第19話、シンガポール行き増援船団への妨害
イギリス軍BM9船団を襲撃したのは、日本海軍特破第三戦闘群だった。
豪州遮断と、シンガポールへの増援阻止の任務を与えられた第三戦闘群は、空母『翔竜』を旗艦とし、九八式艦偵を展開し、船団を待ち受けていた。
その編成は以下の通り――
●特第三戦闘群:司令官:高橋 総二郎大佐
空母戦隊:空母「翔竜」「紅鷹」、水上機母艦「音戸」
駆逐艦「楓」「藤」「欅」
防空戦隊:駆逐艦「風月」「青月」「神立」「春霞」「青嵐」「夏嵐」
通商打撃戦隊
第三部隊:重巡「雲仙」、軽巡「奥入瀬」、駆逐艦「淡雪」「湿雪」
第四部隊:重巡「筑波」、軽巡「渡良瀬」、駆逐艦「細雪」「粉雪」
第33潜水戦隊:潜水母艦「初瀬」、駆逐艦「萩」「菫」
潜水艦:「伊720」「伊721」「伊722」「伊723」「伊724」
:「伊725」「伊726」「伊727」「伊728」「伊729」
:「伊730」
第三戦闘群は、空母戦隊とその護衛部隊、二つの通商破壊部隊、そして潜水戦隊の四つに分かれてスンダ海峡近くの海域を監視していた。
潜水艦は広く展開して獲物を待ち、さらに空中索敵として九八式艦偵が偵察、哨戒行動で船団発見に務めていた。
『輸送船6、軽巡洋艦1を発見せり!』
九八式艦偵からの報告に、空母『翔竜』を旗艦とする高橋 総二郎大佐は頷いた。
「おかわりが来たか。『紅鷹』に指令。攻撃隊を発艦させよ」
海軍兵学校46期。神明 龍造大佐の一期下になる高橋は、飛行船時代から航空に関心があった根っからの航空屋である。
先に攻撃した船団――BM9A船団には、『翔竜』の航空隊を送った。次に発見されたBM9B船団には、僚艦である『紅鷹』の航空隊を送る。
ちなみに、『翔竜』は、インディファティガブル級巡洋戦艦『オーストラリア』の回収・改装空母で、艦体延長、機関換装などを行い、排水量2万800トン、速力27ノット。艦載機搭載数は38機のスペックを持っている。
『紅鷹』の方は、客船であるSSコンテ・ロッソを改装。こちらは最大速力23ノット。艦載機30機の軽空母である。
これら2隻の搭載機種は、九八式艦偵で統一されているが、偵察や上空警戒などで攻撃隊の数を圧迫してしまう。
それもあって、偵察面の負担軽減に、水上機母艦である『音戸』が第三戦闘群空母戦隊に加わっている。
『音戸』は、1939年9月にドイツ潜水艦U-30によって撃沈された客船アテニア号を回収したものであり、排水量13000トン、全長160メートル、幅20.8メートルの艦体に九八式艦偵改造の水上機型16機を搭載している。
「紅鷹から発艦した機は?」
「15機です」
佐賀先任参謀の報告に、高橋は首をかしげた。
「滑空魚雷とはいえ、足りるか……?」
15機中、4、5機は対迎撃機装備だろうから、対艦攻撃ができるのは10機前後。敵は輸送船6に巡洋艦1。輸送艦があまりに大きいと怪しいが、それ以外ならば魚雷1本で致命傷を与えられる。軽巡洋艦であれば、当たればこちらも一撃で大破に追い込めるだろうが……ギリギリではないか。
「全滅は難しいかもしれませんが――」
佐賀は言った。
「残りは打撃戦隊か潜水艦に任せればよいと考えます」
「……それもそうだな」
高橋は首を振る。いかんいかん、つい航空機で全部やっつけてしまおうという思考になってしまう。
特破隊における航空戦力は、正面からの決戦ではなく通商破壊に重きを置いている。数で押した戦いに期待できず、1機辺りの攻撃力を伸ばす方向にシフトしている。
つまり複数機でかかり、外れ弾を出しつつ仕留める戦い方ではなく、一機で一殺。送り出した機体の数の分だけ敵艦を仕留めるのが最上というやり方である。
それで考えれば、15機の航空機は7隻の船団を沈めるのはお釣りがくる計算になるが、実戦はそんな理想通りにはいかないものである。
比較的近い第33潜水戦隊の潜水艦や第三通商打撃戦隊が、敵船団へと向かう。打ち漏らしがあれば、彼らがトドメを刺してくれるだろう。
「一応、翔竜の航空隊も準備させておこう」
A船団を攻撃し、帰還した第一次攻撃隊。これらは現在、格納庫内で整備と補給を受けている。
・ ・ ・
高橋の不安は、当たらなかった。
紅鷹攻撃隊は、きちんとBM9B船団に対して一方的な狩りをしてみせた。
輸送船に、遠距離の日本軍機を撃墜する能力はなく、さらに的の小さい滑空式誘導魚雷を防ぐ手だてもない。
護衛につく軽巡洋艦『ダナエー』も搭載する高角砲が届かず、また比較的小型の艦体は誘導魚雷の直撃に耐えられるものではなかった。
紅鷹攻撃隊は無傷で、BM9B船団を撃滅し、母艦へ帰投した。
急行する水上部隊だが、船団に対するトドメは必要なかった。……船団に対しては。
第三通商破壊戦隊、旗艦『雲仙』は、軽巡洋艦『奥入瀬』と駆逐艦『淡雪』『湿雪』と共に現場海域に向かったが、船団はすべて海に没していた。
だが――
「マ式電探に反応! 巡洋艦とおぼしき反応1!」
「まだ敵が残っていたか……」
第三通商破壊戦隊司令の古東大佐は、双眼鏡を覗き込んだ。見張り員が報告する。
「敵はタウン級大型軽巡洋艦の模様!」
1万トン級の大型軽巡洋艦――日本の最上型軽巡洋艦、15.5センチ三連装砲五基十五門の火力に驚いた英米が、その対抗艦を作ったが、イギリスにおけるそれはタウン級という艦となる。
基準排水量9100トン。全長170メートルと、最上型、米国のブルックリン級に比べてやや小さめ。しかし、15.2センチ三連装砲四基十二門で武装し、軽巡洋艦としては火力が高い艦艇となっている。
「だがまあ、パンチの威力なら、こちらのほうが上ではあるがね」
古東大佐は凄味のある笑みを浮かべた。
「砲撃戦用意! 目標、敵タウン級巡洋艦!」




