第29話、機動空襲はお互いに
2月24日。日本占領下のウェーク島に、米軍機が襲来した。
SBDドーントレス急降下爆撃機37機、TBDデバステーター雷撃機9機は、F4Fワイルドキャット戦闘機7機の護衛を受けて、ウェーク島の基地施設を攻撃した。
捕虜がいる可能性のある兵舎は避け、それ以外に施設に爆撃を加える。
さらに重巡洋艦『ソルトレイクシティ』『ノーザンプトン』、駆逐艦『バルチ』『モーリー』が砲撃隊として、ウェーク島への艦砲射撃を実施。
その射撃については、精度においていまいちではあったものの、水上機ほか施設の損傷、燃料タンクを吹き飛ばすことに成功した。
さらに小型船である特設監視艇『第五富久丸』と『第一見宝丸』を撃沈した。
第8任務部隊あらため第16任務部隊、その旗艦である空母『エンタープライズ』で、ウィリアム・ハルゼー中将は機嫌がよかった。
マイルズ・ブローニング大佐は報告する。
「敵の被害甚大。反撃はありません。こちらの損害はSBDが1機やられたのみです」
「上出来だ。ジャップの警戒はアマアマだな」
ハルゼーは不敵な笑みを浮かべる。
「今はこれが精一杯だが、とりあえず顔面に一発殴って、トンズラだ。そうやってジャップを掻き乱してやるんだ」
合衆国は動き出した。戦艦、空母、その他様々な艦艇が戦争となって一気に増産が始まった。航空機もどんどん作り出されている。アメリカの国力はやがて日本を凌駕する。これは確信だ。
これらの兵器が揃った暁にはアメリカ合衆国は、日本に勝つ。必ずだ。
だが、それが揃うまでは、慎重に、しかし大胆にやっていかねばならない。少ない戦力でやりくりして、日本軍の攻勢をしのぐ必要があった。
中部太平洋のみならず、東南アジア、ニューギニア方面にも連中の魔の手が伸びている。恐るべきスピードでだ。
さらに最近では、オーストラリアとアメリカの連絡線を断ち切ろうとしているようだった。
だが日本の好きにはさせない。そのためにハルゼー率いる機動部隊が、日本軍拠点へのヒットエンドランを仕掛けているのだ。
「提督、サモアからの緊急通信を傍受しました」
通信参謀が報告した。ハルゼーの眉がぴくりと動く。
「なに、サモアだと?」
南太平洋海域、米領サモア。西洋列強に侵略され征服されてしまった場所の一つ。サモアのパゴパゴ港は、米太平洋艦隊の石炭補給基地が作られたのを皮切りに、アメリカの領土としてそこにある。
第二次世界大戦が始まり、先日、サモアを近代的な拠点とすべく兵と物資を輸送したのは記憶に新しい。現地のサモア人男性をアメリカ軍は訓練し、様々な任務につかせようとしていた。
その基地化の真っ只中に、緊急事態が発生したのだ。
「内容は?」
「はっ、我、日本軍の空襲を受く。その攻撃熾烈につき、救援を求むとのことです」
日本軍がサモアを攻撃!――ハルゼーはもちろん、幕僚たちは凍りついた。
「どういうことだ? 日本の機動部隊がサモアを叩くというのは!」
ハワイを叩いた南雲機動部隊が、ニューカレドニア島やフィジー諸島を差し置いて、サモアまで前進してきたというのか! あり得ない、いやあり得るのか? 何故なら南雲機動部隊は、ハワイを一度奇襲している。
「一気に上陸して占領しようってわけじゃないだろうが……」
「さすがにいきなりサモアはないでしょう」
ブローニングは首をかしげる。
「情報部も、ジャップにそんな大規模な動きがあれば、兆候をつかんで、我々にも対応させようとするはずですから」
その情報部すら掴めなかった動き。我が軍の情報収集能力について、どこまで日本軍に通用しているのかハルゼーは知らないが、まったく察知できないということもないはずだった。
つまり――
「あくまでヒットエンドランだろうな。そうに違いない」
さすがにサモア占領のための陸軍を用意しているとか、アメリカの情報部門が見落とすとは思えない。察知できないのは、そもそもそういう上陸計画がないということだ。
「しかし、胸くそ悪い」
せっかくのウェーク島奇襲成功に、すっかり水を差された気分だった。
・ ・ ・
アメリカ領サモアの最大の島、トゥトゥイラ島。
ここにはこの諸島随一の港であるパゴパゴ港が存在する。パンゴーパンゴーと発音するそれは、現地の言葉で『暗い暗い』という意味である。
アメリカ軍は、パゴパゴ港の強化と共にトゥトゥイラ島の防備強化を推し進めていた。
現在建設中の飛行場もその一つであり、3月中頃の完成を目指して工事が進められていた。
が、その日、日本軍機が襲来した。零式双発攻撃機とその護衛についた九八式艦上偵察戦闘攻撃機、合計30機による小規模空襲である。
だが、その攻撃隊がもたらしたサモアの米軍の被害は壊滅的大打撃となった。
米領サモア近海に進出したのは、特破隊第一戦闘群挺身攻撃隊であった。
その編成は以下の通り。
●特破隊第一戦闘群挺身攻撃隊
第一通商打撃戦隊:戦艦「土佐」、重巡「妙義」、駆逐艦「天雲」「青雲」
空母戦隊:哨戒空母「大鶴」、改装空母「迅鷹」
護衛艦:「桑」「桐」「杉」
前哨警戒隊:潜水駆逐艦「氷雨」「白雨」
特殊補給艦:「野間」
戦艦1、重巡1、空母2、駆逐艦7、補給艦1の小機動部隊である。第一戦闘群の他の艦は、オーストラリア東海岸付近での通商破壊任務を実施していた。
第一戦闘群挺身攻撃隊司令の神明 龍造大佐は、諏訪 将治先任参謀から、攻撃隊の成果を確認した。
「……これが本当であれば、素直に喜ぶところではある」
「専属の観測機を出してますから、戦果誤認は極少ないと思われます」
戦場での戦果確認は難しい。大体のところ自己申告と、それを見ていたもののクロスチェックで、極力正しく把握しようとはするが、なにぶん皆、戦場での興奮で細部を見落としがちだ。特に航空戦ともなると、相手の最後まで確認している余裕もなく、撃墜した、しかし実はギリギリ生きていましたということもしばしば発生する。
「地上の様子については写真もとらせてます。それで確認ができるでしょう」
「大いに結構」
神明は頷いた。
「零式双発は、使えそうだな」
「開戦時のウェーク島支援でもまずまずの戦果だったと聞いています」
諏訪は口元を緩めた。
「まず間違いないかと」




