。
「米軍は空母機動部隊を使った一撃離脱を仕掛けた」
「ウェーク島がそれでやられたんでしたよね」
諏訪は腕を組んだ。
「彼らの機動部隊は高速です。襲撃の後に駆けつけたとしても、追尾は困難です」
「そうだ。だが事前に、どこが攻撃されるか予想できたなら、どうだ?」
間に合わないにしても、報復できるよう敵空母を猛追するのではないか。
「あくまで、正面衝突を避けるか、あるいは2隻しか空母がいないのを見て、各個撃破のチャンスと攻めてくるのか」
神明は呟く。諏訪は首をかしげる。
「どうなんです?」
「こちらがカントンを目指し、実際にそこが攻撃されたなら、もう無視はできないだろう」
アメリカ国民がそれを許さない。わかっていて防げないとは何事かと。――あるいは、報道管制して、その件は伏せるのか。しかし民間に伏せても軍人の士気は上がらないだろう。
「失礼します」
艦橋後ろ、転移扉から伝令が現れた。
「特爆隊、第二次攻撃隊、準備完了! いつでも出撃できます!」
「よろしい。空母『大鶴』ならびに九頭島飛行場に指令。特爆隊、出撃せよ」
神明が命じると、伝令は敬礼をして転移扉に戻っていった。
「先任参謀、カントン方面に送った零式哨戒機だが――」
「間もなく、カントンに到着する頃かと」
諏訪は腕時計を一瞥した。
「例の航空転移は、装置さえ完全なら問題はありません」
「これが成功すれば、搭乗員の疲労もある程度、軽くできる」
それでなくても、サモアを徹底的に空爆したために、特爆隊の搭乗員も少なからず疲労している。これから実施する航空転移が上手くいけば、行きの疲労はカットされるだろう。
前世では上手くやれていたので、問題はあるまい、と神明は内心呟く。
見張り員が報告する。
「『大鶴』より、零式双発攻撃機、発艦します!」
九頭島飛行場の滑走路でしっかり滑走した双発機が、転移板を踏んで、大型空母『大鶴』の飛行甲板に転移する。そしてあたかも空母から発艦しましたよとばかりに、滑走距離をしっかり稼いでいた零式双発攻撃機が飛び立つ。
「『迅鷹』より、直掩機が発艦!」
空母『迅鷹』――RMSカーリンシア、1940年6月6日に大西洋で沈んだ船を改装したものから、対空誘導弾装備の九八式艦上偵察戦闘攻撃機が発艦する。
零式双発攻撃機は、地上攻撃専門――一応、対空誘導弾による迎撃戦は可能――なので、もし敵戦闘機が現れるなら、九八式艦偵が撃墜するのである。
「これが上手くいけば」
諏訪は口を開いた。
「航空燃料の節約になりますね」
日本軍は何かとない。燃料も弾薬も、その他物資もろとも、様々なものが不足している。
「我が海軍は、正面戦力を揃えて満足してしまう傾向にある」
短期決戦思想により長期間の戦いに必要なあらゆる備蓄というものを軽視している。確かに考えるとおり、短期で戦いが終わるのであればそれでもいいのだろう。だがその希望的観測は、上手くいかなかった時取り返しがつかないのである。
「特破は、その辺り上手く回るように独自に兵站を整えているが……まあ、我々が上手くやれるなら、海軍もそのうちにうちのやり方を真似るだろう」
補給、兵站の話をしても『短期で戦争が終わる、終わらせるので問題ない』で一蹴してしまうのが海軍主流派である。
現実から目を背けているだけなのだが、そういう輩は説得に時間を費やすよりも、当人たちが苦労したほうが早い。……大抵、そういう時は手遅れなのだが、そうなるとわかっているのなら、こちらでも準備はしておくのである。
「南方の石油地帯を押さえれば、それで全て解決する――わけがないのだが、偉い人にはそれがわかっていない」
「……」
石油を運べ、そして運ぶだけでなく、用途に応じて加工しろ――ただ石油を手に入れて終わりではないのだが、日本海軍は正確なゴールポストの位置を理解していない。まったく愚かしいことだが。
その手の話を一から十まで説明してやっても、主な海軍将校は、兵站の話はー、と避ける。ドンパチやるだけが戦争ではないというのに。
「そういえば、特爆隊には神明さんのご子息がいるんでしたね?」
露骨に話を変えてくる諏訪である。神明は淡々と返す。
「養子だがな」
正確には拾ったというか、何というか。結婚もしていないのに、子供を引き取って息子として育てるなど、よくやると自分でも思う。……前世では、いなかったから特に。
「失礼だと思いますが、どうして引き取ったんです?」
「才能があるからだ」
より正しくいえば、この世界の男子にしては魔力が高かった。自身も魔術師である神明は、その能力がいつか現れるだろう異世界人との戦争に使えるという思惑があった。
将来の危機に対する備え。もっとも、その異世界人はこの世界では現れなかったが。




