第22話、バリクパパン沖海戦
ハルゼーの第8任務部隊が、サモアへの船団護衛にハワイを出撃した頃。
すなわち、1月11日。東南アジアでは、日本軍が蘭印作戦を開始させ、オランダ領タラカン、そしてメナドへ進攻した。
ボルネオ島北部の油田地帯であるタラカンへ上陸後、現地の抵抗も弱く、二日で攻略完了。セレベス島メナドには海軍部隊が進撃。日本初の空挺作戦をもって、こちらも占領する。
同月21日に、タラカンを制圧した陸軍第56師団の坂口支隊がバリクパパンへ上陸を目指して進撃した。
西村祥治少将指揮の第四水雷戦隊を中心戦力とする第一護衛隊は、16隻の陸海軍輸送船を護衛。途中、米潜水艦『スタージョン』、蘭潜水艦『K-18』や、オランダ軍のマーティンB-10爆撃機の攻撃を受けて、船団に被害は出たものの、バリクパパンへの上陸は行われた。
●第一護衛隊:指揮官、西村 祥治少将
・第四水雷戦隊:旗艦、軽巡「那珂」
第二駆逐隊:駆逐艦「村雨」「夕立」「春雨」「五月雨」
第九駆逐隊:駆逐艦「朝雲」「夏雲」「峯雲」
第二十四駆逐隊:駆逐艦「海風」「江風」 (第一小隊)
・「第三十六号哨戒艇」「第三十七哨戒艇」「第三十八号哨戒艇」
・「第十五号掃海艇」「第十六号掃海艇」
・「第十七号掃海艇」「第十八号掃海艇」
・輸送船16
一方、上陸阻止に動いていた連合軍、ABDA艦隊(米英蘭豪の連合軍)は、潜水艦部隊のほか、水上打撃部隊を派遣していた。
その戦力は、軽巡洋艦2、駆逐艦6の計8隻――のはずだった。
「おいおい、これは何の冗談だ?」
第59駆逐隊を指揮するポール・H・タルボット中佐は呆れ果てた。
ウィリアム・グラスフォード少将が率いるはずだった部隊は、一番有力な戦力であったブルックリン級軽巡洋艦『ボイシ』が座礁事故を起こし、次に有力だった旧式軽巡『マーブルヘッド』が機関トラブルを起こした。
結果、軽巡洋艦が2隻とも護衛の駆逐艦『ピルズベリー』『パルマー』と共に離脱してしまったのだ。
旗艦である『ジョン・D・フォード』の艦長は言った。
「中佐、指揮官はあなたです」
「……シット」
タルボット中佐は、旧式駆逐艦4隻――『ジョン・D・フォード』『ポープ』『パロット』『ボール・ジョーンズ』だけで、バリクパパンの日本船団を攻撃せねばならなくなった。
「間もなく夜だ。腹を括れ」
クレムソン級は、第一次世界大戦期に大量に作られた平甲板型の駆逐艦である。日本海軍で言うところの、特型駆逐艦以前の旧式だ。
常備排水量1190トン。全長95.8メートル。50口径10.1センチ砲を四門、533ミリ三連装魚雷発射管四基十二門(片舷六門)とこの時期の艦艇としては小兵もいいところである。
かくて、24日未明、四隻の旧式駆逐艦は27ノット前後でバリクパパン沖に突入した。
「奇襲魚雷攻撃をやる」
タルボットは命じた。
「魚雷で仕留める。砲は魚雷が使い切った後に解禁だ。それまで鉄砲は沈黙を守れ」
夜の闇の中、日本輸送船が1隻、激しく炎上していた。昼間、爆撃を受けた『南阿丸』である。
これの炎上と地上の煙で、視界状態はあまりよくない。しかし逆光のおかげで、米駆逐艦隊からは、停泊中の輸送船団を見分けるのは難しくなかった。
単縦陣で接近する米駆逐艦。その時、警戒していた第15号掃海艇が、南から侵入するタルボット隊に気づいた。
が、発砲はしなかった。その見張り員は、米旧式駆逐艦を、同じく四本煙突の巡洋艦『那珂』と誤認したのである。
「魚雷! 撃てぇ!」
先制の一打は、米駆逐艦隊がとった。タルボット中佐の命令を受けて、駆逐艦は雷撃を開始した。
だが、角度が悪く、全て外れた。
ここからは蜂の巣をつついたような騒ぎになる。ただし、第15号からの通報があっても、護衛隊司令、西村少将は、先に仕掛けてきた潜水艦の雷撃でないかと疑った。
この隙に、タルボット隊はさらに魚雷を発射。隊列は乱れ、それぞれが独自に走り回っていた。混乱の中、特設艦艇の『須磨浦丸』が轟沈し、『呉竹丸』『辰神丸』も魚雷の餌食になった。
第三十七号哨戒艇は、米駆逐艦を『那珂』と誤認し、攻撃を受けた。第三十六号哨戒艇もまた敵を『那珂』と誤認。ただしこれは攻撃を回避し難を逃れた。
そうこうしている間に、タルボット隊は戦場を離脱した。日本軍輸送船団は、前日からの攻撃も含め、大きな被害を受けた。
バリクパパン沖海戦は、旧式駆逐艦4隻が突入に成功し、第四水雷戦隊の護衛をかいくぐり、輸送船団にダメージを与えたが、すでに日本軍は上陸しており、バリクパパンを守ることはできなかった。
が、戦果に飢え、国民士気を高めなければいけなかったアメリカは、このささやかな一撃を、米西戦争のマニラ湾海戦以来の東南アジア海域の勝利として大々的に報道した。
なお、この結果に味を占めたABDA艦隊は、この戦いの再現を狙って、オーストラリア海軍駆逐艦『ヴァンパイア』、イギリス海軍駆逐艦『サネット』をマレー半島南部に送り込んだ。
のちにエンドウ沖海戦と呼ばれるその戦いは、軽巡洋艦『川内』を旗艦とする第三水雷戦隊が輸送船の護衛についており、事前に敵駆逐艦の接近を知った橋本信太郎少将は、夜襲を警戒し、これを迎撃した。
結果をいえば、英駆逐艦『サネット』が返り討ちにあい、船団攻撃もままならず、『ヴァンパイア』は撤退した。
一方の三水戦は、圧倒的に戦力で勝っていたものの、細かなところでミスもあり、敵を取り逃がすことになった。




